令和7年8月21日、令和7年度第9回入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催されている。賃上げ(ベースアップ評価料等)、リハビリテーション領域、慢性期領域、食事療養費関連、医療資源が限られた地域の評価について議論が行われている。
多岐にわたる議論となっているので、ポイントを絞って解説をしたい。
ベースアップ評価料の届出を促すための見直しを
医療従事者の賃上げを支援する「ベースアップ評価料」について、今回の議論から見えてくることは、形を変えながらも継続をしていく方針であるように見える。もしくは、医療法人の経営情報等の報告において現在は任意となっている職種別給与の報告とセットで考え、書類作成の簡素化を図って届出をしやすくすることなども考えられそうだということ。
ベースアップ評価料については、外来・在宅(Ⅰ)においては、病院の9割・診療所の4割が届出をしていることがわかっている。届出をしない医療機関の理由からは、届出の煩雑さと次回改定以降も存続するのか不安があることが挙げられている。
他産業と比較しても賃上げが進んでいない医療業界ということもあるので、着実に賃上げを行っていくための診療報酬上の支援策は今後も継続していく可能性は高いと思われる。今回の議論からは、届出の阻害要因を明らかにして、届出しやすい環境の整備を図ろうとしていると見える。
一方で、以下のような課題も明らかにされており、今後さらなる調査と調整が進められていくこととなりそうだ。
・新型コロナ禍に創設された「看護職員処遇改善評価料」について、役目を終えているようにも感じられるため、廃止やベースアップ評価料と一本化するなども選択肢に。
・外来・在宅(Ⅱ)について、併存疾患として小児科、皮膚科、耳鼻咽喉科における届出は少なく、血液透析に関連する診療行為を併存して行っているケースでは多いことから、診療科や診療行為を詳細に分析して検討へ。
・令和4-5年にかけて4.5%の賃上げを目標としたが、3.4%にとどまっている。賃上げ促進税制の利用状況が今回は確認できていないため、今後調査を行って、総合的な対応策など検討されていくこに。
疾患別リハビリテーションの要件緩和、退院時リハビリテーション指導料の見直しの可能性
リハビリテーション領域においては、休日リハビリテーションの実施が少ないこと、そのため地域包括医療病棟入院料の算定が難しいなどこれまで指摘されてきたところ。今回は、急性期リハビリテーション加算の算定状況なども示され、改めてわかったことはセラピストの確保と働き方改革の必要性だろう。
疾患別リハビリテーションにおけるセラピストの専従要件の見直しや、以前もお伝えした20分未満の短時間リハビリテーションに対する評価など具体的に考えられそうだ。
また、退院時リハビリテーション指導料についても今回議論されている。セラピスト以外でも算定できること、疾患別リハビリテーション料を算定していない患者でも算定できることから、近年届出は増加の傾向にある。
今回、課題として挙げられているのが「疾患別リハビリテーション料」を算定しない患者に対する算定、短期入院患者に対する算定件数が多いことだ。算定要件の厳格化、例えばだが重症度、医療・看護必要度B項目のスコアなどを要件に加えることなども可能性としてはあるかもしれない。
また、セラピストの負担の軽減の観点から、事務作業等の合理化も必要だ。リハビリテーション実施計画とリハビリテーション実施総合計画書、目標設定等支援・管理料の書類の合理化や統合化も検討されていく見通しだ。なお、目標設定等支援・管理料については、すでに役目を終えているといった意見もある点に注視が必要だ。
回復期リハビリテーション病棟のリハビリテーション実績指数と重症患者基準の見直し
現状のリハビリテーション実績指数の計算において、80歳以上の高齢患者や入棟時FIM得点で運動項目や認知項目が低いと判定される基準に該当する場合などで除外できるルールがある。そこで、今回回復期リハビリテーション病棟におけるそれらの実績や除外患者の状況を確認したところ、多くの病院で除外対象となる患者が多く入棟していることがわかった。
さらに、重症患者基準からの除外基準とリハビリテーション実績指数の除外基準を照らし合わせてみると、重症患者基準の「FIM55点以下の患者」とリハビリテーション実績指数の「FIM運動項目20点以下の患者」と「FIM認知項目24点以下の患者」は重複しているケースが多く有るように見える。そこで、回復期リハビリテーション病棟の状況を確認すると、「FIM運動項目20点以下の患者」は約50%、「FIM認知項目24点以下の患者」は約86%も入棟していることがわかっている。
病棟の種類に関係なく、高齢患者割合が高くなっていることや認知症とはいかないまでも認知能力が低下している高齢患者が増えていることを考えると、リハビリテーション実績指数と重症患者基準の除外基準に関する見直しは必須のように見える。高齢患者に対するFIM利得も踏まえた効果的なリハビリテーション提供の在り方を考えていく必要が出てくる。そこで、今回の分科会で提示されたのが、FIMの運動項目にある「トイレ動作」と「歩行・車椅子」の入棟時から退棟時の改善度合いが自宅への退院割合が高いというデータだ。
除外基準の見直しだけではなく、現状の除外基準に該当する患者に対するリハビリテーションメニューやFIM利得の設定など新たに考えられるのではないだろうか。
なお、退棟時にFIM利得が低下している患者の状況も報告されている点にも注視をしておきたい。リハビリテーションには成果が求められるということだ。
リハビリテーションの成果を出すには、質を高めていくことが必要なのは言うまでもない。今回の分科会では、質を高めるための取り組みとして、いくつか考え方を示している。
以前の本分科会でも議論になった、廃用症候群リハビリテーション料のFIM利得が小さいことに関連した算定上限を設けることだ。前回改定では、運動器リハビリテーション料に対して算定上限が設けられたところだが、診療報酬改定後の調査によると改定前とFIM利得に大きな変化がないことがわかっている。次回改定では、算定上限は設けられる可能性が高いと言えるだろう。
また、今回の分科会では新たに入棟時のFIM運動項目が20点以下かつ要介護4、5の患者は、1日あたりの平均リハビリ実施単位数は相対的に多い、といったデータが示された。要介護度4・5ということなので、ベッド上でのリハビリテーションとなっていることだが、それだけではない、別のアプローチ方法などを組み合わせることなどが重要であることが言及されている。
さらに、排尿自立支援と摂食嚥下機能の回復に関する診療報酬の算定状況も新たに示され、いずれも非常に低いことが明らかにされた。摂食嚥下機能の回復に関する状況は、前回診療報酬改定の議論の中でも課題として上がっていた。退院後の日常生活を考える上では重要だといえ、次回の診療報酬改定において要件の緩和・点数の見直しなど考えられるところだろう。
なお、これまでの分科会では退院前訪問指導に対する評価についても議論に上っていた。その有用性は理解されていることから、評価の拡充が期待できるだろう。
医療依存度の高い患者割合が増加する療養病棟。在宅復帰に向けた評価に着目を
令和6年度診療報酬改定では、療養病棟入院料の評価が細分化された。診療材料等が高騰し、人件費も上がっている現況を鑑みて、その妥当性等についてこれから検討されることとなる。実際に、療養病棟の現況を確認してみると、従前よりも医療依存度の高い患者が増加していることがわかる。急性期病床からの早期退院が促進されていることもあり、医療依存度の高い患者の転院が増えていることなどがその理由の一つと考えられる。今後の詳細な分析結果が待たれる。
身体的拘束の状況について、入院患者の30%以上に実施している医療機関が23.8%(n=504)あることが示されている。中には、90%以上の患者に実施している医療機関が1.0%あった。さらに身体的拘束に関してみてみると、中心静脈栄養や経鼻胃管等のデバイスが挿入されている認知症の患者では身体的拘束が実施される割合が高い傾向があることと、その一方でデバイス挿入や認知症がなくても高い割合で身体的拘束を実施している病棟があったことがわかっている。
身体的拘束をせざるを得ない状況とはどういった状況なのか、それは施設の人員体制等に課題がないのか、など今後さらなる調査検討が進められることとなりそうだ。
令和6年度診療報酬改定では、中心静脈栄養に関する扱いや経腸栄養管理加算の新設など、患者の自立度を高めることで、カテーテル感染等のリスクを抑え、看護師をはじめとする医療従事者の負担軽減を図るための栄養領域の見直しが行われたところ。しかしながら、中心静脈栄養の実施状況に大きな変化はなく、さらに中心静脈実施中の患者に高い頻度で身体拘束が実施されていることが分かった。
ADLを高めることでスタッフの負担軽減になるとともに、在宅復帰に近づけることができる。そこで、摂食嚥下機能回復体制加算や経腸栄養管理加算への取り組みを推し進めたいところだが、その実績は低いといえる。しかし、摂食嚥下機能回復体制加算や経腸栄養管理加算の届出をしている医療機関は重複している事がわかっている。経腸栄養管理加算の届出ができない主な理由として、栄養サポートチームの届出ができないことが挙げられている。また、摂食嚥下機能回復体制加算と経腸栄養管理加算に共通する課題として、対象となる中心静脈栄養の患者がいない、ということも挙げられている。療養病棟の現状にあった栄養サポートチームを新たに設置できることとなれば、対象となる中心静脈栄養の患者がいなくとも定期的な栄養スクリーニングを通じて適切な介入ができ、環境が大きく変わることが期待されるのではないだろうか。
患者のADLが高まることで在宅復帰の期待も高まる。療養病棟入院料を届け出る医療機関は減少傾向にあることから、稼働率をある程度上げ、地域の医療資源を有効活用していくための整備も必要だ。また、最近では病床の一部を地域包括ケア病床として、急性期病院等からの紹介を待つのではなく、在宅からの患者の受け入れを積極的に行う病院もある。そこで、在宅復帰機能強化加算が設定されているのだが、在宅への退院割合が高い施設でも加算を届け出ていない施設があることがわかっている。その一方で、届出があり在宅への退院割合が高いもの、死亡退院の割合が高い施設もあり、施設ごとのばらつきが大きいことがわかっている。
令和8年度診療報酬改定に向けて、退院後の当該医療機関からの訪問や退院患者数割合などの要件の見直しなどを通じた届け出しやすい状況を整備していくことや死亡退院割合を新たに基準として設定していくことなども考えられるだろう。
なお、障害者施設等入院基本料の病棟についても議論され、高齢患者が増えている状況を踏まえて、入院する患者像に関する検討(主傷病名に多い廃用症候群が肢体不自由として対象患者とされている可能性)がこれから行われることとなりそうだ。
嚥下調整食や食堂加算、特別ニューに関する現況を踏まえた今後の対応を
特別食加算の対象外となっている嚥下調整食について、必要とする患者は一定数おり、普通食より食材費が高いとの報告がある。今回の議論では、その嚥下調整食の効果について確認された。また、食堂加算についての現況について報告があり、加算を算定しているものの、多くは希望する患者のみが食堂を利用しているという状況がわかった。「食堂における食事が可能な患者」に対して食堂で食事を提供するように「努める」ことが要件となっていることから、運用ルールの見直しなど求められる可能性がある。
その他、行事食などの特別メニューについては患者から特別料金を徴収することは認められているものの、約8割の病院(n=2,616)では徴収していないことが報告されている。宗教に配慮した食事については新たな入院時食事療養の金額を設定するなど、特別メニューの内容によって対応を既存の入院時食事療養に反映していくことや周知方法の見直しなど考えられそうだ。
今回の分科会では、「人口・医療資源の少ない地域における対応」についても議論されている。ヒヤリング調査の結果からは、へき地医療拠点病院以外からの医師派遣に頼っている現状が明らかにされていることから、急性期拠点機能の病院や地域医療支援病院等からの派遣に対するインセンティブなど検討されそうだ。