令和7年8月7日、子ども家庭庁より事務連絡「保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトへの対応について(令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組)」が各自治体や学会等関連団体に発出されている。


参照:保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトへの対応について(令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組)<全日本病院協会>


 かつて、信仰を理由にその親が子供の輸血を拒否し死に至ったという事柄があった。信仰の自由は守られて当然ではあるが、殉教すること、特に子供に殉教を強いるようなことが我が国にあってはならないと強く思う。

 今回の事務連絡では、保護者の思想信条等に起因すると思われる医療ネグレクト事案が救命救急センターが設置されている医療機関88か所のうち24か所において40件確認されていることを基に対応について示している。


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保護者に理解を得ることは基本だが、緊急時に、医療機関の判断で医療を行うことができる

 基本として保護者に説明し、理解を得るための対応を行うのは当然だが、上手く理解が得られない場合などに、児童相談所に通告を行っているといった状況が確認されているとのことだ。また、緊急時の対応についても医療機関側の判断で必要な医療行為を行うにあたって、法的な責任の確認や児童相談所への相談・確認を事前に行い、取り決めを行っている医療機関もあった。

 保護者の同意が得られなくても医療機関の判断により医療行為をすることについては以下のように一般論としていえることを本事務連絡では明記している。


・ 当該医療行為が、社会生活上、正当なものとして許容されるものと認められる場合には、正当行為(刑法第35条)として違法性が阻却され、刑事責任を負わないものとされ得る。

・ 緊急事務管理(民法698条)の規定によれば、医療機関の医療行為がこどもの身体に対する急迫の危害を免れさせるためにした事務管理であると認められる場合には、医療機関は、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わないものとされ得ると考えられる。(法務省と協議済み)


 そこで、今回の事務連絡では「令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書」の内容を踏まえて、以下の児童相談所と医療機関に関する連携について対応を例示している。


・ 医療機関が躊躇なく児童相談所に通告できるような工夫が求められること

・ 児童相談所が一時保護等の必要性を判断する視点、その判断に必要な情報、手続きに要する期間等を医療機関と共有しておくこと

・ 児童相談所と地域の基幹病院との関係構築や医療機関との間で顔の見える関係づくりが重要であること

・ 都道府県や指定都市にある中核的な医療機関を中心として、児童虐待対応のネットワークづくりや保健医療従事者の教育等を行い、児童虐待対応の向上を図ることを目的とした「児童虐待防止医療ネットワーク事業」の活用が進むこと


 これから議論が本格化する令和8年度診療報酬改定において、拠点的な機能を有する急性期病院などに対して、こうした取組を求めていくことになると考えられる。診療報酬のためというわけではないが、大事な命を守るためにもこうした備えは必要だ。


 本事務連絡には、これまで発出されてきた通知「宗教の信仰等を背景とする医療ネグレクトが疑われる事案への対応について」と「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」も合わせて掲載されている。

 以下に医療機関において押さえておきたい資料を紹介する。

 「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」として、対応のフローチャートが掲載されている。




  「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」より、医療機関に直接関連するであろうQ&Aを2点紹介する。




 なお、養子縁組(普通養子縁組・特別養子縁組)で養子となった子供に対しても同様だ。