令和7年8月22日、第1回 治療と仕事の両立支援指針作成検討会が開催されている。この検討会は、令和7年度通常国会で成立した「労働施策総合推進法」の見直しに伴うもので、職場における治療と就業の両立を促進するため必要な措置を講じる努力義務を課すこととなったのだが、同時に「治療と就業の両立支援指針」を新たに策定することとなったことに対応するためのものだ。







 労働施策総合推進法とは別名「パワハラ防止法」とも呼ばれるもの。1966年に制定された雇用対策法がルーツとなっており、対象は大企業から中小企業へと拡大され、今回、治療と就労の両立支援までをその中に取り込むこととなり、総合的に働く者の勤労の義務を下支えし、生活を守るものとなったといえる。

 なお、違反した場合の罰則はないもの、厚生労働大臣の判断によっては、当該企業に対して助言や指導、勧告が行われる。そうした指導・勧告に従わない場合は内容が公表されることとなっている。


 改正される労働施策総合推進法は令和8年度からの施行となるため、時間はあまりない。


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治療と就労の両立をめぐる現状を確認する

 今年に入ってから、高額療養費を巡る問題があったのは記憶に新しい。自己負担が上がってしまうことに対する様々な批判があったが、私は事業主側にも問題があるように感じている。病気になったとしても、少なくとも就労と給与、社会保険料の負担があることで高額療養費の自己負担上限額の引上げには対応ができるケースもあるのではないかと考えている。


参照:高額療養費の自己負担上限額の引上げには、事業主の理解・フリーランス保護法の徹底など患者の生活を守る環境整備が必要


 何らかの疾患で治療を続けながら、就労している方が3人に1人の割合となっており、年々増加の傾向にあるという。がんにフォーカスしてみると、外来化学療法などもあって年々増加の傾向にある。それでいて、医薬品は高額になってきており、経済的負担も重くなってきていることが考えられる。就業者の就労を守り、生活を守ることは、治療の継続率を高めることになる。また、就労することで社会保険料も負担する。





 なお、経済財政諮問会議による改革工程表ではがん患者の治療と就労の両立支援に関するKPIが設定されている。2025年までに年間40,000件の相談という目標だが、2023年時点では約29,000件という状況だ。




 診療報酬では「療養・就労両立支援指導料」という項目で治療と就労の両立支援の取組を評価できるようになっている。オンライン診療による実施でも可能だ。算定件数が伸びてきているが、大きな伸展があるとは言い難い。




参照:医療機関側と企業側、働き続けるための支援~健康保険サポーター、療養・就労両立支援指導料~


 この指導料については、事業主側の理解と協力も必要だ。しながら、主に中小企業(従業員数300人以下)においては、治療と仕事の両立支援に関するガイドラインの認知度は低く、企業を挙げての就労支援の取組も少ないと考えられる。





 人口減少と人口に占める高齢者割合の増加・高止まりの時代においては、労働力の確保は重要である。また、高齢者割合の高まりで懸念される医療費・介護費を考えると、社会保険料を負担してくれる就労者の減少に歯止めをかける必要がある。今回の労働施策総合推進法の見直しは、こうした現状をふまえての対応だといえるだろう。



新たな指針策定に向けた考え方。令和8年度診療報酬改定においても注目を

 これから始まる策定に向けた取組だが、既存の「治療と就業の両立支援ガイドライン」を指針(大臣告示)に格上げする。ゆえに基本的には現状のガイドラインの引用となるが、両立支援の進め方として産業医と主治医の連携、職場復帰に向けた支援を追記する予定となっている。





 先に紹介したように、がん患者に関連しては治療と就労の両立支援に関するKPIが設定されている。そして、治療と就労の両立支援の取組は労働施策総合推進法において努力義務となる。令和8年度診療報酬改定の議論において、療養・就労両立支援指導料に関する評価の見直しやかかりつけ医機能に関連する評価における何らかの関係性など出てくることが考えられる。

 医療機関においても働き方改革やタスクシフト・タスクシェアは重要だが、一般社会も同様だ。社会全体という視点で、医療機関ができる働き方改革を支援の取組として、対象となる患者(がん・難病・脳血管疾患・肝疾患・心疾患・糖尿病・若年性認知症)がいる場合は対応を検討しておきたい。