令和7年7月31日、入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催されている。今回は、主に入院する高齢患者をイメージしたACPや認知症患者への対応、医師の働き方改革と外科医の集約化・均てん化・定着化について議論され、中間とりまとめ案が示された。今回の議論を反映させて、今後中間とりまとめが行われ、中医協での本格的な議論がはじまる。


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ACPの環境整備は進んでいるといえるが、実践には課題がある

 令和6年度診療報酬改定では、高齢者救急などが増えてきている現状や、早期退院に伴い医療依存度の高い通院治療患者が増えていることを踏まえて、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の策定をすべての入院料、地域包括診療料/加算を届出る医療機関に拡大したところ。


参照:ACPとは、患者の病状やおかれた環境で変化していくもの。外来、入退院の場面などでも適宜行い、共有する環境を創りだすことを。


 ところで、ACPと似た言葉にリビング・ウィル(LW)という言葉がある。LWは、ACPより更に踏み込んだ具体的な医療処置(例えば延命治療の中止の希望など)などまで事前に意向を伝えるもの。


参照:ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とLW(リビング・ウイル)


 対象を拡大したこともあり、ACPの指針の環境整備は前回調査よりも「僅かに」進んでいる。ただその一方で、定期的な見直しや実施、連携先からの情報連携は決して高いものとは言い難い結果だったと言える。






 地域包括診療料/加算においても同様の傾向だといえる状況で、環境整備はされているものの、実践に置いては課題が有ると考えられる。




 形だけで終わらせないために、どのように実行力を図っていくかが次回改定では課題となる。まず考えられることとしては、地域医療連携の中でACPに関する情報を加えるような書式にすることであったり、定期的な意思確認のタイミングを明確にすること、電子カルテ情報共有サービスなどでACPを行った日時を記録して一定期間経過したらアラートを出す、などなるべく診療報酬で要件を細かに設定するよりも、惰性的にならないように行える環境を整備していくことが必要に感じる。


身体的拘束の実施率の可視化に注目

 令和6年度診療報酬改定では、身体的拘束の最小化の取り組みを入院料の施設基準に盛り込んだ。その結果もあってか、多くの病院では身体的拘束の実施状況は10%未満。ただ、回復期リハビリテーション病棟や療養病棟等では20%以上実施が3-4割ある。また、身体的拘束の時間や方法についても確認しているが、治療室・地域包括医療病棟・療養病棟では常時身体的拘束をしている割合が高い事がわかっている。回復期リハビリテーション病棟では、リハビリテーションがあるため常時ということは少なく、一時的もしくはクリップセンサーを利用している。
 なお、治療室の場合は一時的な入院というケースが多い。そのため、身体的拘束を実施する日数が長くなるのは、地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟・療養病棟等となっている。
 





 こうした実態からわかることは、医療依存度の高い認知症を有する患者が多く入院していると考えられる病床での実施が多く、長い、ということだろう。なお、療養病棟では中心静脈栄養の実施との関係性もあることにも注目したい。




 そこで合わせて注目しておきたいのが認知症ケア加算だ。身体的拘束を実施した場合、点数は減算される仕組みとなっている。状況を確認してみると、認知症ケア加算で身体的拘束を実施した場合の減算については、減少の傾向が鮮明になっている。なお、認知症ケア加算の届出自体は増加の傾向にある。




 ところで、入院料の施設基準では身体的拘束最小化のための指針の作成を求めている。9割を超える医療機関で指針の策定はできている事がわかっている。今回の議論では、その実践に関する取り組みのベストプラクティスの紹介、身体的拘束に関するデータの可視化について紹介された。特に注目されているのが、身体的拘束に関するデータの可視化だ。DPCの地域医療係数ではデータ提出・公表が求められる医療の質指標の中に身体的拘束の実施率が含まれている。




 身体的拘束を予防・最小化するための具体的な取組に関する調査(n=2,673)を行われているが、職員向けの身体的データの可視化に取り組んでいると回答した施設は47.2%であったが、対外的に公表している施設は10.7%に留まったという結果だった。

 身体的拘束については、その定義自体をもう少し明確にするとともに、病床機能によって入院患者像が異なることから、定義の考え方を柔軟にすることも必要になるのではないだろうか。また、認知症ケアチームの取組が身体的拘束の減少に大きく貢献できていることもわかってきている。こちらも、病床機能に合わせた要件を設定することや、近隣の医療機関の認知症ケアチームと連携・支援を受ける形での対応なども考えられるのではないだろうか。身体的拘束の実施率等の可視化も話題に上がっていることから、年に一回程度の公表などを入院料の施設基準で盛り込まれることも考えられるかもしれない。

 ところで、病院では医療安全対策の一環としてクリップセンサーや離床センサーなど利用されている。しかし、実態を見てみるとクリップセンサーはよく外れてナースコールがよくなるし、患者が看護師に気を使ってなのかマットセンサーを避けようとして転倒してしまったり、離床マットセンサーの内部で断線が起きてしまうなどのトラブルは多い。IoTサービスに合わせた業務フロー(機器に利用する人があわせる)ではなく、通常業務にIoTサービスを合わせる(利用する人に機器をあわせる)運用上の工夫が必要だ。


地域医療体制確保加算と医師事務補助体制加算の成果をもっと最大化するには?

 診療報酬では、救急搬送受入件数が2,000件/年を超えるなど、地域の基幹・中核とも言える病院の勤務医の負担軽減の取組を評価する地域医療体制確保加算が設けられている。地域医療確保体制加算を算定している病院としていない病院とを比較すると勤務環境の改善に向けた現状把握・分析を実施している割合が高い事がわかっている。
 その一方で、休日・時間外労働が多くなる傾向にある。地域の基幹・中核病院となるためやむを得ないところだ。ただ、休日・時間外労働の平均値及び最大値は減少傾向にある。これは、地域医療体制確保加算が成果を上げている証だと言えるだろう。





 たしかに成果が出ているが、気がかりなのは実績要件だ。地域によっては、人口が少ないながらも基幹・中核病院としての役割を果たしている病院も有る。また、地域の事情でケアミックス体制となっていることもある。令和6年度入院・外来等における実態調査では、急性期病院を対象とした質問に回答した病院(n=1,115)のうち、地域医療体制確保加算を届け出ていた病院は48%、地域医療体制確保加算を届け出ていない病院(n=582)の98%は、救急用自動車・救急医療用ヘリによる搬送受入件数が年間2000件未満という結果だった。令和8年度診療報酬改定では、新たな地域医療構想との整合性を取るべく急性期機能を2区分設定することを検討する。その中の議論でも、実績件数だけではなく、地域の実情を踏まえた地域シェア率の考え方を適用することも検討されている。この地域シェア率の考え方なども地域医療体制確保加算では注目されるところだ。


参照:急性期機能を「救急搬送」・「全身麻酔手術」・「総合性」の評価指標で。救急医療管理加算、救急搬送との関連性に着目


 また、勤務医の負担軽減として評判の良い医師事務補助作業体制加算だが、届出状況はやや横ばいの状況。目下の課題は職員の定着にある。医師や看護師といった専門職ではないため、他産業との処遇等の競争になっている。そのため、処遇や人事評価制度などを実施するなどの取組が行われている。






 勤務医の負担軽減と生産性向上に医師事務作業補助者は必要だ。他産業の処遇状況などとの比較で診療報酬の設計をしていくこと、人事評価体制に関する要件の設定など今後検討されるのではないだろうか。

 医師や看護師と異なり、医師事務作業補助者は患者と直接接する場面が少なく、患者からの患者の言葉などをかけられることが少ない。感謝の言葉をかけられるのは、医師を始めとするスタッフ一同で、感謝の言葉はやる気にもつながる。人事評価制度といった組織全体としての仕組みも大事だが、日頃の感謝の思いを言葉でわかるように伝えることが現場レベルからできる定着の取組になる。それは、医師事務作業補助者に対してだけではない。


診療報酬を通じた医師偏在対策の支援と集約化・均てん化のバランスをどうやって図るか

 昨年取りまとめられた医師偏在対策の総合支援パッケージ、それを受けての骨太の方針2025では医師偏在対策、減少傾向にある外科医に対する支援を行うことが盛り込まれた。




 先日の「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(案)」において、消化器外科医の減少に伴い、がんの手術療法の集約化の必要性が記載されている。


参照:2040年に向けたがん医療提供体制の3本柱の戦略と第4期がん対策推進基本計画の中間評価に向けた議論


 実際の手術の状況を見てみると、入院における臓器別手術件数の推移からは、食道・腹部の手術件数が最多となっており、2020年に減少したものの、2015年以降増加傾向にある事がわかっているまた、医療機関の所属消化器外科医師数が多くなると、消化器外科手術件数が多くなる傾向(属消化器外科医師数が1~2人の医療機関の多くは、年間の手術件数が100件未満であり、3~5人の医療機関でも、半数以上は年間手術件数が500件に満たない)にある。
 また、手術の質的側面、すなわち難易度の高い手術でみてみると、大学病院が多くの実績を誇っていることがわかる。




 こうした観点からは、外科医の処遇のための原子を確保するための手術実績の高い医療機関に対するより高い診療報酬上の評価を設定すること、一方で、近隣の医療機関が難易度の高い手術を行う医療機関への紹介と退院後のフォローを評価する横の連携の評価など今後考えられる。

 9月からの各論の議論に向けに向け、入院医療・外来医療に関する主たるテーマとなる議論をほぼ終えた。新たな地域医療構想との整合性、かかりつけ医機能報告制度との整合性、逼迫する病院経営に対する支援的要素、医療DXの推進、働き方改革など大まかな方針が見えてきた。