障害者手帳を申請したものの不認定となった難病患者を障害者雇用率の算定対象とする案が示される
令和7年10月2日、第8回今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会が開催されている。「(障害者)手帳を取得できない難病患者の方でも、痛みが大きい、疲れやすい、日によって体調が大きく変化する等により仕事に影響を与えていることもある。これらの方々の雇用率制度の対象への追加を検討したい」という意見がある一方で、「指定難病によっても就労困難性には大きな差異があり、ひと括りで「障害者」と見なすことは不適切。特定医療費受給者証を本来目的を超えて便宜的に確認書類として利用するのは賛同できない」といった意見もあるなど、この研究会では、かねてより障害者雇用率の算定対象に難病患者を加えるか否か議論が割れていたところ。
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今回開催された研究会では、医師の意見書等も勘案しながら、個別の就労困難性の判定などを要件に障害者雇用率の算定対象とすることに関しての議論を開始することが示された。令和9年度の改正を目指すことになる。
各法律と難病の関連性を整理
難病については、難病法の他にも障害者総合支援法の対象に加えられていることや障害者基本法、障害者雇用促進法において「その他の心身の機能の障害」がある者として対象となっている。
ただし、障害者雇用促進法における雇用義務の対象障害者は障害者手帳を有する者に限定されているため、障害者手帳を有していない難病患者は対象外となっている。障害者手帳の取得は、難病の中でも日常生活に支障がある身体上の障害がある者とされるため、難病患者のすべてが障害者手帳を取得できるものではない。
障害福祉サービスを利用する難病患者は増加の傾向
障害福祉サービスを利用した難病患者は近年増加の傾向にあり、在宅介護に次いで就労系サービスを利用する方が多いことが今回示され、就労への意欲の強さが伝わる。
今回の研究会では「難病患者の就労困難性に関する調査研究(独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 社会的支援部門)」の結果が示されている(回答者数4,523人のうち、手帳所持者は1,025人(22.7%)、手帳を申請し不認定の者が71人(1.6%)、手帳未申請者が3,410人(75.4%)、無回答が17人(0.4%))。
障害者手帳をお持ちの方・障害者手帳を申請したものの不認定だった方・障害者手帳の申請をしていない方の3つの群で就業継続場面で意識の違いを表した調査結果がある。ここで注目したのは、障害者手帳を申請したものの不認定だった方の不安や困り事は解決されていない割合が高いということだ。
また、社会生活を営む上でどういった支障があるかを調査したところ、少しの無理で体調が崩れやすいことや症状の進行に対する恐れ、疲れやすさなどなどが変動して安定しない、といった声が多かった。
一方で事業主側においては、障害者手帳の有無に関係なく、配慮はまだ弱く、障害者手帳を申請したものの不認定だった方に対する配慮はさらに弱い状況だ。
難病患者の相談先はどうなっているのか。医療機関や知人・家族等は相談先として高いことはわかるが、障害者就業センター等の割合は非常に低い。障害者手帳を申請していない方のハローワークの利用割合が非常に低いことも明らかになっている。
こうした調査結果からは、難病患者のすべてが就労困難性が高いものではないとしつつも、障害者手帳を申請したものの不認定となった方が一定いることとそうした方は就職活動や就労継続において何らかの困難性を持っている方が多いということが分かった。そこで、厚生労働省からは「障害者手帳が得られていない難病患者については、本人からの申請により、医師の意見書等も勘案しながら、個別の就労困難性(職業生活への「制限」の程度)を判定し、一定水準にある場合、まずは、実雇用率において一定の算定を可能とし、施行状況を注意深く見ながらさらに雇用義務の在り方を検討していくことが考えられるのではないか」という論点が示された。
これから議論がさらに進んでいくことになる。また医療関係者としては「療養・就労両立支援支援指導料」に改めて着目をしておく必要があるだろう。以前もお伝えしたが、労働施策総合推進法の改正に伴い、治療と仕事の両立支援の更なる推進に関する議論もスタートしている。
参照:治療と就業の両立支援ガイドラインを指針に格上げ。令和8年度診療報酬改定で、療養・就労両立支援指導料やかかりつけ医機能に関する評価にも注目を
働き方改革・働き手不足の解消問題は、なにも医療機関だけの問題ではなく、社会全体の問題でもある。令和8年度診療報酬改定における就労・両立支援支援指導料」の評価の拡充など注目したい。