総数の確保から適切な配置へ ~新たな地域医療構想における医師偏在対策に関する取りまとめ案を確認する~

12/12/2024

外来診療 経営 在宅医療 地域医療構想 働き方改革

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 令和6年12月10日、第15回新たな地域医療構想等に関する検討会が開催され、新たな地域医療構想と医師偏在対策に関するとりまとめ案が議論され、大筋で了承されている。新たな地域医療構想については、これまで伝えてきた議論の内容を踏まえた内容となっている。

参照:医療機関機能のカテゴリー・類型(2分類・4+1類型)が明らかに。診療報酬等との紐づけ予測をしてみる。

 一方で、医師偏在対策についてはこれまでの議論を受けてやや見直されている面もあるので、ここでは医師の偏在対策に関するポイントを確認していきたい。

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医師偏在対策の焦点:総数の確保から適切な配置へ

 今回の医師偏在対策を一言でいえば「総数の確保から適切な配置へと重心をシフト」となる。医師の総数については着実に増加しているものの、地域・診療科での偏在が課題になっているのが現状だ。

 先を見通すと診療所においては、医師の高齢化が進行している中で、診療所医師が80 歳で引退し、承継がなく、新規開業がないと仮定した場合、2040 年においては、診療所がない市区町村が170 程度増加すると推計されており、診療所の地域偏在への対応も求められる。

 診療科偏在については、平成20 年度から令和4年度までの診療科別の医師数の推移をみると、総数は約1.2 倍に増加している中、診療科別の増加幅は様々であり、リハビリテーション科、形成外科、麻酔科、放射線科で約1.41.4~1.6 倍に増加しているが、外科等の一部の診療科は横ばいとなっている。また、近年、特に若手医師において、美容医療に従事する医師が増加傾向にあることが影響を与えている。また、診療科別にみると時間外・休日労働時間について、年1,860 時間を超えている医師の割合をみると、脳神経外科、外科等で高く、一部の診療科で長時間労働により医師の負担が大きくなっている。

 地域差と診療科間差、そして世代差(若手医師を対象とした医師養成過程中心の対策から、中堅・シニア世代を含む全ての世代の医師へのアプローチ)を考慮した適切な医師配置を整備し、新たな地域医療構想を創り上げていく取組が必要となっている。

地域差問題の解消①:重点医師偏在対策支援区域(案)

 重点医師偏在対策支援区域とは、へき地だけではなく急激な人口構造の変化や医師の高齢化により医療提供体制の維持に課題が生じる地域も対象とすることとなる。当該地域では、承継・開業する診療所の施設整備、設備整備、一定期間の地域への定着に対する支援を行うことが考えられており、「医師偏在是正プラン(仮)」を緊急的に先行(令和8年度中)して策定・取り組むこととなる見通しだ。


 また、当該区域内の一定の医療機関に対して、派遣される医師及び従事する医師への手当増額の支援を行うこと、土日の代替医師確保等の医師の勤務・生活環境改善の支援なども検討されているとともに、中核病院等からの医師派遣により医師を確保するため、当該区域内の医療機関に医師を派遣する派遣元医療機関に対する支援を行うこととなる見通しだ。

 その一方で、議論となっているのが医師への手当増額の支援について。医師の人件費は本来診療報酬により賄われるものであるが、特定の地域に対して診療報酬で対応した場合、当該地域の患者負担の過度の増加をまねくおそれがあることから、診療報酬の対応でなく、全ての被保険者に広く負担いただくよう保険者からの拠出を求めることが検討されている。

地域差問題の解消②:外来医師過多区域の設定と新規開業に対する規制的手法

 既存の外来医療計画では、外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みはあるものの、実効性は低くなっていた。

 そこで、実効性を確保する(要請から勧告など強化)ための見直しが行われる。そこで、キーワードとなるのが「外来医師過多区域」だ。

 都道府県において、外来医師偏在指標が一定数値(例えば標準偏差の数倍)を超える地域(外来医師過多区域)における新規開業希望者に対して、医療法に基づき、開業の6か月前に(これまでの議論では3か月前と提案されていた)、提供する予定の医療機能等を記載した届出を求めた上で、当該届出の内容等を踏まえ、地域の外来医療の協議の場への参加を求めることができ、また、地域で不足している医療機能(夜間や休日等における地域の初期救急医療、在宅医療、公衆衛生等)の提供や医師不足地域での医療の提供(土日の代替医師としての従事等)を要請することができるようにする見通しだ。外来医師過多区域の設定、当該地域で不足している医療機能等については、都道府県において、地域の外来医療の協議の場における協議内容を踏まえ、事前に公表することとなる見通しだ。なお、要請の対象区域についてだが、外来医師過多区域単位ではなく、市区町村単位や地区単位とすることもありうることが明記されている。区域は思いのほか広く設定されることもあるということだ。

 また新規開業前に行われた要請等の実効性を確保するための仕組みとして、開業後、要請に従わず、地域で不足している医療機能の提供や医師不足地域での医療の提供を行わない開業者に対して、都道府県において、都道府県医療審議会での理由等の説明を求めた上で、やむを得ない理由と認められない場合は勧告を行い、勧告に従わない場合は公表を行うことができることが検討されている。今後は新たな地域医療構想の中での議論となっていくので、要請に従わない場合は連携に支障が出て、経営問題となってくることが考えられるだろう。

 新規開業前に要請された診療所が当該要請後に保険医療機関の指定を受けた場合などは、有限な保険料財源を原資とする保険医療機関として、より効率的な医療提供を行うよう、その提供内容の見直しを促す観点から、厚生労働大臣が行う保険医療機関の指定については、その指定期間を6年でなく3年とすることが考えられている。そして都道府県は、指定期間が3年となった保険医療機関が3年後の更新を行う前に、地域で不足している医療機能の提供や医師不足地域での医療の提供といった地域医療への貢献等を都道府県医療審議会等において確認した上で、必要に応じて、前述の勧告を行い、厚生労働大臣は勧告を受けた診療所の保険医療機関の指定期間を3年より短い期間とすることを可能とすることとなりそうだ。

 さらに、都道府県医療審議会や外来医療の協議の場への毎年1回の参加を求めるとともに、要請又は勧告を受けたことの医療機能情報提供制度による報告・公表、都道府県のホームページ等での勧告に従わない医療機関名や理由等の公表、保健所等による確認、診療報酬上の対応、補助金の不交付等を行うことも検討されている。個人的には、こうした方針をみて、駆け込み開業が増えてしまって、これからの2年間で需給関係が変わってしまうのではないかと懸念している。

 他に、保険医療機関に運営管理の責任者として管理者を設け、保険診療に一定期間従事したことを要件とし、従業者の監督や当該機関の管理及び運営の責務を課すことが考えられる。また、医師少数区域等においては、要件の適用に当たって一定の配慮を行うことが求められる方針だ。

外科医に対する支援

 外科医師が比較的長時間の労働に従事している等の業務負担への配慮・支援等の観点での手厚い評価について、医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会等における議論を踏まえつつ、別途、必要な議論を行うことが検討される。

全国的なマッチング機能を

 中堅・シニア世代等の医師を希望に応じて医師不足地域における医療ニーズにつなげるため、中堅・シニア世代等の医師を対象として、医師不足地域での医療に関心・希望を有する医師の掘り起こしを行い、必要に応じてリカレント教育や現場体験につなぎ、医師不足地域の医療機関とのマッチング、その後の定着支援等を行うため、全国的なマッチング機能の支援を行うことが検討される見通しとなっている。

 新たな地域医療構想における医師偏在対策について、重要と思われるポイントをこれまでの議論を踏まえた修正点なども確認しながら整理してみた。繰り返しとなるが、新たな地域医療構想では、外来・在宅も含めたものとなる。現行の地域医療構想が着実に進み、病床の適正化は進み、療養する場は在宅・施設へと広がり、外来・在宅医療による対応が重要になる。しかしその一方で、地域の偏在・診療科の偏在・開業医の高齢化の問題がある。どの地域でも等しく医療を受けられるための環境整備として、保険料を払っているにもかかわらず医療サービスがないということがないように、新しい地域医療構想では医師偏在対策は重要なキーワードとなっている。

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