令和6年12月12日、第189回社会保障審議会医療保険部会が開催された。社会的関心事ともなっている103万円の壁問題への対応の他、医療DXの運用コストとその負担について、高額療養費の見直しの方向性について議論されている。
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電子カルテ情報共有サービスの運用コスト、立上期は国が負担。医療機関・保険者による負担は、サービスが確立してから
電子カルテ情報共有サービスとは、メーカーに関係なく、電子カルテ情報を医療機関同士で情報共有する仕組み。なお、「患者サマリー」という機能があり、生活習慣病管理料にえる「療養計画書」を代替することができるため、「療養計画書」の交付等が不要になるなど、医師の負担軽減につながるなど期待されている。
しかし、電子カルテが導入されていることが必要であることから、必要最低限の機能を搭載する標準型電子カルテを開発し、提供することで、電子カルテ情報の共有化を進め、医療サービスの効率化・医師の負担軽減などを推進していくこととなっている。
参照:電子カルテ情報共有サービスに関する導入補助金、そしてモデル事業を年明けから開始へ
参照:電子カルテ情報の標準化に向け、標準型電子カルテの今後と標準規格化対応への支援策が示される
当然のことながら、導入・運用には費用が発生するもの。すでに導入に関する補助などもあるが、改めて今後の運用費用について、今回議論された。
そこで今回の議論では、立ち上げ時は国が負担をし、一定の導入・普及が確認できた段階で、保険者と医療機関が負担をする、という大筋の流れが示された。
電子カルテ情報共有サービスを含む医療DXの取組は、2030年をゴールとして100%導入を目指している。
令和6年度診療報酬改定では医療DX推進体制整備加算が新設されるなど、前倒しでゴールを迎えることも予想されると同時に、当然ながら機能のアップデートも継続して行われていくことが考えられる。費用の負担については、これからも折を見て継続して議論されていくことになるだろう。医療機関としては、補助金・助成金に頼らないDXの保守管理を意識しておくことが必要だ。
また、医療DXに関連する費用負担について、難病医療費助成・小児慢性特定疾病医療費助成等の公費負担医療に関するマイナ保険証を利用した効率的な申請についても今後の方針が示されている。
現状では、まだ一部の地域で先行的に実施されているものだが、今後全国展開をしていくにあたっての自治体の費用負担についても提案されている。システムを使用するため、その維持費等発生するものの、作業等のコスト、時間的なコストなどを考えると、目で見てわかること以上のメリットが職員にあること、何よりも患者本人にも負担軽減となるメリットがあることは言うまでもない。公費負担医療を必要とする方こそ、マイナ保険証の利活用を積極的に進めていってほしいと思う。
参照:難病・小児慢性特定疾病領域でのDX推進策の今後を確認。一方で、指定難病の要件の見直しも
高額療養費、自己負担限度額と70歳以上の外来特例の見直しの案が示される
医療DXに関する負担を検討するその一方で、患者側の自己負担に関する議論も行われている。高額療養費の自己負担割合及び所得区分の見直しがそれだ。年内にも方針をとりまとめ、早い実現を目指す。
今回の議論では、現行の所得区分をベースにに自己負担限度額を複数のパターンで引き上げる案が示されている。ただ、所得の高い層ほど自己負担限度額の引上げ幅は大きく、平均的な収入を下回る層では引き上げ幅は小幅となっている。
また、70歳以上の外来特例(住民税非課税世帯:8000円/月、年収156万~約370万円世帯:1万8000円/月)についても見直しの方針。特例そのものを廃止する案についても検討されているが、受診控えにつながらないか、懸念されるところもある。
高額療養費の自己負担割合が引き上げられることで高額な後発医薬品・バイオシミラーの普及促進につながる可能性があることだろう。これまで、高額療養費の対象となるためにあえて先発医薬品を選択してきたケースが多々あった。本年10月に始まった長期収載品の選定療養もあり、高額療養費の見直しがさらに後発医薬品やバイオシミラーを選択することの経済的負担軽減を後押しすることとなる可能性があるだろう。