がん医療に関する中長期的な取組について「第19回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(令和7年7月25日)」で「2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(案)」がまとめられた。また、先日(令和7年28日)に開催された「第91回がん対策推進協議会」では、現行の第4期がん対策推進基本計画の来年度実施される中間評価に関するコア指標の案が示された。がん医療については、これまでは主に「均てん化」をキーワードに施策が展開されてきたところだが、2030年以降の本格的な人口減少・高齢者割合の高止まり時代に向けた機能や人材の「集約化」もキーワードになりつつある。がん医療の今後に向けた方針について確認をしておきたい。


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2040年のがん医療提供体制を考える上で必要な3つの柱「均てん化」「集約化」「持続可能性」

 がん診療提供体制のあり方に関する検討会にて、昨年12月より議論が開始され、このほどとりまとめ案がまとまったところ。その内容のポイントを確認する。

 2040年は団塊の世代の皆様のほとんどが90歳を迎える。介護保険のデータ・傾向からわかるのは、90歳を超えた方の多くが介護保険サービスを利用する、ということ。そして、2008年あたりから日本は人口減少が始まっており、2030年以降は一気に人口減少の速度が上がる。すなわち、このままの状況であれば、2040年以降は医療・介護を必要とする方が多いのに、医療・介護を提供できる方が足りなくなってしまうことが分かっている。そこで、地域の実状にあった地域医療構想を策定して医療提供体制を整備すること、そして生活習慣病等の重症化対策を徹底して医療費適正化と医療従事者の負担軽減を図っていこうとしているのが今の医療政策の基本であり、手段としての診療報酬による動機づけ・選定療養の拡充による患者の意識改革などが実行されているところだ。がん医療においても、患者数だけではなく、医師数や高額医医療機器の配置状況を踏まえた地域の実状を的確に反映した医療提供体制の整備が各都道府県に求められる。そこで、これまでの「均てん化」だけではなく「集約化」も重要なキーワードとなってきている。そして、「持続可能(性)」であるということ。そのためには、医療DXなどを活用した負担軽減や情報連携が必要になってくる。




 今回の取りまとめ案で注目されるのは、がん3大療法毎に3本柱にあわせてどのように提供・対応していくべきか今後の方針を整理していることだ。がん3大療法とは「手術」・「放射線療法」・「薬物療法」の3つ。「均てん化」の観点では、薬物療法を着実に推進していくことだ。かかりつけ医機能報告制度ではがんも一次診療の対象に入っているので、地域のかかりつけ医と患者が同席して、拠点病院の医師とD to P with Dを行うことなどもできる。診療報酬における遠隔連携診療料などでの評価対象になることが期待されるだろう。




 一方で、課題となるが手術療法だ。外科医の減少が見込まれていることもあり、集約化は避けられない。また、放射線療法についても、医療費適正化の観点も踏まえると、集約化は必要になってくる。医療資源の限られた地域に対する支援として、外科医に対する支援なども予定されているが、がん医療の領域においても診療報酬を用いた支援なども必要になってくるだろう。

 また、がん医療技術の観点による均てん化・集約化の考え方も整理されている。希少がん手術や粒子線治療は都道府県単位もしくは都道府県をまたいだ集約化を図ること、放射性医薬品を用いる核医学治療や高度な薬物療法は都道府県単位で集約化を図ることなど方針が示されている。



 3大療法と技術的観点を踏まえた上で、3本柱を具体的にどのように進めていこうとしているのか。まず「均てん化」についてみると、予防・検診も含めてかかりつけ医機能の役割が
ポイントになる。ここでいうかかりつけ医機能とは、早期発見もさることながら治療を終えた患者の継続フォローであり緩和ケアに対応できる医療環境の整備だといえる。そのためには、先に述べたように遠隔連携診療料の対象拡大など期待したいところだ。





 がん診療連携拠点病院との連携強化もますます必要になってくる。遠隔連携診療に対する評価は、がん治療計画策定料やがん治療連携指導料などの中でオンライン診療ができる体制としての要件を設けることなども考えられるだろう。





 「集約化」についてみてみると、実績や対応できる技術に合わせた段階的な集約化をこれから進めていくことが必要になる。地域医療構想調整会議の場などでも議論されていくことになるだろう。最大の課題は、外科医や薬剤師の人材をいかに確保するか、ということだ。医療機関単体での適正配置という考え方から、地域を一つの総合病院と見立てた適正配置の発想が求められる。
 




 「持続可能性」については、働き方改革・医療DXの推進が重要になる。また、地域住民に対する丁寧な説明も大事だ。「保険あって医療無し」といった居住地による不公平感が出ないように、地域の実状と連携ネットワークによるサポートがあることを絶えず発信し続けていくことが必要だ。





 今回のとりまとめ(案)が最終的に確定後、各都道府県に通知が発せられる予定だ。


第4期がん対策推進基本計画の中間評価に向け、コア指標(案)が示される

 来年度に現行のがん対策推進基本計画の中間評価が行われることとなっている。しかしながら、現在の基本計画ではロジックモデルの考え方が導入され、評価項目が296と膨大な量となっている。そこで、昨年8月5日に開催された第90回の会議にて、中間評価で用いるコア指標を検討することとなっていた。


参照:第4期がん対策推進基本計画の中間評価の方針と病院経営の視点~選択肢の一つとしての特別措置病室~



 そのコア指標(案)・93項目が今回公表された。






 今後、さらなる絞込みや項目数の増加、場合によっては項目毎に重みづけを行って評価することなども考えられる。また、中間評価で出てきた結果をどのように評価をしていくのか、さらに数値をどのように読み解いていくのか、年内にも方針を固め、令和8年の夏~秋頃に結果報告される予定となっている。