医療DXの推進を「コスト」ではなくリターンのある「投資」となるよう、診療報酬で評価を。

12/02/2023

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 令和5年12月01日の第569回中医協総会の資料が公表されている。テーマは、医療DX・小児、周産期医療リハビリ、栄養、口腔長期収載品となっている。ここでは医療DXについて確認していこう。

医療DXについては、昨年から総理が自ら旗振り役となって強力に推進しているところ(参照:医療DXのこれからの工程表案、標準規格に対応した電子カルテの導入促進を明記)。そうした中、11月に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の中で、「医療・介護分野におけるデジタル技術を活用した効率化」が盛り込まれ、書類作成や情報提供などをデジタル化することで医療従事者の負担軽減を推進するために、令和6年度診療報酬改定にて措置を講じることが明記された。

電子カルテに入っている3文書6情報をオンラインでやり取りできるように標準規格となるHL7FHIRを採用して医療機関間の情報格差をなくすための取組を推進していくことを診療報酬でも後押ししていくことを指しているといえる。なお、3文書6情報とは以下のことを言う。

3文書
・診療情報提供書
・退院時サマリー
・健診結果報告書

※健診結果報告書については、原則、XMLで記述するものとなっており、すでに自治体間やマイナポータルとの情報連携が開始されている。そのため、HL7FHIRへの対応は他の2文書を優先することとなっている。

6情報
・傷病名
・アレルギー
・感染症
・薬剤禁忌
・検査(救急・生活習慣病)
・処方

次回改定で考えられることとしては、診療情報提供料や検査・画像情報提供加算等の他の医療機関と情報連携が発生するものについて標準規格に準拠したものを利用することを新たに評価することや専門性の高い医師事務作業補助者などによる文書作成補助を新たに評価することなどが考えられるだろう。単に情報共有目的だけではなく、医師の負担軽減の視点も必要だ。

また、情報共有については「オンライン資格確認」の活用についても重要なテーマだ。今回ン、厚生労働省からは「取得された薬剤情報等を活用した質の高い医療の提供をさらに推進する観点」をどのように反映させるか、といったテーマも投げかけられている。電子処方箋にも通じることだが、オンライン資格確認を通じて、重複投薬等のポリファーマシー対策に有用であったことがよく知られている。しかしながら、根本的な問題として、マイナ保険証の利用が少ない、ということがあげられる。私自身の経験だが、受付マイナ保険証の有無について聞かれたことはないし、総合受付にしかマイナ保険証のリーダーがなく、大学病院等の場合は、3階の診療科からわざわざ1階に降りてカードをかざす必要があるなんてこともある。ちなみに、先日は薬局のお薬手帳アプリを使って処方箋の画像を送信して受け取りに行ったところ、マイナ保険証を出す間もなく、お薬と一緒に「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」が算定された明細を渡された。私だけの経験なのかもしれないが、まずは医療機関・薬局からの患者に対する周知とマイナ保険証の利用割合を高めることが重要だろう。財政審による秋の建議ではマイナ保険証の利用率に着目した評価を提案しているが、この提案は活かされてくるのではないだろうか。医療機関・薬局としても、今からでも患者に周知を進めておこう。


ポリファーマシー対策に効果があるといわれる電子処方箋も医療DXを推進する上で重要だ。以前お伝えしたように、院内処方に関する情報管理は電子カルテではなく、電子処方箋で行うこととなるため、多くの病院でも整備が必要だ。そこで、公的病院を中心に導入を推進していくこととなっているが、低調だと言わざるを得ない。


導入については今後公表されるであろう医療情報化支援基金による支援が期待されるが、運用については診療報酬による支援が求められてくるところ。ポリファーマシーでの効果があるとのことから、既存の薬剤総合評価調整加算や服用薬剤調整支援料との抱き合わせのような形での評価の在り方など考えられるではないだろうか。また薬局の場合は、24時間対応/開局といった在宅医療を行う医療機関との連携の観点で電子処方箋の利活用が期待されることから評価の可能性も見ておきたい。

医療DXを含む医療情報システムを巡っては、サイバーセキュリティ対策が喫緊の課題といえる。安全管理ガイドラインの改定(参照:医療情報システムの安全管理ガイドラインを使うための補助知識)や200床未満の中小病院・診療所についてはIT導入補助金を利用したサイバーセキュリティ対策お助け隊の活用(参照:サイバーセキュリティ対策、200床未満の病院では「サイバーセキュリティお助け隊」を!)など対応はなされてきているものの、残念ながら医療情報システムへの取組は「投資」ではなく「コスト」として見られることが多く、職員で教育でかいけつできるならコスト安で済む、など安易に考えられ、対応されてきているケースが多いと実感している。診療報酬できちんとサイバーセキュリティ対策に対する取組を評価することとして、「コスト」ではなくリターン(診療報酬でかえってくる)のある「投資」としていくことが必要だ。

今回厚生労働省からは、医療情報システムのバックアップ(システムを停止した状態でバックアップを行うオフラインバックアップ)、医療情報システム安全管理責任者の配置、BCPの策定に関する実態調査の結果とともに、評価をする場合の考え方について意見を求めている。




バックアップと医療情報システム安全管理責任者の配置については、診療録管理体制加算の中で400床以上病院に対しては施設基準に盛り込まれている(バックアップについてはオフラインバックアップとはなっていない)。そこで、400床以下の病院まで対応を求めることなどが考えられる。また、オンライン資格確認が原則義務化となっていることを考えると、診療録管理体制加算の届出のない医療機関に対する支援となる評価も考えておく必要があると考えられ、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の施設基準等での対応も考えられるかもしれない。令和5年度は医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業が開始される予定であることも念頭におき、事業終了後も常時サイバーセキュリティ対策に取組めるような評価の在り方など議論されることが期待される。


その他、今回の議論では救急搬送時等で患者の意識がない状況での患者情報の確認・閲覧できる仕組みである「救急用サマリ」が令和6年度から運用開始される予定となっている。


そのことを踏まえて、急性期充実体制加算や救命救急入院料等では救急外来における救急用サマリ等を活用できる体制整備を促進するための評価についても考えが求められている。急性期充実体制加算等での施設基準などに盛り込まれることなども考えられるが、まだ運用開始されているわけではないことから、時期尚早にも感じられる。

働き方改革と医療DXの推進は一体的に進めていくことでより高い効果が期待される。しかしながら医療DXについては、「コスト」として見られることが多く、ハードルが高い。診療報酬での評価に少しでも関連することでリターンのある「投資」となれば、と強く期待する。

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