特別措置病室の理解とマネジメントを考える(2025年 改訂版)
骨太の方針2025では、医療用等ラジオアイソトープの国産化に必要な体制整備の取組が盛り込まれた。この医療用等ラジオアイソトープで特に注目されるのが核医学治療用の放射性医薬品だ。
参照:骨太の方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~が閣議決定される。原案との違いは?
以前、本ブログでは放射性医薬品の利用環境に関する記事を書いたが、その当時から環境はやや変わってきている。令和6年度診療報酬改定で、放射性医薬品を使用した治療がDPCで包括評価されることとなったのだが、高額な評価となったことなどだ。その影響もあって、がん診療連携拠点病院等を中心に一時的に管理区域にできる「特別措置病室」の運用が増えつつある。私自身、特別措置病室について調査・導入検討に関わる機会も複数あったので、あらためて特別措置病室について確認をしておきたい。
※本記事は「特別措置病室の理解とマネジメントを考える」を改定した記事とお考え下さい。
【お知らせ】医療政策ニュース解説ブログroute"hckn"の更新情報をBlueskyでお知らせします。よろしければ、フォローをお願いいたします。
特別措置病室とは? 導入と運用について
令和4年4月1日、医療法施行規則が改正され、放射線治療室と比べてやや要求水準を緩和した「特別措置病室」の整備基準が明確化された。その背景には、核医学の進歩に伴いニーズが高まっている一方で、必要とされる放射線治療室に対する要求水準が高いことや近年の建設コストが上がっていることで新設が困難であることや経営的観点からは病床稼働率への影響も考えられ、少ない現状にある。しかし、核医学治療での放射性医薬品については、従来と異なって呼気に放射線物質が出ないために放射線治療室ほどの厳格な要求水準を満たさなくとも、一定水準の防護措置、汚染防止措置が施された特別措置病室での入院治療を可能とされ、一般病室に必要な措置をとり、一時的に放射線治療病室のように運営できる特別措置病室の整備ができることとなった。
この特別措置病室の一番のメリットといえるのが、一般病室を一時的に利用できることだ(医療法における非密封放射性同位元素の使用に関わるもの、特別措置病室の設置に関わるもの、地方厚生局に施設認定に係るものなどの申請が必要)。ただ、個室であることが必要なので、差額ベットを一時的に転用することとなる。新たに放射線治療病室を作らなくてもよいこと、既存の病床を有効活用できること、現状では、一泊二日入院か二泊三日入院のケースが多く患者一人につき概ね4回の入院治療となることから、診療単価も高く利益を出しやすく、運用次第では病床稼働率を大きく下げることにならないため、病院経営の観点からすると効率もよいと言える。
なお、初期投資としては、220万円くらいが目安だが、課題が2点ある。「排泄物の管理」と「清掃委託費」だ。
放射性医薬品を投与された患者は、尿に放射性物質が含まれて排出される。そのため、RI排水処理・貯蔵タンクに収集されるが、患者数等にもよるがすぐにタンクの容量がいっぱいになってしまう。そこで、放射性物質が含まれる尿を保管するためのスペースやディープフリーザーなどが必要になることもある。多くの病院では特別措置病室は2室くらいだと思うが、今後対象が拡大していくことを考えると、4−6室を検討する必要も出てくるだろうが、保管に関する場所等の課題が出てくる。
もう一つの課題が特別措置病室を利用した後の清掃の委託費だ。物価高・賃上げの流れもあり、委託費は高額になっている。以前、特別措置病室の清掃委託のお見積もりをお願いしたところ、40万円/回ということもあった。放射医性医薬品による核医学治療については、十分に清掃委託費を吸収できるくらいの評価はあるが、想定していたほどの利益を見込めないこともある。そこで、運用当初は清掃委託をお願いして、ノウハウを学び、一定期間過ぎた頃にスタッフで清掃をすることも考えたい。
診療報酬の側面から
令和6年度診療報酬改定で、放射性医薬品を用いた核医学治療はDPCで包括評価されることとなった。その点数は、結構高いことに驚かさせれる。先にご紹介したように経費がかかること、リスクもあることなど経済的な観点からもいえることだが、なによりも国内で放射性医薬品を利用した核医学治療の環境整備が不十分であることからのボーナス的な要素もあるのではないかと勝手に感じている。
なお、DPC対象病院においては特別措置病室の加算は出来高算定となる。放射性医薬品の投与に関わる管理料も同様に出来高算定だ。
実際の荒いシミュレーションは以下の通り。令和6年度診療報酬改定前までは高額薬剤判定で出来高算定とされていた。DPCの対象となった後、評価は引き上げられていることがわかる(機能評価委係数等によるので注意)。なお、一般病床としても運用できることで経営的にも大きなメリットがある。
ただし、気を付けたいこととしては、特別措置病室を作れば、利用する患者が勝手に増えるわけはないということだ。まずは、近隣で特別措置病室を有する病院の存在の有無を確認し需給を確認すること、そして地道な活動だが、地域医療連携の取組を徹底し、やり続けることがまずは必要だ。周囲の医療機関に特別措置病室があることを知ってもらうこと、対象となる患者のイメージ、紹介元には必ず患者は帰ってくることなど理解を深める活動が求められる。
そして、連携全般でよく見落としがちなのだが、外だけではなく、中、すなわち院内連携・院内広報活動も改めて徹底しておきたい。繰り返しになるが、作れば勝手に患者が来るということはない。知ってもらうための取組までが特別措置病室のマネジメントだといえる。