精神領域の医療提供体制に関する論点が示される。
令和7年8月20日、第8回 精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会が開催され、精神疾患の医療提供体制についてこれからの議論のたたき台となる論点整理が行われている。現行の第8次医療計画では、入院患者数が減少傾向にあることを見据え、基準病床数の考え方の見直しを行っている。基本的な考え方は、急性期(3ヶ月以内の退院)と回復期(6ヶ月以内の退院)は維持しつつ、慢性期(1年以上の入院)については在宅復帰可能な患者の退院と地域生活支援を展開して、病床数の適正化を進めようという考え方になっている。
今回の検討会では、精神領域の入院医療の整備、地域生活支援の体制づくりとしての精神科かかりつけ医機能と初診待機時間問題、情報通信機器を用いた支援、アウトリーチ機能等について議論、論点が示されている。
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高齢患者の地域移行、病床削減後の人材をどのように配置・活躍を促していくか
精神病床においても人口減少に伴う患者数の減少は起きている。また、私自身も精神病床で業務をしながら感じることは、長期入院患者高齢化に伴う様々な諸問題への対応が必要になっていると感じることがある。例えば、医療依存度が高くなり、医療的処置などの対応が必要になるケースだ。特殊疾患病棟入院料2などでの対応は今後増えていくことも考えられる。また、介護の対応も必要になってくるケースが増えている。受け入れ先の確保が難しいことも多いため、自治体と相談の上、介護医療院への転換なども今後選択肢に入ってくるだろう。地域の限られた医療資源の有効活用、在宅医療・介護の資源の創出の観点からも、特殊疾患病棟の整備や介護医療院への転換は今後のポイントになるだろうと思われる。
余剰病床11万床の削減が今春から話題になり、自民党・公明党・維新の会で合意され、骨太方針2025にも11万床という具体的な数値は盛り込まれないものの、年内にもその方針を明確化することとなっている。この11万床の約半分は精神病床、具体的には、慢性期の精神病床だ。そこで注目されるのが、どういった病床の機能を優先的に残し、削減された病床の人材をどのように再配置していくか、ということだ。
前回改定では地域移行と地域生活支援の役割を期待した精神科地域包括ケア病棟入院料が新設されたところだが、これまでもお伝えしてきたように、届出は少なく、さらに減少傾向にある(9月1日に7月時点の施設基準情報レポートを公表するが、さらに減少しています)。精神科地域包括ケア病棟の要件の見直しも当然必要だとは思うが、病床削減に伴う人材を精神科地域包括ケア病棟や訪問看護などに再配置していく施策、研修などが必要になってくるのではないだろうか。
参照:【2025年8月レポート】在宅医療に取組む医療機関、全体では増加基調は続くも、都道府県単位でみると小幅な減少傾向も
また、入院医療に関しては、精神病床を有する総合病院が限られているという課題への対応も論点に挙げられている。そこで、地域の実情に応じて、精神病床を有する総合病院、精神病床がないものの精神科リエゾンで対応が可能な総合病院、精神科を持たない総合病院、精神科病院での役割分担を考える方針だ。
かかりつけ医機能報告と精神科かかりつけ医の整合性
地域生活支援を考えていく上で、精神科のかかりつけ医の役割は重要だ。来年1月から報告がはじまるかかりつけ医機能報告制度において、精神科領域では統合失調症・睡眠障害・うつへの一次診療対応可能はかかりつけ医機能あり(1号機能あり)として報告できることとなる。今回の検討会では、そのかかりつけ医機能報告の対象以外の疾病への対応を精神科のかかりつけ医機能としてどのように考えていくかなどこれから議論していくこととなる。
参照:精神科診療所の「かかりつけ精神科医機能」を明確化する議論がはじまる
前回改定では精神科のかかりつけ医機能に関する評価として「早期診療体制充実加算」が新設されたが、その要件が厳しく、残念ながら算定件数は少ない。令和8年度診療報酬改定において、どういった見直しが行われるのか注目される。
参照:令和6年度診療報酬改定の結果の検証と次回改定への影響は?~精神医療について~
初診対応力の向上という課題、精神領域におけるオンライン診療をどのように推進していくか
精神科の医療機関数は全体としては増加傾向にあるが、精神科を主に標榜する医療機関1施設あたりの「精神及び行動の障害」の推計外来患者数を見ると、病院は初診が3.0人/日、再診が60.4人/日、一般診療所では初診が2.2人/日、再診が34.8人/日となっている(令和5年度調査)。初診割合は、病院が4.8%、一般診療所が5.9%という状況だ。
初診の予約が取りずらく待機時間が長い傾向にあること、診療所の場合は医師が一人で対応することもあり十分な診療時間の確保が難しいことなどが課題となっている。
精神科医療機関は先に述べたように増加の傾向にあるとはいえ、地域差やアクセスの利便性の問題もあるため、既存の環境で受診しやすい環境を作っていくことが必要だと言える。そう考えると、精神保健福祉士や公認心理師、看護師等へのタスクシフトによる医師の負担軽減と診療効率化などが必要になってくると考えられる。
合わせて、オンライン診療の利活用についても論点となっている。精神科領域では「情報通信機器を用いた精神療法に係る指針(障害者総合福祉推進事業)」が策定されており、初診からのオンライン診療の実施は行わないこととしている。令和6年度診療報酬改定では精神領域のオンライン診療の評価もできるようになったが、過去1年以内の対面診療の実施があったことが条件になっている。
しかしながら、規制改革実施計画(令和6年6月21日閣議決定)では、「患者団体や研究者からは初診精神療法のオンライン診療の必要性が求められていること、英米等においては初診精神療法をオンライン診療で実施されていること、精神疾患に対するオンライン診療が対面診療と同等の有用性を示すエビデンスが国内外において示されていること」等を踏まえて、新たな指針を策定・公表することが求められているところだ。初診からの利活用、再診においては対面診療との組み合わせによる精神領域におけるオンライン診療の新たな指針策定に向けた動きが出てくることとなりそうだ。
今回の検討会では、その他にアウトリーチ機能(在宅・地域への働きかけ)の取り組みの強化として、行政・医療機関・精神科訪問看護の連携の強化や、身体合併症を有するなど医療依存度の高い患者に対する精神科訪問看護の機能・体制作りについてもこれから議論されていく方針だ。
精神領域は新たな地域医療構想においても対象となり、地域内における医科との連携も重要なテーマとなる。精神医療の枠を超え、地域の医療・介護事業者との役割分担や場合によっては総合病院等への集約化も選択肢として考えていくことがこれからは求められるだろう。令和8年度診療報酬改定の議論も今回の検討会と歩調を合わせていくことになるだろう。