質問の多い特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料を改めて。

4/18/2024

r6同時改定 外来診療 経営 地域包括ケアシステム

t f B! P L

 診療報酬改定に関する解説をいろんなところで機会をいただいているが、特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料に関する質問が必ず一定数ある。私なりの考えを説明させていただいているが、言葉だけでの説明となって伝わりにくいこともあるのではないかと思う。また、個別の事例を出されて質問を受けることもあるが、診療をする医師の思いや判断もあり、その場で答えることが難しいこともある。そして何もよりも、まだ始まっていないので事例もないため、あくまでも制度の主旨を正しく理解して、原理原則に則って対応策をご紹介するしかない。そこで、改めてこの場で私なりの考えを参考までに整理してお伝えしたい。あくまでも、私の考えであって、実際の判断の参考程度でお願いしたい。

〇なぜ特定疾患療養管理料の対象疾患から高血圧症・糖尿病・脂質異常症が除外されたのか

よく言われているのが、昨年の財政審による秋の建議にあった診療所の経営が好調であることが原因、というものだが、それは違うと思う。昨年12月の「改革工程表2023」にある「2028年度までに新規透析導入患者を年間35,000人以下にする」というKPIを達成するため、と私は考える(参照:「改革工程表2023」より、医療機関・薬局の経営と実務、健康寿命延伸・医療費適正化に関するポイントを整理しました。)。新規透析導入患者を減らすというのは、生活習慣病の重症化対策に務めるということ。慢性腎臓病対策を強化するべく、その原因となる生活習慣病の疾病管理を、徹底すると共に患者にも治療に参画する意識を高めるために、療養計画書を作成して患者に渡す生活習慣病管理料による管理へと移行することになったといえる。


〇特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料の「主病名」について

まず前提として、特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料の併算定ではできず、いずれかで設定している主病名から、医師の判断でどちらか一方に決めることになる。そこでよく聞かれるのが、特定疾患療養管理料の場合は主病名が複数あって構わないこととなっているので、胃炎や喘息を主病名として引き続き特定疾患療養管理料を算定して問題ないのでは、ということだ。私はこうした質問に対して、ケースによってはそうした対応は好ましくない結果を招く可能性があることを伝えるようにしている。3つほど考えられるケースを上げてみてみる。

ケース1

これまでは糖尿病を主病名として記載し、特定疾患療養管理料で算定していた場合、6月から主病名を胃炎に変えて、特定疾患療養管理料を算定するという対応について。これまで糖尿病が主病名だったのになぜ糖尿病を主病とした生活習慣病管理料Ⅱで算 定しないのか、と指摘が入る可能性があると考えられる。検査結果などの根拠が求められる。

ケース2

これまでは糖尿病と胃炎を主病名として記載し、特定疾患療養管理料を算定していた場合も同様に、なぜ糖尿病ではなく胃炎を主病名として特定疾患療養管理料の算定となるのか、 と指摘が入る可能性が考えられる。ここでも、根拠が求められることになる可能性がある。

ケース3

これまで胃炎のみを主病として糖尿病の患者を診ていた場合は、おそらく問題ないと思われる。今回の見直しに伴い、特別な対応をしたわけではないとみられる可能性がある。

あくまでも私の考えに過ぎないことであることを念押ししつつ、今回の見直しの本来の理由である、生活習慣病の重症化対策を強化すること、これを前提に考えると、なぜ主病名が「糖尿尿・高血圧症・脂質異常症」ではないかのかが問われることになると思われる。そのため、検査などの根拠を準備しておくことが必要になるのではないかと私は思っている。制度本来の主旨を改めて理解して、その方針に基づいた対応をしていくことこそが原理原則だといえる。DPCがよい例だが、全体の平均を出し、医療の水準を高めていくために、NDBや外来機能報告など様々な診療行為に関する情報は集約化され、分析、公表されている。今後、DPCではひと月当たりのデータ提出数が90を下回る場合は、DPCからの退出が促されることになる。これは、収集するデータの外れ値を除外し、精度を高め、他の医療機関の頑張りを正しく評価するためだ。特定疾患療養管理料等に関する取組の実績も今後収集・分析され、外れ値に相当する者が確認されれば、真摯に取り組む医療機関を正しく評価するために適正化されることや要件をさらに厳格化して他の医療機関に迷惑をかけてしまう結果を招いてしまうことになるかもしれないことを知っておいて欲しい。

〇療養計画書への署名に関する不安を考える

生活習慣病管理料Ⅰ・Ⅱでは療養計画書への患者の署名が初回に必要だ。この署名については、医師が一通り説明した後、看護師や管理栄養士などが個別に指導した際に署名を求めることでもよいとされている。

ところで、この署名について、患者が拒否するケースがあるのではないか、という声もある。要するに、署名することで患者の負担ががってしまうことになる、というのが理由だ。しかしよく考えてみれば、診療所の場合は特定疾患療養管理料を算定していた時と比べて生活習慣病管理料Ⅱで算定することで、トータルで診療報酬は下がることになるため、患者としては負担が減ることになる。なお、病院で生活習慣病管理料Ⅱを算定する場合、生活習慣病管理料Ⅰを算定する場合は上がるので丁寧な説明が重要になる。


〇栄養の連携、薬局との連携のすすめ。重症化対策は、働き方改革・負担軽減。

生活習慣病管理料Ⅱは、特定疾患療養管理料からの移行の救済措置的な意味があると感じている。そのため、特定疾患療養管理料と同様に外来栄養食事指導料等については生活習慣病管理料Ⅰとは異なり、併算定が可能となっている。


自院に管理栄養士がいない場合は、近隣で管理栄養士が配置されている医療機関や栄養ケア・ステーションに指示を出して、外来栄養食事指導を実施してもらうことで指示を出した医療機関が指導料2の算定が可能だ。実際に指導した医療機関等は、後日指示を出した医療機関に請求をして構わないことになっている(参照:生活習慣病管理料Ⅱを算定する医療機関に求められる連携の視点と評価の整理)。

また、長期処方・リフィル処方箋の要望があった場合には対応しなければならいが、実際に長期処方等に対応する場合は、受診頻度が下がることから、薬局と連携して、服薬フォローの協力を依頼することが望ましいといえる(服薬情報等提供料2など)。患者と会わない期間は、薬局薬剤師に管理をお願いし、健康食品の接種状況など情報のフィードバックや処方提案を受けることで患者情報収¥集の負担軽減を図ることができる(参照:連携に関する診療報酬項目・リフィル処方箋で医療依存度の高い患者と医療従事者本人のための時間を創出する)。


多くの医療機関では、生活習慣病管理料Ⅱを算定することになると思うが、その場合は自院の都合にだけフォーカスするのではなく、重症化対策が患者にとっての最善の取組であること、さらに重症化対策は医療従事者の負担軽減につながることを意識して連携を積極的にしていく考えが必要だといえる。


〇地域包括診療料/地域包括診療加算の併算定は可能。かかりつけ医機能を目指す道も。

地域包括診療料/地域包括診療加算をかかりつけ医機能を評価する診療報酬項目としている。令和7年度から始まるかかりつけ医機能報告制度は、当該医療機関の機能をナビイなど通じて地域住民にわかりやすく発信、住民それぞれにとってのかかりつけ医機能を有する医療機関を選んでもらうことになる(参照:患者視点だけでなく、地域医療連携視点で「ナビイ」を見る、使う)。地域包括診療料/地域包括診療加算は5つのかかりつけ医機能の4つを満たすものであり、今後住民に選ばれるためのPRポイントになる。なお、生活習慣病管理料Ⅰ及びⅡとの併算定も可能だ。


〇特定疾患療養管理料の対象疾患の一つである心不全の診断を積極的にする契機に

2030年におこる可能性があると言われる「心不全パンデミック」に対応するべく、循環器病対策推進基本計画が各都道府県で立案され、実行されている。日本心不全学会からも、心不全のマーカーであるNT-ProBNPを実施することの有用性が叫ばれている。心不全は、特定疾患療養管理料の対象疾患の一つ。高血圧症の患者等に積極的にNT-ProBNPの実施・連携先への依頼を行っていくことも考えておきたい。


現時点での特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料に関する私なりの考え、対応について改めて整理してみた。重要なことは、今回の見直しの意図を正確に理解し、望ましい政策のアウトカムはどういった世界なのかをイメージすることだと私は考える。自院の都合だけではなく、患者及び地域医療の観点(重症化対策による医療従事者の負担軽減と患者医療費増の抑制など)での最善を意識したい。

あくまでも一つの参考意見として。

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