健保組合の苦境から読み解く経済と医療のつながり

5/02/2022

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この週末、健保組合(主に大企業や業界団体で設立、厚生労働大臣の認可を受けて運営する公的医療保険。会社員とその家族が加入するが、他の協会けんぽや国民健康保険と比べて、大企業等の場合は社員の平均年齢も低いため保険料率が低めであり、保健事業等の自由度が高い)の苦境が各メディアで伝えられている。


健保組合7割赤字 全体赤字額2770億円 来年度以降急激な悪化か(NHK)

健保の平均保険料率が過去最高9.26% 長期的な医療費増が影響(毎日新聞)


予算の見通しは以下の通り。


2020年度からはCOVID-19感染拡大の影響もあり、大手企業でも売り上げ減少に伴う事業の縮小や倒産もあり、給与水準が下がったケースが多く、保険料収入が減少となっていた。その一方で、支出(保険給付、保健事業費、前期高齢者納付金と後期高齢者支援金の拠出金など)は保険給付への影響となる「受診抑制の影響」「手術控え」「救急搬送件数の減少」、そして保健事業となる「健診の減少」もありかなり抑えられていた。しかし、拠出金についてはその逆、増加の傾向が続いている。また、あまり知られていないが、COVID-19感染に関する検査・治療については健保が全額負担している。                     

この拠出金について健保組合連合会は、2019 年 9 月「今、必要な医療保険の重点施策 -2022年危機に向けた健保連の提案-」として危惧を表明し、早期の対策を求めている。2022年度から団塊の世代の皆さんが75歳の後期高齢者になるのが始まるのに向けたものだ。今回ご紹介したメディアの記事にもあるように、急激な悪化とはこの表明の中で既に語られ、想定よりも前倒しでその問題が起きようとしている。


健保組合の財政を健全化するには、給与や賞与をあげることだが、折からのCOVID-19感染拡大の影響もあり、さらに海外での急激な経済回復やウクライナ等の地政学的リスクの影響もあって円安が続いており、そう簡単に給与等をあげることはできない経済情勢だ。さらに、保険料率の上昇が大企業の社員を中心に影響を与え、可処分所得が減り、景気に悪影響を及ぼすこととなる。かつて、安倍政権の時代に「トリクルダウン理論」についてよく議論された。トリクルダウンとは、富裕層がさらに豊かになることで経済活動が活発になり、徐々に低所得層にまでその豊かさが浸透していく、という考え方。その是非についてはここではあえて踏み込まないが、トリクルダウン理論を推進する一つの論拠がここにある。
なかなか給与等が上がらないのであれば、保健事業である健診や未病対策や重症化予防に向けた取組を強化していく他にない。2040年からの本格的少子高齢社会に向けた取組の必要性は、健保財政の苦境からもよく伝わってくる。
医療は景気に左右されない安定業種、などとこれまでよく言われたきた。しかし、世の中がすべてつながる循環社会である限りは、必ず接点があり、影響が出てくることを改めて理解しておきたい。非医療職者の皆さんも一緒に、未病・重症化予防に努めていくような取組を創りあげていく世の中にして、国民皆保険が永続できるように、一人ひとりが意識して取り組んでいく、まさに国民の総合力が問われる状況になってきている。

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