令和6年8月5日、厚生労働省にて第90回がん対策推進協議会が開催された。今年度よりスタートしている第4期がん対策推進基本計画は令和11(2029)年度までとなっている。期待する成果を出すために、令和12年度からの第5期がん対策推進基本計画立案に向けた課題の把握と成果指標策定に早期から取り掛かるための中間評価の在り方に関して議論されている。なお、中間評価は令和8(2026)年度に実施するが、がん対策推進基本計画と同じく6年を一つの周期とする第8次医療計画や第4期医療費適正化計画などと足並みをそろえる意味もある。
〇ロジックモデルによる評価
中間評価にあたって、何を、どういった物差しで測定し、評価するか、が重要だ。そこで昨年の同協議会の議論の中でロジックモデルを用いることが決まっている。
ロジックモデルとは、いわばPDCAを正しく回し、期待される成果を導き出すための経路(ロジック)を明確にしたもの。取り組みの見える化をするという目的もある。かつて民主党が政権を担っていた時に行われていた「事業仕分け」を覚えている方も多いと思うが、実は「事業仕分け」は「行政事業レビュー」と名称と形式を変えて今も続いている(参照:厚生労働省の行政事業レビュー)。
参考:政府の行政改革 > 行政事業レビュー
その「行政事業レビュー」は、各府省庁自らが外部の有識者の意見も伺いながら行い、その内容と使用される「行政事業レビューシート」が公開されている。なお、秋には「秋のレビュー」と称して更なる見直しの余地がある事業、重要政策・施策を中心に複数の事業を府省横断的に検証されている。ロジックモデルは、この「行政事業レビュー」で用いる「行政レビューシート」を作成する際に利用するものだ。「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。 証拠に基づく政策立案)」の実現のためのツールの一つといえる。
がん対策におけるロジックモデルは以下のように設定されている(参照:
評価指標一覧)。評価すべき項目は多く、今後も引き続き検証は行われることになる。こうした見える化を確認し、地域を俯瞰し、自院の役割確認と新たなチャレンジを見出すことが各医療機関には必要だ。
現状を整理して把握し、課題を明確にするために非常に有効だといえる一方で、実際の活動と成果の因果関係が明確にできるか、といった課題もある。活動とデータを着実に積み上げていくことが重要になる。
しかしなかがら、ロジックモデルによる評価指標はかなり多い。そこで、中間評価では成果に影響が大きいと考えられる項目で詳細な分析を行う重要な指標となる「コア指標」と計画に対する進捗確認となる数値の変化のみの「その他指標」と分けて行うことが確認されている。なお、「コア指標」については令和7年春ごとに選定する見通しを明らかにしている。
〇均てん化への対応と放射線療法の環境整備
第4期がん対策推進基本計画は「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」という全体目標が設定されている。もともとがん対策においては、「均てん化」が重要なキーワードになっていたところだが、それをさらに強力に推進する強いメッセージとなっているのもポイントだといえる。そこで、都道府県のがん対策の見える化を通じて課題の明確化を図ることが重要だ。そこで、地域間の健康格差に関する研究を行い、今後の施策に活かしていくこととなっている。
がん医療については新たな技術・新薬等が誕生しているが、やはり域差があることは否めない。個人的に気になっているのが高度な放射線療法の提供体制だ。放射線治療室の整備・維持、職員教育などに大きなコストがかかることもあり、国内ではまだまだ十分な環境があるといえず、放射線治療を必要とする患者が待機しているケースが多い。そこで、一昨年前より、一般病室を必要な対応をすることで一時的に放射線治療室として利用できる「特別措置病室」が医療法施行規則でも認められるようになり、令和4年度診療報酬改定より評価されることとなった(参照:
特別措置病室の理解とマネジメントを考える)。
実際の運用にあたっては、防護衝立や被ばく線量計や鉛畜尿容器などの設備投資(2,200~3,000千円ほど)が必要になるとともに、各種消耗品や室内清掃などの運営経費(1入院当たり130~300千円ほど。地域によって差がある)が必要となる。
なお、令和6年度診療報酬改定ではDPCにおいて神経内分泌種に対するルテチウム オキソドトレオチド(ルタテラ)を用いた治療の一部でDPCコードができているが、高額な評価となっている点に注目したい。今後も新たな医薬品が登場すると期待される放射線治療室など核医学治療のできる環境整備を後押ししていると個人的には感じている。
今後人口減少が進み、病床の稼働率は今のままでは下がってくる。病床を削減するか、高度専門医療(診療単価が高い)に取り組むか。後者の取組を選ぶとなった場合、既存の病室を有効活用できる特別措置病室への取組は重要な選択肢の一つになると考える。
がん医療は、医療提供者・研究者・医薬品メーカー等の取組によって進展が目覚ましい。今後は、そうした医療をどこでも享受できるように地域格差を減らし、人口減少が進む日本で国民全体の生産性向上に貢献できるインフラ作りが必要だ。