令和7年6月6日、第7回経済財政諮問会議が開催され、骨太の方針2025の原案が示された。ここでは、医療分野に焦点を当てて、その内容と今後の動きについて確認をしていきたい。なお、私の興味を踏まえて整理しているため、資料の掲載順はばらばらです。







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「賃上げこそが成長戦略の要」を実行するための公定価格の引き上げを明言

 以前もお伝えしたように、今回の骨太の方針2025は「賃上げ」を起点とした成長戦略を描いたものとなっている。また、石破総理の肝いりともいえる防災対策や地方創生に関連するキーワードが並び、医療・介護にも間接的に関わってくる内容となっている。


参照:医療分野における改革実行プログラム2024の現在地、見通しを読む


 病院は1985年から多く建設されているが、建物の法定耐用年数は39年。すなわち、2024年から建替えが必要になっている病院が多い。第4次医療法改正では一般病床の病床の最低面積基準を6.4平米とし、病院の建替えを契機に変更することが求められ、さらに地域医療構想を推進すべく、統合やダウンサイジングも含めて見直す時期に差し掛かっている。





 先日、病床数適正化支援事業の第一次内示が公表されているが、今後も対応は必要となる。防災の観点もさることながら、地域の実状にあった病院の在り方、医療提供体制作りをどうするかといった地方の課題解決をどうしていくか、密接にかかわってくる。


参照:病床数適正化支援事業の第一次内示、支給条件の厳格化で都道府県の今後の対応に注目が集まる



 令和8年度診療報酬改定に向け、公定価格の引上げを通じた処遇改善を明記している。コストカット型からの転換とのことだが、保険料負担の在り方も踏まえ、従来以上にメリハリの効いた内容になるのではないかと想像する。




 例えば、高度急性期・急性期などで医療の集約化が必要な領域には様々なコストも加味した手厚い評価へ、一方でこれから議論・検討される宿直医の遠隔業務については宿直医を配置しない場合(慢性期病院)は評価を引き下げ、遠隔支援する病院(急性期病院?)は評価を引き上げるなども考えられるのではないかと思われる。公的保険の範囲が制限されていく中で、医療依存度の高い患者をどれだけ受け入れ、効率的な医療を提供できているのか、DPCやデータ提出加算などで実績が蓄積されているからこそ、厳格で、メリハリの効いた設計となっていくと思われる。DPCの見直しで徐々に高度急性期化と内科系急性期すなわち地域包括医療病棟への移行の二極化が進んでいるのは、一連のデータの蓄積があってこそだと思う。


地域医療構想実現の手段としての地域医療連携推進法人、そして社会福祉連携推進法人

 ここ数年の骨太の方針では、地域医療連携推進法人の活用が盛り込まれている。今回の骨太の方針2025でも同様に盛り込まれ、合わせて社会福祉連携推進法人も明記されている。



 令和9年度からの新たな地域医療構想では、外来・在宅・介護も含まれていくことになる。とりわけ課題になるのが、小規模事業者の多い介護・福祉の領域だろう。地域における横のつながりは、着実に増えているのは先日の地域医療連携推進法人に関する報告書からもわかっている。今後さらに拡充していくために、二次性骨折予防管理料のような横のつながりを評価する項目や介護保険施設等の協力医療機関となることを推進する評価などの拡大と評価の充実なども大いに期待されるところだろう。


参照:病床融通特例の活用など、地域医療連携推進法人の取組に関する調査報告が公表。社会福祉連携推進法人という選択肢も合わせて確認



 その一方で気がかりなのは、病床数の適正化だ。自民党・公明党・日本維新の会では、11万床の「余剰病床」の削減について、合意している。原案では「医療需要の変化を踏まえた病床数の適正化」という表現にとどまっているが、閣議決定までに見直しなどがないか注視しておきたい。とりわけ「余剰病床」の定義など確認したいものだ。



医療費適正化の一環として、バイオシミラーの推進、OTC類似薬の自己負担の見直し、そして地域フォーミュラリの普及

 先ほどに続くように、OTC類似薬の患者自己負担についても政治の世界で活発にやり取りが行われているが、骨太の方針2025には薬剤自己負担について検討する、ことが明記された。こちらも、閣議決定までに表現の見直しなど注視しておきたいポイントだ。



 医療費適正化の観点としては、バイオシミラーの使用促進、地域フォーミュラリについても明記されている。バイオシミラーについては、昨年10月から始まっている後発医薬品のある長期収載品の選定療養の制度では対象に入っていないものの、院外処方割合が高まっていることわかっているため、次回改定では対象に加えられる可能性が高いと思われる。


参照:令和6年度診療報酬改定の結果の検証と次回改定への影響は?~後発医薬品の使用促進について~


 なお、地域フォーミュラリについては診療報酬というよりは保険者努力支援制度、すなわち保険者による医療費適正化の取組での評価となることが濃厚だ。

 また、リフィル処方箋の普及促進についても明記されるとともに、保険外併用療養の拡大、さらには保険外診療をカバーする民間保険の開発などと踏み込んだ記載もある。リフィル処方箋については、今年度中にも各都道府県で目標値が設定されることとなっている。リフィル処方は、200床以上病院における外来医師の負担軽減に大いに効果を発揮しているケースをよく耳にする。もちろん、患者の状況・理解が前提だ。




 保険外診療については、OTC類似薬の患者自己負担割合にも大きく関連してくることだ。今後の外来診療を考えると、一般診療所では慢性疾患患者の定期的な受診(重症化予防)を中心に、専門診療所・病院では医療依存度の高い患者を中心(集中的な治療)として、複数疾患を有する患者の場合はリフィル処方も活用した疾病ベースでの受診対応(疾病ごとのメリハリ)など考えていくことも必要だと感じる。人口減少時代において、新規患者を獲得し続けていくのは困難だ。既存の患者が重症化せず、受診回数は減ろうとも同じ医療機関に通い続けることで経営をな立たせるという考え方が必要だ。そして、減る患者数・売り上げを考えると、保険外診療を自院のサービスに組込み、保険診療にもつながるサービスを提供し、減収分をカバーしていくことも必要になるだろう。アプリを活用した健康管理など、事業主としてサービスのアイディアを出していくことも必要だ。


 DXの推進についてもこれまで同様に引き続き明記されている。在宅領域、看護領域での展開が具体的に記載されている。標準型電子カルテについて、2025年度中に本格運用の具体的内容を示すこととされている。予定では、2026年度からとなっていたが、やや遅れるのかと懸念される書きぶりだ。






女性の活躍を支援するための医療機関の取組、医歯薬連携の強化

 前回の骨太の方針でも掲載されていた女性の活躍の支援について、今回も盛り込まれている。人口減少に伴い、労働力も減っていく中で、女性の労働力は必要だ。そこで、女性の健康課題と両立支援に対応する環境整備が今回も盛り込まれている。

 


 歯科領域についても、全身の健康との航空の健康に関するエビデンスを活用することの記載がある。前回の骨太の方針では、リハビリテーション・栄養との関連性について記載があり、診療報酬においてもリハビリ・栄養・口腔に関する項目の新設や、生活習慣病管理料における糖尿病患者に対しては歯科受診を促すことや治療管理に歯科医師の連携参画が望ましいことなど盛り込まれたところ。また、従来の診療情報等連携共有料も整理された。今回も医歯薬連携体制の構築と強化が盛り込まれている。外来診療においては、こうした横の連携による評価をどれだけ獲得してくことができるかポイントになるだろう。




 
 今回の原案で個人的に最も注目したのは「地域協同プラットフォーム」を支援する、という文言。ローカル・ゼブラ企業を育成することを目的とした文言で、ローカル・ゼブラ企業とは地域課題解決を事業としつつもしっかり収益をあげられる企業。保険外診療を機会と捉えて経営の持続可能性を高めていくための一つの選択肢として、業界の枠を超えた連携に取組んでいくことも本格的に考えていきたい。


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