令和7年1月23日、社会保障審議会医療保険部会が開かれ、電子処方箋を巡る現状と高額療養費の見直しについて議論されている。電子処方箋については、その前日に公表された「第6回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム」の資料でも伝えられているが、目標の修正をせざるを得ない状況となっている。そのため、令和6年度診療報酬改定で新設された医療DX推進体制整備加算で経過措置となっている令和6年度末までの電子処方箋の導入については見直しが迫られることになるだろう。
)されており、患者の受診行動の変化にも関わることから医療関係者としても注目をしておきたい。
電子処方箋の現状。令和7年度の対策は?
薬局では60%を超える導入率だが、医療機関は低迷している。目標達成は厳しく、修正が必要になる。
例えば、病院で普及が進まない理由の一つとしてよく耳にするのが、医師がHPKIカードを取得しない、ということ。理由もよくわかる。発行のための手数料を個人が負担することになるためだ。医師個人に紐づくものであることと、もし医師が退職した場合を考えると、病院として負担することは難しい(医師会会員に入ることで発行は無料になる)。在職中は取得や更新に対する病院側からの補助・支援を検討してもよいかもしれない。また、HPKIカードを取得していたとしても、所持しておらず、電子処方箋が使えないことがある、という声もある。ただこの声については、事前にマイナポータルを利用してオンライン登録をしておくことで回避できる(リモート署名)ので、運用について周知をしておくことが必要だ。
多くの医療機関・薬局が導入して運用を開始してこそ、電子処方箋の価値は発揮されるので、まずは導入の障害となっている不安感や経済的負担感を排除していくことが必要だ。そこで、令和7年度も令和6年度補正予算なども利用して積極的な支援が行われる。
電子処方箋そのものには、処方段階でのポリファーマシー対策ができるなどのメリットがある。患者にとっても、特に高齢者や小児など待ち時間が苦痛に感じる方にとっては、待ち時間を短くできる(短いと体感させる)メリットもある。まずは、最もメリットを享受できるであろう患者に提案をし、利用を促していくことで社会的にもそのメリットをもっと知っていただくような取組を通じて、社会的な機運を高めていくことが必要だと感じる。
高額療養費の見直しを契機に、受診回数の見直しとBSを含む高額な後発医薬品の使用促進に
高額療養費については、本年8月に自己負担上限額の見直しが第一段階として行われ、来年(令和8年)8月には所得区分を細分化しての自己負担上限額の引上げを、再来年(令和9年)8月にも引上げを行うという三段階での見直しとなる。
今回の見直しは、いわゆる社会保険料負担の世代間格差の緩和と所得区分の見直しからもわかるように同世代間での格差の緩和という目的がある。個人的には、世代間格差よりも、就職氷河期の影響を受けている世代や多様な働き方を選択することで広がっている現役世代の中での格差がこれからは大きな問題になってくるのではないかと感じている。
高額療養費の見直しは3年かけて行われることになるが、患者の受診行動にも変化は起きることが考えられるし、医療機関としても患者の事情を考慮した対応・提案をしていくことが必要になってくる。個人的に考えられる環境変化と対応について以下に列記してみる。
①BS(バイオ後続品)を含む高額な後発医薬品の推進
これまでは、高額療養費の対象となるために先発医薬品を選択する、というケースがよくあった。しかし、自己負担上限額が引き上げられることで、先発医薬品を選択しても自己負担上限額に達せない、ということが起こり得る。その場合、患者としてはBSや後発医薬品を利用した方が自己負担が下がることになる。さらに、昨年10月からの長期収載品の選定療養もあるし、現在は対象となっていないBSなども対象になっていく可能性がある。医療機関としては、BSや後発医薬品に対する備えと、患者に対する情報提供が必要だ。また、昨年9月には後発医薬品の使用促進策がアップデートされているが、後発医薬品については数量割合の他、金額ベースでの目標値が設定されたところ。BSや高額な後発医薬品の使用促進を指しているといえる。
②受診回数を見直す(年間4-6回の受診に減らすなど)
受診頻度を減らし、1回あたりの医療費を多くすることで、高額療養費の対象になるようにする、ということも状況によっては選択肢になる。受診回数を減らし、1回あたりの診療で検査等を集中的におこない、長期処方としてもらうなど。ただし、受診間隔が空くことで重症化の懸念もあるため、院外処方であれば薬局による服薬フォロー(服薬情報等提供料1・2など)と必要に応じた受診勧奨のお願いなど合わせて行っておきたい。なお、医療機関・薬局としては、受診回数が減ることを前向きに捉え、在宅医療や専門外来、健診、自費診療など新たな事業へのチャレンジの時間に充当していくことも考えたい。
医療機関の経営状況も厳しいが、患者も厳しい。患者の事情もよく理解した対応を心掛けると共に、重症化しないための地域の医療資源も活用したフォローを絶えず行い、当該医療機関に定期的に通い続けていただけるようにすることが、これからかかりつけ医機能に求められる姿であると共に、人口減少時代における医療機関・薬局の経営戦略となる。