令和5年12月08日の第571回中医協総会の資料が公表されている。テーマは、医療DX・人生の最終段階のケア・明細書・生活習慣病対策・処遇改善・入院時の食費となっている。ここでは、最終段階のケアについて確認する。
人生の最終段階における医療・ケア、すなわち人生会議(アドバンスト・ケア・プランニング:ACP)については、厚生労働省から一般市民に向けての啓発活動も積極的に行われている(参照:人生会議してみませんか?)。ちなみに、ACPと似た意味・言葉でLW(リビングウィル)というものもあるが、LWとは生前の意思表示といわれるもので、延命治療などの対応について事前に文書で意思を示しておくもの。ACPは、患者本人の人生観や価値観を医療・ケアに反映していくもので、LWと大きく違うのは、患者の病状やおかれた環境によって変化する本人の意思に適宜対応していくべく、定期的にACPは行われるもの、ということだ。
参考)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とLW(リビング・ウイル)
ACPの実施状況を見てみると、死期が近づいている時に行われている状況が多いことが分かっているが、本来の在り方から考えてみると、入院が必要な病に罹患した時や患者・家族からの相談があった時など、なるべく早い段階が好ましいとされるが、病気によっては「死」を身近に感じさせるのは、かえって治療に影響を与えかねないこともあり、難しいといえる。年齢や病気によって、伝える対象や伝え方は吟味する必要があるだろう。私事だが、本年7月に父を亡くしたが、ACPの必要性についてはわかっていながら何も行っておらず、結果として、意識をなくしてから約半年間を寝たきりで過ごすことになり、その一方で母と妹は延命治療の継続を最後まで望み続ける、という経験をした。HCUに長く入院していたが、その間にも何度か若い患者が入室してくる場面を目にして、倫理・医療経済・医療従事者の皆さんの負担とトリアージについて深く考えさせられることがあった。とはいえ、「死」を題材に日常会話をするのは難しい。そこで感じるのは、日常のかかりつけ医や主治医との対話の時間をしっかり確保することの必要だ。
今回の議論では、入院に比べて外来でのACPへの対応遅れていることを踏まえ、かかりつけ医機能を有する医療機関に対してのACPへの取組を要件に加えることが提案されている。命に係わる病気もさることながら、今後は認知症を有する高齢者も増えてくることが考えられるため、より早い段階からの介入が重要になってくるといえる。認知症対応力向上研修を受講した医師が所属する医療機関では、ACPに取組むケースも多いことが明らかになっていることもあり、地域包括診療料/地域包括診療加算での要件の追加など考えられるだろう。
なお、入院においては地域包括ケア病棟・療養病棟等の回復期・慢性期では要件に入っていることもあり、取組は進んでいるといえるが、施設等からの高齢患者の緊急搬送が多いとされる急性期一般入院料1を含む急性期一般入院料全般での要件化を検討する方針だ。
しかしながら、救急搬送されてきてからのACPの実施は困難であることもありうる。実際に、施設から在宅医療を提供する医療機関に対するACPに関する情報提供は、在宅医療を提供する医療機関から施設に向けてのACPの共有と比べて少ない。
そこで、在宅医・訪問看護師・介護支援専門員によるICTを用いた情報共有を行うことで、訪問診療を行っている患者が入院する場合に、診療情報及び患者の生活の場における情報を入院先のスタッフが詳細に把握することができ、ACPに関する情報も含めて、在宅~入院と患者の意思を反映した医療・ケアが一貫して提供可能となる。こうしたICTを用いた評価及びACPに関する情報共有を評価していくこととなりそうだ。
先にもお伝えしたがACPとは、適宜行い、その時その時の患者の意思を反映していくことが必要だ。在宅からの入院、そして治療を終えた後の退院といういわば一大イベントは、患者の意思が大きく変わる可能性もあることから、入退院のタイミングでの確認と情報共有、特に介護支援専門等に対する情報提供は重要になる。そこで、診療情報提供書の様式の見直しも検討されている。
今回はトリプル改定ということで、障害者サービスも関連することを踏まえると障害者及びその家族とのことも必要になってくるだろう。「死」を身近に感じることからはどうしても距離を置きがちになってしまうもの。早い段階からのACPでは、「死」を直接的に捉えて考えることよりも、人生の中で成し遂げたいことや希望・夢などポジティブなことから考え、そうしたことを実現する生き方・価値観を体現するために医療・ケアができることは何かを一緒に対話して、創り上げていくことから始めていくことが必要だろう。