改めて知っておきたい社会保障制度について② ~公費負担医療等の基本と現状、今後の見通し等について~

12/01/2024

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※令和6年11月10日に開催されました市民公開講座「多発性硬化症を知ろう!」での「これだけは知っておきたい社会保障制度とその使い方」で山口がお話した内容の一部を当日使用した資料と共にご紹介したもので、「改めて知っておきたい社会保障制度について① ~日本の社会保障制度の特徴、治療と仕事の両立支援~」の続きです。

  高額療養費をめぐって、早ければ令和7年度中にも所得区分の見直し、自己負担上限額の引き上げなどが行われることとなりそうだ(参照:厚生労働省 第187回社会保障審議会医療保険部会)。高額療養費は、必要な医療を等しく受けられるように設定された社会保障制度の一つ。しかし、高齢者割合の高まりや経済状況の変化もあって、高額療養費を利用者は増える一方で、勤労世代では利用者は少なく負担は重くなっている。いわゆる世代間格差を生んでしまっているという側面もある。



 また、令和6年9月に公表された新たな後発医薬品使用促進策のロードマップでは、バイオ後続品の使用促進や金額ベースで65%以上の副次目標が設定されている事を考えると、高額療養費の自己負担上限額の引き上げと長期収載品の選定療養の組み合わせで、バイオ後続品を含む高額な後発医薬品の使用促進をさらに加速させようという意思も見える。

参照:安定供給を基本とした後発医薬品とバイオシミラー使用促進の新たなロードマップが策定・公表される

さらに、指定難病に関する議論も新たな局面に進んでおり、指定難病の基準の見直しや対象となる疾病の見直しも控えており、これから3年ほどの間で一気に高額療養費・難病助成等の公費助成に関する見直しが進むと思われる。

参照:難病・小児慢性特定疾病領域でのDX推進策の今後を確認。一方で、指定難病の要件の見直しも

社会保障制度の一つもといえる公費負担医療について、主なものについて理解を深めておきたい。

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高額療養費制度を改めて

 マイナンバーカードに保険証の機能を付加するマイナ保険証を利用することでオンライン資格確認に対応している医療機関では自動的に対象となるかどうかを判別してくれる。マイナ保険証にしていない場合は、令和6年12月2日以降は保険者から送付される資格確認書を利用する事になる。なお、従来は保険者に限度額適用認定証を申請・交付してもらう必要があったが、令和6年12月2日以降は新規発行は終了となる。すでに発行されているものについては、令和7年7月31日までは使用可能だ。ただし、オンライン資格確認に対応していない医療機関等での高額療養費の利用については、保険者に所得区分が記載された資格確認書を申請・交付してもらう必要がある点に注意しよう。


参照:12月2日以降もすでにある健康保険証で受診は可能。「資格確認書」と「資格情報のお知らせ」の違い、限度額適用認定証の新規発行の終了への対応など


 高額療養費では、外来と入院は別のレセプトになることから、個別に精算することになる。ただ、同一医療機関での外来・入院で、いずれも21,000円/月以上の自己負担であれば合算できる。また、世帯合算できる制度もある。ただし、世帯合算する家族は同じ保険であることが必要だ。共働きなどでは注意しておきたい。差額ベット料など保険外サービスについては適用の対象外となる。その他、年に3回以上高額療養費を利用する場合の多数回該当や透析医療を受ける場合などでの軽減措置もある。





難病医療費助成、小児慢性特定疾病について確認

 いわゆる難病と指定難病、さらに難病医療費助成の対象となる指定難病と3つの考え方がある。難病と指定難病の違いは、人口に占める患者割合や治療内容などで異なるもの。さらに、指定難病の中でも疾病ごとに重症度分類があり、重症と判定された場合や、重症と判定されなかった場合であっても高額な医療費の負担が年間で3回以上ある場合は難病医療費助成の対象となる。また、高額療養費と同様に長期にわたっての治療が必要な場合の軽減措置もある。




 難病医療費助成を受けるには、市区町村への申請が必要となる。現時点(令和6年11月30日)では、必要な書類を集めて直接申請する必要があるが、令和6年度中にはマイナポータルを利用してオンライン申請ができるようになる予定だ。ただし、完全にオンラインで完結させるには難病指定医が作成する臨床調査個人票をオンラインで登録してもらう必要があるので、確認が必要だ(オンライン登録に対応いただけない場合は、書類等を郵送するなどの対応が必要になる)。限度額適用認定証の利用においてもそうだが、今後はマイナ保険証を利用していくことが患者自身にとっての負担軽減にもなる。


参照:難病・小児慢性特定疾病領域でのDX推進策の今後を確認。一方で、指定難病の要件の見直しも


 なお、病状や日常生活への影響によっては、身体障害者手帳を併せて申請することも可能だ。障害を原因とした様々な負担感を軽減してくれるもの。

 他にも、日常生活において介護サービスが必要になった場合などでは、障害者総合支援法の対象となるためサービスを受けることができる。ただし、65歳以上となった場合は介護保険法の対象となるため、事業所を変えなければならないこともある。最近では、共生型サービスも少しづつではあるが増えてきているので、将来を見越して共生型サービス事業所を検討しておく事も良いだろう。




参照:障害をお持ちの方の入所施設待機問題への緩和策として、共生型サービスに期待する

 小児慢性特定疾病は、18歳未満の患者を対象としたもの。小児喘息や低身長症などの疾病がある。こちらも助成が受けられる。


 課題となっているのが、移行期医療と呼ばれるもので、18歳以上となったら助成がなくなってしまう問題だ(18歳以上で治療が継続する場合は20歳まで可能)。難病医療費助成の対象とならないものもある。身体障害者手帳を取得する、ということもできるが、思春期の時期にあたり、本人の葛藤もあるだろうし、かかりつけ医が障害者認定医であるとは限らず、異なる受診先に行かなければならないことも出てくる。そこで、移行期医療に関しては一定の経過措置を設けることが検討されている。こちらも今後の議論を注視しておきたい。



参照:(育成医療から更生医療への移行を中心に)自立支援医療制度の支援の在り方を見直す検討が始まる

遠隔連携診療、オンライン診療の利活用を

 令和6年度診療報酬改定では、指定難病・てんかんの患者を対象とした遠隔連携診療料(かかりつけ医が患者と共に難病診療連携拠点病院等の専門医とオンラインで診療を受けるもの)が見直された。これまでは、難病の疑いのある患者が確定診断を受けるまでの期間のみの評価だったが、今回から確定診断後の継続診療(三ヶ月に一回)を評価することになった。患者にとっても負担の軽減になるとともに、身近にかかりつけ医がいた上で日常生活を送れる安心感が得られる。



 なお、200床以上の医療機関においては遠隔連携診療料を算定する患者の再診は、逆紹介患者としてカウントすることになっているため、減産規定において有利になる。また、かかりつけ医からの紹介による受診の場合は、3か月に一度の情報連携で連携強化診療情報提供料の算定も可能だ。



 難病患者管理指導料(指定難病患者の外来診療に対する評価)はオンライン診療の対象ともなっている。医療機関としても対応を検討していきたい。


参照:日常診療と重点外来。逆紹介割合の見直しから読み解く外来機能分化の方向性


 患者側としても医療情報ネット<ナビイ>を利用することで、指定難病の疾病ごとに対応できる医療機関を見つけることもできるようになっているので、震災への備えや旅行先での緊急時の対応ができる医療機関など自ら確認・把握しておくこともおすすめしたい。



本人だけではなく、事業主を含む周囲の理解が重要

 治療と仕事の両立は、人口減少が進む社会にあって重要なテーマになってきている。最近、個人的に気になる議論として認知症治療薬の高額な薬価に対する肯定的・批判的なものがある。認知症を有する患者の介護をする人、そのご家族の立場に立って考えてみると、その薬価は決して高いものではないかもしれないと思うことがある(効果がある前提です)。患者本人だけではなく、その周囲の方々の負担が軽減されることで社会的な生産性は向上することも十分に考えられる。治療と仕事の両立は、その当事者だけではなく、周囲の理解と協力があってこそ乗り越え、新たな社会を創りあげていくことになる。


 いつか、自分自身も公費負担医療などの社会保障制度のお世話になることがあるかもしれない。マイナ保険証の普及で医療分野における社会保障は「申請主義」という特徴はなくなりつつあるが、未だ多くの「申請主義」は存在する。だからこそ、社会保障に関する知識を持つこと、「勤労の義務」を理解して社会保険料の負担をしていくことの意味を理解し続けたい。

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