下り搬送の評価の方向性が明らかに。集中治療室での負担軽減と医療の質の維持にTele-ICUの利活用の評価を検討へ。

12/07/2023

r6同時改定 遠隔医療 急性期 経営 働き方改革 入院医療

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 令和5年12月06日、第570回中医協総会が開催された。テーマは、救急医療・高度急性期入院・感染症対策となっている。ここでは、救急医療と高度急性期入院について確認してみよう。

〇救急医療 ~下り搬送の評価、救急医療管理加算の見直し~

来年度診療報酬改定では、高齢患者の急性期入院が度々取り上げられ、議論されている。例えば、急性期入院においてもリハビリ機能を強化すること(参照:集約化に逆行しない高度急性期の整備と重症度、医療・看護必要度に関する見直しのポイント整理)や地域包括ケア病棟での救急搬送の対応に対する評価の在り方の検討(参照:地域への接近強化、地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟の質的向上をどうやって評価するか?)がそれだ。地域で限られた貴重な救命救急・高度急性期という資源を有効活用するための様々な施策が今回の診療報酬改定の議論では話し合われている。こうした一連の議論のきっかけとなったのが「下り搬送」だといえる(参照:診療報酬とは、医療計画を下支えするもの~5事業に対する診療報酬での評価の方向性を読む)。今回の中医協では、その下り搬送について、厚生労働省から具体的な実例をベースにした以下の6つの要件が提示され、その評価について話し合われた。

下り搬送に関する要件案)

・搬送元医療機関における救急搬送の受入実績が一定程度以上あること。

・搬送元の医療機関の救急外来から直接又は入院後速やかに転院搬送を行い、搬送先の医療機関に入院した場合を評価の対象とした上で、救急外来から直接転院した場合をより高く評価すること。

・搬送元医療機関において、受入先の候補となる各医療機関が受入が可能な疾患や病態について各医療機関や地域のMC協議会と協議を行った上で、候補となる医療機関を事前にリスト化しておくこと。

・搬送先からの相談に応じる体制及び搬送先で患者が急変した場合等に再度患者を受け入れる体制があること。

・転院先の医療機関等と定期的に救急患者の受入について協議を行うとともに、その際に搬送した患者のその後の診療経過について共有を受けていること。

・搬送元医療機関と搬送先医療機関が特別の関係にない場合に、診療報酬上の評価の対象となること。




なお、この6つの要件は搬送元に対する評価である「救急搬送診療料」、搬送先に対する評価である「夜間休日救急搬送医学管理料」、地域包括ケア病棟や療養病棟等を搬送先として評価する「急性期患者支援病床初期加算」に対してもの。


提案されている要件を見るとわかるが、「定期的に救急患者の受入について協議を行う」「搬送した患者のその後の診療経過について共有を受けている」といった文言から、ただ単に搬送の有無だけを評価とするのではなく、平時からの連携・情報共有が求められていることが分かる。理想的な連携ができそうだが、地域の医療資源はそれぞれであり、診療報酬の要件で一律に決められるものでもないように考えられる。そこで、地域医療構想調整会議をはじめとする協議の場の必要性だ。今後、どういった議論になるかはわからないが、既に地域医療構想調整会議は地域医療の協議の場として共通理解されていることもあるので、有効活用するような要件も可能性として考えられるではないだろうか。
また、この下り搬送についての課題として、搬送元となる病院の在宅復帰率に影響が出て、急性期一般入院料の要件を満たせなくなる可能性についても指摘されている。下り搬送患者については、在宅復帰率の計算から除外されることになるだろう。


救急医療については、これまでも診療報酬改定の都度見直しが繰り返されてきた救急医療管理加算についても議論されている。ポイントは大きく2つ。まずは、救急医療管理加算1を算定する場合と加算2を算定する場合の基準の明確化(例えば、JCSやNYHA分類で〇度以上など基準を決めるなど)。



これまでも、JCSスコアが低い患者は重篤でないケースが多いなどの報告があったが(参照:短期滞在手術等基本料と救急医療管理加算、実績に基づいた見直しの方向性)、JCSスコアだけで患者の状態や重症度を把握できるわけでもないため、今後の議論の進め方に注目が集まる。そしてポイントの2つ目は救急医療管理加算2の「その他の重篤な状態」の扱いだ。加算を届出る病院の中には届出のほぼすべてが「その他の重篤な状態」というものもあった。


こうした現状から「その他の重篤な状態」を削除するのか、それとも「その他の重篤な状態」で算定する患者に多い傷病を参考にして救急医療管理加算のその他の項目に該当するものとなるように見直すのか、議論が続くことになる。



救急医療管理加算については、これまでも微修正を繰り返しながら、精緻なものへと近づけていっている。今回も大胆な見直しではなく、微修正の範囲で調整されていくのではないだろうか。


〇高度急性期入院 ~特定集中治療室・ハイケアユニット・Tele-ICU~

特定集中治療室の評価に関しては、これまでの議論でも出てきていたように入院日の重症度、医療・看護必要度に入院日のSOFAスコアを補完するように組み合わせて、患者の状態を評価する(SOFAスコア5以上の患者割合は、重症度、医療・看護必要度が90%以上の施設でもばらつきがあるので、重症度、医療・看護必要度に反映されない患者の状態を精緻に評価できる)ことについて話し合われている(参照:急性期の集約化と患者像のさらなる純化に向け、看護必要度の見直しと地域包括ケア病床の役割分担を論点に)。また、前回診療報酬改定で新設されたより手厚い集中治療室の環境を評価する「重症患者対応体制強化加算」についても議論されている。届出は振るわないため、その要件など注目され、「特殊な治療法等」の該当患者割合15%以上という要件のハードルが厳しいこと(治療室が少ない病院ほど厳しい)、届出のない治療室でも適切な研修を修了した看護師を2人以上配置している治療室があり他の医療機関等への支援等を一定程度実施している実態があることなど報告された。



地域によって医療資源の量や地域の実状によって医療提供体制は異なるものでもあることから、ここでも地域医療構想調整会議なども含めて、地域の実状に配慮した要件の見直しなども考えられるだろう。

高度急性期入院の中で近年数を伸ばしているのがハイケアユニット入院医療管理料だ。やはり増えてくるもの、とりわけ医療資源が多く投入される高度急性期入院については、ある程度の適正化が求められるもの。


今回、厚生労働省からはハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度の見直しについて、以下のような提案がなされている。

ハイケアユニット用の重症度、医療・看護必要度の見直しの論点案)

・入室時の状態及び手術の実施有無によらずほぼ全ての患者が該当していることを踏まえた「心電図モニターの管理」及び「輸液ポンプの管理」の項目の取扱い

・患者の重症化率の高いHCUにおいて「人工呼吸器の管理」及び「特殊な治療法等」の該当割合が高く、重症化率の低いHCUにおいて「呼吸ケア」、「点滴ライン同時3本以上の管理」及び「動脈圧測定」の該当割合が高かったことを踏まえた評価の在り方

・A項目の要件を満たしている場合はほぼ全ての患者がB項目の要件も満たしていることを踏まえたB項目の取扱い

特に、「心電図モニターの管理」「輸液ポンプの管理」については、見直しの対象となる可能性が高いと考えられる。また、B項目についても急性期一般入院料1でも同様の議論が行われていることもあり、見直しの対象となる可能性が高いように感じる。ハイケアユニット入院医療管理料と急性期一般入院料1はだいぶ近くなりつつある。



高度急性期入院における医師の負担軽減、すなわち働き方改革の推進に対する評価についても議論されている。働き方改革の場では度々耳にしてきた「宿日直許可」について、そもそも宿日直許可を得ている場合でも施設基準を満たすのかということや、宿日直許可を受けて勤務する医師が治療室にいる場合についての新たな区分を設定することを検討している。新たな区分としては、具体的には、宿日直医が治療室にいることで施設基準を満たしている場合は、特定行為研修を修了した看護師を配置していることやTele-ICU(遠隔ICU)を利用することなどを評価することなどだ。




Tele-ICUについては、日本集中治療医学会からガイドラインの策定もされている。今回の議論では、宿日直許可の有無でTele-ICUの評価を検討しているが、負担軽減となるのであれば、宿日直許可の有無に関係なく評価してもよいように感じる。医療資源が限られた地域では有効で評価に期待が高まる。なお、母体・胎児集中治療室管理料(MFICU管理料)においては、集中治療室内の勤務ではなく、施設内に勤務で概ね30分以内で駆けつけ、手術への対応ができることを要件としていることとしていることもあり、「治療室内の勤務」と「施設内の勤務」の整合性についても改めて検討されることとなる。

地域医療構想の進展は、地域医療の最適化・役割分担を推進し、適正化を実現できつつある。だがその一方で、特定の医療機関に重い負担がのしかかる事態も起きているのは確か。適正化と同時に、病院単体だけではなく、地域をあげてICTの活用やタスクシフトによる負担の分散と軽減を行っていくことがさらに求められる。

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