令和5年3月8日、第2回目となる医療DX推進本部が開催された。第1回目は令和4年10月12日の開催で、関係する省庁の取組方針を確認したものだった(参照:医療DX推進本部初会合、関係省庁の取組方針を確認する)。その第1回目で第2回目で今後の工程表を策定することを目標としていた。今回はその目標通りに工程表の骨子案が示されたところだ。
骨子案では医療DXの定義について以下のように記載されている。
「医療DXとは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータに関し、その全体が最適化された基盤を構築し、活用することを通じて、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくこと」
そして医療DXを推進していくことで実現できる5つのことを明記している。
①国民のさらなる健康増進
PHRを活用した健康増進とアレルギー情報等が可視化されることにより、将来的にも安全・安心な受療ができること。
②切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供
全国いつどの医療機関等にかかっても、必要な医療情報が共有されること。
③医療機関等の業務効率化
医療機関等のデジタル化が促進され、業務効率化が進むとともに、効率的な働き方が実現する。
④人材の有効活用
医療情報システムに関与する人材の有効活用や費用の低減を実現し、医療保険制度全体の運用コストを下げる。
⑤医療情報の二次利用の環境整備
保健医療データの二次利用により、創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することで健康寿命延伸に貢献する。
では、具体的に①~⑤をどうやって実現するのか。それは、マイナ保険証であり、電子カルテの普及促進ということになる。
骨子案に書かれていることを整理すると次のようになる。
・マイナ保険証の推進と電子カルテによる診療情報の共有・交換可能な環境整備
オンライン資格確認を医療DXの基盤と位置付け、マイナ保険証の促進をさらに進めていく。生活保護でのオンライン資格確認を令和5年度中に導入することにもしている。
来年4月には訪問診療・訪問看護での利用ができる体制を進めることとなっているが、、柔道整復師・あん摩マッサージ師等の施術所等での推進も図ることとなっている。なお、令和6年秋に健康保険証の廃止を目指すこととしている。
また、骨太方針2022にも記載された」全国医療情報プラットフォームの構築についても掲載されている。電子処方箋の実施を拡大していくととともに、全国の医療機関・薬局において、電子カルテ情報の一部の共有、閲覧を可能とする電子カルテ情報共有サービス(仮称)の構築に取り組むとされている。この電子カルテ情報共有サービス(仮称)については、3文書・6情報(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書、傷病名、検査結果等)の共有から進めていく方針だが、特に救急時に有用な情報等の拡充を進めることとしており、救急時に医療機関等において患者の必要な医療情報が速やかに閲覧できる仕組みを早急に整備するとされている。
医療機関における情報共有を後押しするべく、標準規格に対応した電子カルテの導入を推進する方針も明記されている。標準規格とはHL7 FHIRを意味すると考えられる。オンライン資格確認や電子処方箋でも活用されている医療情報化支援基金等を利用した支援など考えられるだろう。もともと「医療DX令和ビジョン2030」においては、令和12(2030)年までに補助金等も活用して標準規格の電子カルテを100%導入するという目標が設定されていたところだ(参照:医療DX令和ビジョン2030の実現に向けた初会合が開催される)。なお、令和5年度予算ではクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の研究を行うこととなっており、本骨子案にもその整備について盛り込まれている。
・診療報酬改定DXの推進でシステムコストの低減
診療報酬改定DXとして、診療報酬改定時のシステム改修やマスタメンテナンスの負担を軽減するために、マスタや全国統一の共通的な電子計算プログラムとして共通算定モジュールを開発・提供する。このマスタやモジュールは、先に紹介した標準型電子カルテと連携するものとなり、診療報酬改定時の大幅な負担の軽減につながることが期待される。また、診療報酬改定の施行時期についても見直す可能性も記載されている点に注目したい。
医療DXは岸田総理を本部長とした各省庁を横断する一大プロジェクト。ICTなどの技術は日進月歩でもあり、スピードに乗り遅れるとすぐに陳腐化してしまうものだ。技術の進歩と、関係各省庁の進捗をみながら、柔軟に対応していくことが求められる。