令和7年8月から3年かけて段階的に高額療養費の自己負担上限額の引上げが行われる予定だが、その制度設計の在り方について議論が行われている。今年は国政選挙等を控えていることもあり、その議論の行方は政治も巻き込んで大きなものとなっている。

参照:改めて知っておきたい社会保障制度について② ~公費負担医療等の基本と現状、今後の見通し等について~

参照:高額療養費の見直しで医療機関・患者として備えておきたいことと、電子処方箋に関する令和7年度の対策を確認する


 医療費・社会保険料の負担を考えると、高額療養費の自己負担上限額の引下げそのものを撤回するということは考えにくく、長期にわたって治療が必要な方に向けた多数回該当(年3回以上の高額療養費の利用で更なる自己負担上限額の引下げ)のさらなる見直し(年6回以上での更なる自己負担上限額の引き下げなど)が考えられる。患者団体からの要望も「長期にわたって治療を継続している患者」に対する配慮を求める内容だ。

参照:高額療養費制度 経済的負担に配慮した修正案検討 患者の思いは(NHK)

 しかしながら、自己負担上限額が上がることはやはり手痛いものがある。その一方で、私自身、事業主として社会保険料の負担をしている者としては、高額療養費の見直しを凍結することで社会保険料の負担が上がる可能性があると考えると、非常に頭が痛いのも確か。現在の高額療養費の見直しを巡る様々な議論は、患者の自己負担にフォーカスを当てた内容となっているが、私個人としては、生活を守るという社会全体の仕組みの中で考え、受け入れていくべきことではないかと感じている。


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高額療養費の見直しで起こり得ることを整理

 予定通りであれば本年8月より段階的に引上げが始まることになる。起こり得る事象について整理してみた。


 個人的に最も気になるのが、自己負担が上がることを嫌気して、エビデンスの乏しい民間療法等に向かってしまうことだ。標準治療等エビデンスが確立されているものなどを正しく伝えていくことが必要になってくるだろう。また、バイオ後続品をはじめとする高額な後発医薬品の使用の採用及び患者への丁寧な説明も医療機関には求められてくる。これまでは、高額療養費の対象になるためにあえて先発医薬品を利用してきたこともあるだろうが、上限額の引上げに伴い、先発医薬品では対象にならない場合も出てくると考えられる。バイオ後続品等を利用した方が患者の負担は下がるという場合も出てくることを正しく伝える必要がある。

安心して治療に取組むための生活防衛対策。事業主・取引先が取組むべきことがある。

 治療と仕事の両立支援について、今回の高額療養費の見直しを巡る議論の中で欠けている視点だと感じている。安心して治療に取り組むためには、生活に不安をいただかないように、周囲による支えが必要だ。診療報酬においても「療養・就労両立支援指導料」といった項目があり、医療機関側から働きかけていくこともできる(治療と仕事の両立支援ナビ)。

参照:医療機関側と企業側、働き続けるための支援~健康保険サポーター、療養・就労両立支援指導料~


 雇用する事業主、そしてフリーランスに業務委託する事業者(フリーランス保護法について)として、高額療養費の見直しに向けても改めて対応をしておくべき視点を整理した。




 もちろん、個人においても健診を定期的に行うことなど徹底すべきことがある。その上で、その周囲が一人ひとりを支えていける環境を作っていくことが必要だ。自己負担だけに着目するのではなく、事業主やフリーランスと取引する事業者といった個人の収入・生活に影響を与える側の正しい振る舞いも合わせて議論し、社会全体で徹底をしていくことが高額療養費の適正な運用につながると考える。