※令和6年11月10日に開催されました市民公開講座「多発性硬化症を知ろう!」での「これだけは知っておきたい社会保障制度とその使い方」で山口がお話した内容の一部を当日使用した資料と共にご紹介しています。
税と社会保障をめぐる話題が連日取り上げられている。少子高齢社会がじわじわと進展し、2030年からはやや急激な人口減少が、2040年には日本経済の成長・発展に大きく貢献していただいた団塊の世代の皆さんの多くが90歳を迎える。そうした団塊の世代を支えるべく、社会保険から拠出をしているが、物価高の影響もあり、現役世代にとっては可処分所得が減ることにつながり、「世代間格差」が問題となり、先日の国政選挙でも争点の一つにもなり、20−30代の投票行動がその結果を左右したとも言われている。とはいえ、今のままでは労働者人口も減少し、税・社会保険にも影響が出てくる。そこで、消費税の引き上げや相続税の見直し、「勤労者皆保険」の今後具体化していくことなどが考えられる。そして、ちょうど先日の財政制度分科会では高額療養費について、自己負担の上限額の引上げについて言及されたところ(参照:2025年度政府予算編成に向け、秋の建議で社会保障に関する議論が行われる ~病院・診療所間・地域間の偏在、特定過剰サービスに対する減算、市販類似品の自己負担など~)。早ければ、来夏にも実施される可能性もある。
日本の社会保障制度の特徴を考える
日本の社会保障について突き詰めて考えてみると、「申請主義」と「勤労の義務」に集約されると個人的に感じている。申請主義とは、国民自らが申請をしなければ支援を受けることができないということ。だから、「知っている」ということが重要だ。勤労の義務とは、ややその表現に語弊があると感じている。働かなければならない、ということではなく、国民が等しく社会保障サービスを受けるために多くの国民が社会保険を負担する、というような理念のようなものだと言える。
身近な社会保障制度である医療保険について改めて確認してみよう。サラリーマンなどが加入する「被用者保険」、自営業者などが加入する「国民健康保険」、75歳以上高齢者が加入する「後期高齢者医療保険」という大きく3つの種類がある。
被用者保険と国民健康保険では受診に際しての自己負担割合に差はないが、給付・手当で差がある。国民健康保険の場合は、給付・手当が健康保険に比べてやや少ない。また、年金についても基礎年金のみだ。これは、勤労の義務、に起因していると考えられる。サラリーマンの場合は定年や解雇があり、自らの意思とは関係なく働くことができなくなることもあるからだろう。なお、労災保険については業種・業態によるが一人社長でも特別加入できる制度もある(参考:特別加入制度のしおり)。
私自身は、約20年ほどサラリーマンとして勤務した後に、新型コロナ禍で退職し、独立した。その時は個人事業主として一ヶ月だけ働いたが、初めて自ら社会保険料・国民年金を支払い、その負担の大きさと給付・手当の違いに気づいた。そこで、会社を創って協会けんぽに加入した。これからも多様な働き方としての選択肢は増え、フリーランス保護法の施行もあって、勤労の考え方も変わってくる。とはいえ、法人を設立するということは維持費が発生する。また一人社長の会社では労災保険や雇用保険など一部得られないものもあるが、引退後を考えると、年金の面でもメリットの方が大きいと個人的には感じている。新型コロナ禍でひろまったリモートワークを契機に、働き方そのものの見直し、自ら起業するという選択肢を常に持てるようにしておくことが勤労世代には必要だ。
生活保護についても考えておきたい。生活保護とは、生存権の最後の砦だと言える。日常生活を継続していくことに限界を感じれば、迷わず申請することが必要だ。ただし、生活保護は永続的に利用し続ける性格のものではないので、同時並行で、収入や支援を得るための取組を行うことが必要だ。なお、生活保護の申請にあたっては、書類の作成が必要になるので、弁護士や司法書士による無料相談会を利用するなどをおすすめしたい。
また、日常生活の中で医療費等を支払うことで生活保護に該当してしまうというケースもある。その場合は「境界層該当措置」を利用するという選択肢もある。他にも、地域の社会福祉協議会からの低利(1.5%くらい)で保証人不要で貸付を受ける「生活福祉資金」もある。なお、本年10月から始まっている後発医薬品のある長期収載品の選定療養のスタートに伴い、後発医薬品のある長期収載品を自身の嗜好で選ぶ場合は自己負担が発生することを理解しておきたい。
勤労を支える事業主に求められること
最近、医療機関でも月に数回の社会保険労務士による無料相談会などが目立つようになってきている。これは国が推進する「治療と仕事の両立支援」に基づく取組であり、診療報酬でも評価されているもの。
参照:医療機関側と企業側、働き続けるための支援~健康保険サポーター、療養・就労両立支援指導料~
医療機関では働き方改革が話題になっているが、一般社会においても、とりわけ採用力の弱い中小企業でも同様に話題になっている。社会全体で生産性向上を図る仕組み作りが必要となっている。そこで、先の国政選挙において「103万円の壁」問題が争点となり、具体的に進みはじめる見通しだ(参考:年収の壁について知ろう)。
事業主に対しても様々な支援策がある。特定求職者雇用開発助成金などだ。こうした働き方改革に関する助成・補助は、国だけではなく、都道府県単位、市区町村単位でも様々なものが出ているので、J-Net21(参照:補助金、助成金、給付金。そして、J-Net 21。看護師等補助事業は10月以降は診療報酬で。)を利用して検索・確認することを定期的に行うようにしたい。
多くの地域では2030年が一つの契機となって、人口減少が一気に進んでいく。医療金にとっては新規患者数の減少に直面してくるので、既存の患者に対してのかかりつけ医機能を発揮していくことがより重要となる。一般社会においては、従業員が健やかに一日でも長く働き続けてもらうための健康意識向上と従業員のかかりつけ医とのリレーションシップが求められてくるだろう。