看護師の負担軽減への対応が急務。病床機能に応じたNSTや入退院支援部門の評価を検討へ 他
令和7年6月26日、令和7年度第5回入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催されている。この分科会では、主に病棟における他職種連携によるアプローチ・タスクシェアなどについて議論されているが、職種別に看護師、セラピスト、管理栄養士の活躍を評価する視点、入退院支援部門に対する評価の妥当性、入院時食事療養費についてなど多岐に及んでいる。
ご案内:HCナレッジ合同会社による医療政策ニュース解説のコンテンツ
大学を含む看護師養成校からの卒業者数が減少トレンド入りの兆候。入学者数も同様に。看護師の負担軽減対策が急務
勤務医の働き方改革も重要だが、その勤務医の負担軽減を図るための一つの手段でもある、タスクシフト・タスクシェアにおいて、看護師の活躍は重要であるとともに、介護保険施設や在宅など、活躍が期待される場は広く、求人倍率は高い。しかしながら、その看護師を養成する学校(大学を含む)の卒業者数は頭打ちの状況となり、さらに、新入学者も同様に頭打ち、そして減少のトレンドに入ろうとしている。
すなわち、看護師の新規採用が難しくなることを意味する。特に影響を受けるのは、比較的若い看護師の多い、高度急性期・急性期の病院だろう。看護師の処遇改善を進めることも大事だが、看護師のイメージアップで志望者数を増やす施策も大事ではないだろうか。特定行為研修などでよりクリティカルな領域にチャレンジできることや、ICTの活用が進んで負担軽減もできつつあるなど世間にアピールをすることと同時に、小中学校での説明会や受験対策までを行うなども検討できる。危機感を煽るだけではなく、前向きに看護の魅力を伝えることがもっと必要だとも思う。
最近、一般社会では退職代行ビジネスの話をよく聞くが、医療機関でもそうした話が聞かれる。そうしたビジネスが話題となるのは、職場の環境に原因があるのは確かなことだが、一方で、退職代行事業者はそのまま転職支援を行なっているケースが多い。さらに、退職代行サービスの利用者に対して再利用することや知り合いに紹介することで割引クーポンを配布するところもある。見方を変えると、転職支援事業にもみえる。ただ繰り返しお伝えしておきたいのは、職場に課題があること、採用者とのミスマッチが起きていることが根本にあることは覚えておきたい。
ところで診療報酬では、看護師の負担軽減策として、看護補助者の配置などに関する加算を充実させてきており、その看護補助者の業務内容も直接的ケアまでを評価するなどしてきている。IoTなどのサービス利用も促進しているが、残念ながら導入はまだ3割程度。ただ、実際に利用している病院からはある程度の効果があることは明確だ。
私も複数の病院で転倒転落を予防・早期に検知できる製品の実証検証などを行うなどしているが、これまでやってきたこととの違いなどからの不安もあり、導入には時間もかかる。まずは、小さく始めて、徐々に広げていくこと。何よりも時間がかかることなので、早く始めて、ダメだと思ったら早く止める意思決定も大事だと感じている。私としては、検証は3ヶ月の期間くらいがちょうど良いと感じている。
看護師の負担軽減策の最大の課題は人手不足であることは間違いないが、負担軽減策で効果があるのは業務分担であることも示されている。先に述べた看護補助者との連携が特に重要だ。しかし、看護補助者についても採用に苦戦している。地方都市ほど、インバウンドの影響で宿泊施設等との獲得競争に巻き込まれたり、大規模ショッピングセンターとの獲得競争に巻き込まれるなど、他産業との競争にさらされているといえる。処遇の面で何らかの差をつけることもそうだが(キャリアプラン、手当等の補助)、医療機関ならではのメリットなどを打ち出していくことがポイントになる。
特定行為研修修了看護師についても議論がされている。修了者は大きく増加し、病院に配置が進んでいる。勤務医の働き方改革に一定の効果も見られることから、今後評価の拡充が期待される。
参照:看護の専門性に関する様々な認定・資格、研修の整理。診療報酬を含む医療政策との関連性の確認
多職種連
①セラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)について
病棟における職種毎の役割や評価についても検討されている。まずセラピストについてみて。専従のセラピストが病棟において疾患別リハビリテーションと別に行う業務について注目されている。看護職員からのタスクシフト・タスクシェアに関する業務もになっていること、「POC(Point of Care)リハビリテーション」の実施など話題になっている。
「POC(Point of Care)リハビリテーション(短時間のリハビリテーション)」とは、療養中の患者の傍らで、個別に短時間(20分未満/回)実施するもので、疾患別リハビリテーション担当の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が空き時間に実施していることがあり(回復期リハビリテーション病棟入院料1~4を算定する病棟のうち、短時間のリハビリテーションを実施していた病棟は10~20%<n=482>)、疾患別リハビリテーションと組み合わせることで効果的な介入ができると言われている。タスクシフト・タスクシェアの観点、ADLの維持・向上への期待から、何らかの評価や地域包括医療病棟においてクリアが難しいといわれる休日リハビリテーションなどの代替などとして期待できないだろうかと思う。
②管理栄養士について。病床機能によって異なる栄養管理・NSTに対する評価の見直し?
リハビリテーション・栄養・口腔管理が前々回の骨太の方針に明記され、診療報酬にも盛り込まれたのは記憶に新しい。また、入院料の施設基準に栄養管理体制の基準を明確にし、GLIM基準を用いることを望ましいとした。その結果、地域包括医療病棟や回復期リハビリテーション病棟などを筆頭に、GLIM基準の活用は進み、栄養評価に時間はかかるものの、GLIM基準という栄養の共通言語ができたことで多職種連携が進んだとの回復期リハビリテーション病棟の調査結果が報告されている。
栄養療法に関する取組に注目が集まる中で管理栄養士の病棟配置に関する評価も拡充してきている。ただ、就業時間の5割以上の時間を病棟で従事している割合は4割弱という状況。病棟での従事時間が短い医療機関では、栄養情報提供書の作成等の割合が低いことがわかっている
また、NST(栄養サポートチーム)加算に関する状況を見てみると、入院料によって差があることもわかっている。以前。療養病棟では届け出が少ないこと、その理由として人材確保や研修の受講などに時間を割くことが困難であることを伝えたが、今回の調査結果では、NSTのメリットが感じられない(点数なのか、負担軽減なのか、治療上のことなのかは不明)という声もあった。
栄養療法は早期離床もさることながら、リハビリテーションへの効果(栄養価を高めることで筋力に影響する)も期待される。また、療養病棟では中心静脈栄養から経腸栄養への移行などにも有用だ。病棟機能や人員体制にあった評価の在り方、要件の設定など検討されることが予想される。
入退院支援についても病床機能によって要件などを見直しへ?
早期退院を促すため、また、介護保険施設等との円滑な連携を促進するために、入退院支援部門の業務に対する評価は診療報酬改定の都度拡充し、算定件数も増加の一途だ。急性期一般入院料での届出が多いのは、人材確保ができており、緊急入院が多いからだともいえる。
しかしながら、次のような課題もある。
・入退院支援加算は、急性期一般入院料1~3では9割、4~6では6割を超える医療機関で届けられていたが、地域一般入院料や療養病棟入院料等では、3~4割が入退院支援加算の届出がなく、かつ、入退院支援部門も設置していなかった。
・入退院支援加算を届け出ていない理由としては、「専従の看護師の配置が困難なため」や「専従の社会福祉士の配置が困難なため」、また「退院支援が必要な患者が少ないため」が多かった。
令和8年度診療報酬改定では、先のNSTと同様に効果があることはわかっているので、入院料に応じた点数や要件の設定が求められるところだろう。特に療養病棟等においては、従来の入退院支援部門の役割とは異なる在宅移行に対する新しい項目とすることも一つの対応策となるだろう。
なお、今回の調査結果では、入院時支援加算(予定入院に対する支援を評価する項目。入退院支援加算に対する加算評価)の有無で平均在院日数に差があることが分かった。多くの医療機関での算定ができるような要件の見直しなど期待される。
退院時共同指導料についても調査結果が報告されている。課題に見えたのが、指導料1の算定は指導料2に比べて少ないこと。指導料1とは、退院前カンファレンスに参加する地域の医療機関・訪問看護ステーション・薬局などが評価されるもの。病院からの情報発信の在り方など考えさせられると共に、来年度からのかかりつけ医機能報告制度による協議の場の役割に大きな期待が寄せられる。かかりつけ医機能報告への参画は、義務ではないが、実務では必要なものであり、診療報酬の要件に加えられる可能性があることを意識して参画したい。
連携に関して言えば、令和6年度診療報酬改定では介護保険施設等との連携を評価する項目も新設されている。緊急時の相談対応など行われているが、やはり今後高齢者が増えてくることを考えると高齢者救急等の対応も充実させていくことが必要だ。
参照:地域医療情報連携NWと全国医療情報プラットフォームの関係性と併存の必要性
参照:令和6年度診療報酬改定の結果の検証と次回改定への影響は?~在宅医療領域について~
いわゆる下り搬送が評価されることとなっているが、実際の搬送においては負担も発生する。また、救急隊も転院搬送も含めて高齢者救急の影響で出動が増えている。そこで、医療機関に救急車を配備するべく消防機関で使用を終えた救急車の引渡していくことや、「救急患者連携搬送料については、今後、日数経過に伴う点数の減少幅を抑えることや3日以内の制限日数を伸ばすこと等により、更なる病院救急車の活用につながることが考えられる」といった内容が先日公表された救急業務の在り方検討会報告書で見られる。
参照:救急業務を安定的に、持続的に提供しつづけるための「マイナ救急」「♯7119」「救急患者連携搬送料」「地域連携」
屋外等でのリハビリテーションの制限及び評価の見直しや退院前指導に関する評価の拡充には期待を寄せたい。また、高次脳機能障害の患者に対する入院前から退院後の位置連携に対する問題点が挙げられており、横の連携(急性期・回復期・外来)を評価する診療報酬など期待されるところだ。
入院時食事療養費、コスト削減に苦慮
入院時食事療養費について、この4月茂林寺的対応として引き上げることとなった。今年度の引上げ前の調査だが、委託費を引き上げている。経費削減に苦慮している実態も明らかだ。
個人的には、患者負担の引上げも検討すべきところに来ていると感じている。