令和7年8月27日、第615回中央社会保険医療協議会 総会が開催されている。今回は、在宅医療に関する論点の明確化に向けた議論、医療機関(病院、診療所、薬局等)の経営状況の確認と診療報酬での支援、マイナ保険証の利用促進策が主なテーマとなっている。在宅医療については、訪問看護・訪問薬剤管理指導・訪問栄養食事指導についても議論されているので、ポイントを絞って確認していきたい。


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医療依存度の高い在宅患者に対する診療の適正な評価、要件設定を改めて考える時期に

 在宅医療に取組む医療機関は着実に増えてきている。それは、地域医療構想の進展の影響があるといえる。地域医療構想の着実な推進による早期退院と在宅復帰の促進(急性期病床)、専門性の高いリハビリテーション(回復期リハビリテーション病棟)や生活リハビリテーション(地域包括ケア病床)の提供、そして療養する場である病床数の減少が理由だ。




 医療費適正化の観点からも、在宅医療が推進されていくことは好ましいといえる一方で、主に早期退院等を理由とする医療依存度が比較的高い状態での退院が少なくはない、ということだろう。そこで、期待されているのが在宅のかかりつけ医機能ともいえる「在宅療養支援病院」と「在宅療養支援診療所」だ。在宅療養支援診療所については、近年はやや頭打ちとなっているが、在宅療養支援病院については増加の傾向ある。一般病床200床以上の病院が、病床を削減して在宅療養支援病院になるケースが多いと感じている。200床以下になることで、地域包括診療料・生活習慣病管理料・特定疾患療養管理料・在宅時医学総合管理料等の算定も可能となるため、病床稼働率に難を抱えている場合は、在宅を病床を考えた機能転換と病床数の適正化を私はすすめることもある。特に、最近は精神科病院に対して。




参照:人口減少時代に迫られる選択と決断~200床以上か未満か、住民と医療従事者の高齢化への対応をどうするか?~


 200床以上病院からの転換であれば人材も確保できているだろうが、そうでは無い病院や診療所では、24時間往診体制の確保などは難しく、企業などの第三者への委託も必要になる。委託をする医療機関は1割程度あることが今回示されている。地域の実状やどういった病状の患者がいるのか、そうした観点も含めて、まずは在宅のかかりつけ医機能を有する医療機関を拡充するための敷居を見直していくか、これから議論されていくことになりそうだ。




  なお、令和6年度診療報酬改定ではこの往診について大きな見直しがあった。それは、継続的に診療している患者、連携している医療機関のかかりつけ患者であるなど、緊急時の往診については患者との診療を通じた関係性の有無によって評価が変わるというもので、夜間・休日往診加算と深夜往診加算の点数が関係性がなければ大きく引き下げられることとなったもの。令和6年度診療報酬改定後、その影響が如実に出ていることが分かっている。地域や受持ち患者の状況によっては、第三者の協力を得ることも必要なこともあることを考えると、緊急往診加算については状況に応じて柔軟に評価・要件の対応も必要になるように感じる。




 頻回な訪問診療、主治医からの依頼による専門領域の訪問診療についても増加の傾向にあることが示されている。在宅における医療依存度の高い患者が増加していることや、専門領域(皮膚科であったり、医療的ケア児など)の対応の必要性も拡大していることがその理由だといえる。これまでのように、単に回数であるとか同一建物であるかどうかといった条件だけではなく、要介護認定とはまた別の在宅における医療依存度を評定した適正な評価等が必要な時期にあるように感じる。





 とはいえ、在宅での対応にも限界はある。そこで、緊急入院等の対応ができる病院・有床診療所との平時からの連携が必要だ。そこで、ICTツール等を用いた情報連携を評価する項目が新設されたところ。しかしながら、届出は低調だといえる。







参照:全国医療情報プラットフォームと地域医療情報連携ネットワークの目的と役割を整理・理解して、共存する


 全国医療情報プラットフォームと地域医療連携ネットワークの違いがうまく伝わっていないことや、慣れた業務からの移行への抵抗感、ランニングコストといった理由が考えられる。実際に、ICTツールを利用した連携では、様々な負担も軽減できる。医療依存度の高い在宅療養患者が今後も増えていくことを考えると、在宅におけるICTインフラ整備は住民さービスのようでもあるといえる。診療報酬においても、そうしたインフラを支え、医療機関のランニングコストの負担を軽減するための支援が必要だと言えるだろう。


 令和8年度診療報酬改定の議論で、注目度が高いものの一つとして訪問看護があげられる。その理由は、一部の事業者による高齢者住宅への過度な訪問看護が社会的にも問題視されていることだ。


参照:有料老人ホームの高額紹介料と過度な訪問看護に関する問題を整理。病院経営への影響も懸念


 今回の議論でも、様々な角度から訪問看護に関する現状を伝えている。とりわけ衝撃なデータとして示されたのが、同一建物居住者に対する訪問看護については、算定回数・算定割合ともに増加傾向であり、訪問看護ステーションのレセプト1件(1人1か月)当たり医療費、1件当たり日数、1日当たり医療費は増加傾向であるという中で、1カ月に25日を超える訪問看護を実施している訪問看護ステーションの割合は、年間医療費が1500万円未満の訪問看護ステーションは0.6%であるところ、2.5億円を超える訪問看護ステーションでは35%である、というもの。





 今後、指導監査等での対応が強化されていくが、診療報酬においても未然に防ぐための何らかの対応が求められる可能性が高い。

 そうした中、訪問診療でも頻回な訪問回数が取り上げられているように、訪問看護でも24時間対応も含めて同様の課題が取り上げられている。





 過度な訪問看護に対する対応とはまた異なり、必要があって行う頻回な訪問に関する対応は訪問診療と同様に今後も増加していくことが考えられる。厳格なルールなど設定されていくことも考えられるところだ。


 薬局における在宅医療の現状については、件数が大きく伸びていることが確認される一方で、同一建物居住者の対応が多いことが分かっている。このあたりの適正化の考え方など今度議論になるかもしれない。





 令和6年度調剤報酬改定では、退院直後に実施する在宅移行初期管理料が新設された。230点というとても高い点数だ。在宅医療のスタートとして、医師に対する処方提案を通じた負担軽減のため、大きな期待が寄せられているが、対象となる患者が少ないことから実績は高くない。重要な評価でもあることから、対象患者の拡充など議論されていくこととなりそうだ。




 訪問栄養食事指導料については、近年増加の傾向にある。在宅療養支援病院では必須に、在宅療養支援診療所では体制を整備することが望ましいとなったところ。




 病院では、自院の管理栄養士の協力を得ることができるが、診療所の場合は近隣の病院や栄養ケアステーションの協力を得ることが必要になる。入院中の栄養管理の取り組みを在宅でも継続するために必要な項目だといえるので、評価の拡充など注目したい。



厳しい病院経営と利益が出ている診療所経営、診療報酬でどういった支援ができるか?

 令和8年度診療報酬改定では、厳しい経営環境を踏まえた支援策を講じることとなっている。厚生労働省による詳細な分析が行われているので、キースライドをこの後掲載していくが、既に多くの方が理解されているように、以下がポイントだといえる。なお、分析は2023年度の医療法人の経営情報を基にしているため、新型コロナの影響がまだ一部残っていることや、補助金等もふくまれている。


・診療単価は向上し、患者数も戻りつつあるが、診療材料等の高騰が売上を上回っている。

 特に、消耗品や高額薬剤を使用する急性期病院ほどに利益は厳しくなっていること、大規

 模病院では、経常利益でもマイナスとなっている。しかし、200床以上病院でも病床規模が

 大きくなるにつれて、利益率は良くなっている。200床以下病院でも同様の傾向。


・給与費が上がっていることも利益に影響を与えている。


・地域に限らず経営状況は厳しいといえる。自治体立病院や国立大学病院も同様。












 また、ファクタリング(診療報酬債権<売掛金>を買い取ってもらい、入金日よりも早く現金化するサービス。融資と違って負債が増えないメリットはある)の活用件数が増えていることも明らかにされている。開業当初にファクタリングを利用するケースはよくあることだが、基本的にはファクタリングは一定期間のみの活用が基本だといえる。常態化しているのであれば、非常に危険な状況にあるといえる。病院経営の危険度を表すものだ。



 最近、高額薬剤も増えてきている。保険償還があるものの、大きな現預金の穴ができることは不安が大きい。患者の治療や生命に緊急的にかかわるものについては、金融機関によるスピーディな融資を受けられるような支援も必要になるのではないだろうかと感じている。金融機関としても、社会貢献度の高いビジネスになるだろう。


 一方で、診療所の経営状況についても分析されている。病院と異なり、利益が出ている。診療科別でみても、すべてにおいて利益が出ていることが分かる。病院と従業員数が異なることなどの影響もあるだろうし、在宅医療など24時間対応などによる高い評価もあるものの、経営者である院長に重い負担がのしかかっていることを忘れてはならない。こうした結果をどのように見て、診療報酬で反映していくのか、注視していきたい。









 経営状況を見ていく上での、診療密度に関する状況(100床当たりの医療従事者数が増えている。病床削減などが影響している可能性)や委託費の問題についても資料が提示されている。委託先も賃上げが行われていることを考えれば、当然に委託費も上がってくる。例えば、医療機器の保守点検など高くなっているが、医療機器に関する診療報酬やDPCの包括点数などで保守管理も踏まえた設定にしていくことなども考えられるのではないだろうか。





マイナ保険証の利用促進。9月19日よりスマホによる認証もスタート

 スマホによる認証がスタートするのは個人的にも大変助かるが、機種変更の際に手続きが大変そうだと今から心配になっている。なお、対応できる機種とできない機種があるので注意が必要だ。






 ところで、スマートフォンでのマイナ保険証利用により資格確認が実施できなかった場合には、その場で、患者の提示するスマートフォンを用いて、マイナポータルを通じて取得した当該被保険者の保険資格に係る情報により確認することとなる。そのための改正がお行われることとなることが伝えられている。