令和7年10月16日、第200回社会保障審議会医療保険部会が開催された。この部会では、医療保険制度改革に関する議論を行う場で、医療費適正化と伸び続ける医療費を国民が負担できる範囲に抑え込んでいくためのあり方を検討していくもの。今回は薬剤給付のあり方がテーマとなった。薬剤給付については、OTC類似薬の全額自己負担の検討などが一般紙でも話題となり、自民党・公明党・日本維新の会による3党合意がまとめられ、実際に骨太の方針2025にも年内に結論を出すことが明記されたところだ。




参照:骨太の方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~が閣議決定される。原案との違いは?


 まだ議論はキックオフの段階であることから、現状と考えられる問題について整理をしている状況だが、おおよその論点は患者の経済的負担も踏まえて見えているといえる。政治空白が続く中で、どういった「落とし所」に落ち着くのか注目される。


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後発医薬品割合は長期収載品の選定療養の影響で大きく伸びるも頭打ちの状況

 後発医薬品のある長期収載品の選定療養がスタートが後発医薬品割合が伸びたことは間違いはない。ただ、注意して見ておかなければならないのは、もともと86%という割合に達しており、そこからの伸びは5ポイントにも満たない、ということだ。




 本年4月に公表されている令和6年度診療報酬改定結果の関する調査では、患者に対して後発医薬品を選択する理由を尋ねた項目があり、自己負担割合が上がったら選択を検討する、という声があったことがわかっている。


参照:令和6年度診療報酬改定の結果の検証と次回改定への影響は?~後発医薬品の使用促進について~


 また、私の数少ない体験からだが、後発医薬品から長期収載品に戻すケースもいくつか耳にしている。抽象的だが、「なんとなく違和感がある」といった理由も聞かれる。そうした理由が継続した服薬に影響があると、重症化が進んでしまう。そうならないために、「医療上の必要あり」として従来の保険給付で長期収載品を処方することになる。

 すでに天井に達しているともいえる後発医薬品割合だといえるが、ここからさらに割合を高めていくには、患者の自己負担割合を高めていくことや医療上の必要性に関する厳密な基準・審査などが必要になってくるように思われる。その一方で、未だ続く医薬品の安定供給問題がある。また、薬局薬剤師による説明の負担が重いとされ、本年4月には説明に対する評価を臨時改定したところ。医療現場の状況も確認しながら、自己負担割合の引き上げや医療上の必要性に関しての議論が進められていくこととなりそうだ。



バイオ後続品のある先行バイオ医薬品にも選定療養を?

 昨年9月30日、新たな後発医薬品使用促進に関するロードマップが公表され、バイオ後続品についても目標が設定された。その資料をよく見てみると、長期収載品の選定療養の動向を見て、先行バイオ医薬品に対しても対応を検討する方針が記されていることに気づく。




 また、新たなロードマップでは後発医薬品の数量割合が全都道府県で80%を超えたら、副次的目標として金額ベースで65%以上を目指す、というものも設定されている。そう考えると、後発医薬品に比べて金額のインパクトが大きいバイオ後続品の使用促進は金額ベースの目標を達成するには重要なポイントになるため、期待も大きい。




 しかしながら、バイオ後続品には虫食い効能と医療機器(デバイス)としての側面もあり、バイオ後続品のある先行バイオ医薬品を選定療養に加えるには課題がある。

 虫食い効能とは、先行バイオ医薬品のすべての効能をバイオ後続品がカバーしているわけではないということと、医療機器としての側面とは注射器でもある、ということだ。長期収載品の対象としていくには、例えばインスリン製剤など対象を明確にすることなどになるのではないだろうか。

 また、先に紹介した令和6年度診療報酬改定結果に関する調査の中では、バイオ後続品の院外処方割が高くなっていることが確認されている。虫食い効能の観点から、対象となる薬剤を明確にしたうえでの一般名処方加算や分割調剤の対象とすることなど、診療報酬上での対応なども考えられる可能性がある。なお、現行の診療報酬・調剤報酬では、薬局薬剤師が関係することでバイオ後続品への変更が実現したとしても特別な評価はない。服薬情報提供料1・2や調剤後薬剤管理指導料などによる服薬フォローを通じた情報提供・意思確認をして、処方医にトレーシングレポートを送ることで間接的ではあるが評価につながり、医療機関においてもバイオ後続品導入初期加算につながることは期待できる。




 院外処方割合が高まっていることを考えると、薬局に対するバイオ後続品への切り替えに対する直接的評価は検討されてもよいのかもしれない。


 なお、個人的に気になっているのはいまだ取りまとめが行われていない高額療養費との関係だ。これも以前からよくあったことだが、バイオ後続品を選択すると高額療養費を使えないが、先行バイオ医薬品を選択すると高額療養費が使える、というもの。バイオ後続品がなかなか普及しない理由の一つだ。


参照:高額療養費の見直しで医療機関・患者として備えておきたいことと、電子処方箋に関する令和7年度の対策を確認する


 高額療養費については、患者の生活にも関わることでもあるので慎重な議論は必要だが、国民全体の医療財政の健全化・適正化を考えると高額療養費でもバイオ後続品の使用促進を図ることが重要だ。自己負担割の引き上げなのか、先行バイオ医薬品の選定療養の導入なのか。高額療養費についても引き続き議論を注視しておきたい。



OTC類似薬の保険外し?それとも、選定療養?

 冒頭で伝えたように、OTC類似薬の保険適用の見直しは年内に結論を出すと骨太の方針2025で約束されている。この記事を書いている令和7年10月16日時点では、公明党は連立政権から離脱し、日本維新の会が連立に加わろうとしている。政治空白が続き、このまま自民党を中心とした政権が続くのかもわからない混沌とした状況で、先行きが見通せないこととなっている。ただ、自民党と日本維新の会がこのまま連立政権を組むことになれば、OTC類似薬の保険給付の見直しは保険外しの方向に一気に進む可能性もある。

 ところで、OTC類似薬の保険給付の見直しは今年に入ってから起きた議論ではなく、数年前から議案となっていた。医療保険財政としては良いのだろうが、患者にとって見れば負担割合が高まる可能性があり、とりわけ長期に渡って治療が必要な慢性疾患患者などにとっては打撃となる可能性がある。そう考えると、すべてのOTC類似薬の保険給付割合を見直すのではなく、風邪やアレルギーなどの一時的な症状に対するものに限定したり、OTC類似薬の種類によって自己負担割合を調節する、選定療養の対象とするなどが現実的にも見える。

 政治の混乱にこれほどまでに影響を受けたことはなかったと思う。政治の動向にも目を向けながら、議論の推移を見続けていきたい。