令和7年6月9日、第7回 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会が開催されている。約1年前から始まった本検討会は、昨年(令和6年)から施行された精神保健福祉法改正に合わせてできた検討会で、精神障害に対応した地域包括ケアシステムに向け議論が重ねられてきている。今回の検討会では、精神疾患患者に対する透析医療をはじめとする維持・慢性期の医療提供の課題や相談支援体制の在り方等について議論されている。


参考:精神科診療所の「かかりつけ精神科医機能」を明確化する議論がはじまる(第3回の議論)


 ところで、令和9年度から開始される予定(医療法改正が本日時点では未成立)の新たな地域医療構想では、精神科領域も含めて検討されることになっている。それは病床の役割分担だけではなく、外来・在宅においても同様に。もともと精神保健福祉法では地域移行の促進が求められていたこともあり、令和6年度診療報酬改定では、地域移行機能強化病棟の要件を緩和・精神科地域包括ケア病棟入院料、精神科入退院支援加算を新設・療養生活継続支援加算の見直しなど、地域移行と受け皿の環境整備に関する評価を強化したところ。とりわけ注目された精神科地域包括ケア病棟入院料だが、現状は低調だ。




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精神科地域包括ケア病棟入院料の最新の現況を確認

 令和7年3月届出時点では全国に41施設が確認されていた。ところが、令和7年4月届出時点では35施設と6施設の減少となっている。




 本年4月に公表されている令和6年度診療報酬改定結果検証部会からの精神領域の状況では、人材確保が困難なことを主な理由として、届出していないという意見が確認されている。


参照:令和6年度診療報酬改定の結果の検証と次回改定への影響は?~精神医療について~


 改めて精神科地域包括ケア病棟入院料の主な施設基準・要件を確認してみる。




 人員確保の観点から非常に厳しい要件であることが分かると共に、診療計画書の作成や多職種が共同して支援を行うことから経過記録等の作成・共有などの間接業務も多くなることが考えられ、負担が思っている以上に重くなる。限られた人員で運営していくことを考えると、こうした間接業務時間を効率化するためのDX対応やレギュレーションの見直しが必須になる。さらに言えば、精神科救急急性期医療入院料など他の特定の入院料を算定していた病棟からの転棟・再入院時における期間通算の規定のルール等を正確に理解し、個々の患者の入院歴や算定歴を把握した上で、適切な算定を行うことは非常に煩雑な作業ともいえる。


 精神障害の地域移行は病院側の努力だけで達成できるものではなく、患者の病状や重症度、社会的背景、地域医療・福祉資源の整備状況に大きく左右される側面もある。特に地域で課題となるのが障害福祉サービスの充実度だが、地域資源が乏しい地域では、病院が積極的に退院支援を行っても、困難なケースが多く、個々の病院の努力だけでは限界がある。

 それらから考えると、今回設定された診療報酬点数からは、既存の病棟構成や運営体制で自院の役割を果たせていると考える病院にとっては、いわゆる手間をかけてまで新たに精神科地域包括ケア病棟を導入する積極的なインセンティブは現状では見出しにくいと思える。

 精神科地域包括ケア病棟入院料の今後の立ち位置を考えていく上で、新たな地域医療構想いおける精神科領域の内容の検討・施行は気になるところだが、精神科領域については「十分な期間」を設けて検討していくこととなっている。



参照:病床機能報告)回復期機能→包括期機能、医療機関機能報告)高齢者救急等機能→高齢者救急・地域急性期機能へ。基準病床数は必要病床数を上限へ


 受け皿となる地域資源の環境整備、連携・調整業務に関するノウハウの蓄積、その業務を専門的に担うスタッフの育成など、段階を追って着実に一つひとつの取組を丁寧に積み上げていくことが今は必要な時期だろう。そして、先に述べたように精神科領域における人材不足を補えるDX化なども必要であり、診療報酬上の後押しはコスト削減が難しく、DX化などの新たな投資が必要ともいえる領域であることからもっと必要だと感じる。現状のままでは「十分な期間」は相当に長くなる。