救急搬送の実績や医療資源投入量も踏まえた急性期一般入院料の評価を検討、PDラストも踏まえた腹膜透析の推進、小児成人移行期医療に関する課題への対応 など
令和7年9月18日、令和7年度第12回入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催されている。今回は、急性期入院医療の指標・働き方改革・診療科偏在といったこれまで議論されてきたことに加えて、透析医療・小児、周産期医療・災害医療・業務効率化といったテーマが取り上げられている。中でも、透析医療については骨太の方針2025において、緩和ケアでの対応なども盛り込まれていたことから注目される。
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一般的な急性期機能と拠点的な急性期機能の指標化に向けた精緻な分析が進む
新たな地域医療構想では、医療機関機能を新たに設けて構想区域毎に医療機関の適正配置を図っていくこととなる。そこで、診療報酬も新たな地域医療構想に歩調を合わせて、適正な評価と配置を促すための新たな見直しが必要となっている。とりわけ、急性期については、診療報酬において、一般的な急性期機能と拠点的な急性期機能と棲み分けをしていく方針となっており、救急搬送の実績・全身麻酔手術の実績・総合性(診療科のバラエティ)の3つの視点で指標化をすすめていくこととなっている。今回、その棲み分けのための指標を作るための分析結果が示された。
まず、救急搬送の実績についての分析からわかっていることは、急性期一般入院料の中でも入院料1の実績が相対的にみると高いものの病院によっては入院料2-6と同程度であるなどのばらつきがあることがわかった。また、救急搬送の実績が高いほど病床規模が大きく、診療密度も高く、全身麻酔手術の実績や時間外対応の実績も高いことがわかっている。
そうした実績の高い急性期入院料1の病院は、必然的にとも言ってよいかと思うが、高コスト体質になっており、医業利益率が低い傾向にあることが改めて明らかにされた。急性期の指標化と合わせて、こうした地域医療の最後の砦ともなりうる医療機関に対する経済的評価のあり方については点数設定の議論など注目されるところ。または、救急受入の実績に応じた新たな基準を設けて高めの評価を設定することなども。一方で懸念されるのは、急性期一般入院料1に手厚い評価がされる一方で、入院料1以外に対する配分がどれだけ手厚くされるか、というところだ。急性期一般入院医療1以外の入院料においては、病院独自の取り組みとしての加算等へのチャレンジや、地域の実状に合わせた病床機能の選択や拠点機能のある急性期病院との連携の強化がより求められることとなる。
全身麻酔手術の実績に関する観点からは、集約化が望ましい手術と、緊急性や頻度が高い疾病を対象とした、地域において均てん化が望ましい手術があることが示された。ただ、救急搬送の受入実績の高い病院の傾向からもわかるように、均てん化が望ましい手術においても、確保が困難な麻酔科医や手術関連スタッフ等の医療資源を効率的に活用するため、一定の症例数に対応することが求められるところだ。
今後考えられることとしては、救急搬送の受入実績や全身麻酔手術の実績だけに着目するのではなく、手術や検査等の環境の維持や医師数や医療資源投入量も踏まえた評価の在り方について議論が進められていくこととなりそうだ。人口が少なく、医療資源が限られた地域では地域でのシェア率も大事だが、実績ベースの評価には限界がある。必要な環境整備がある場合には、地域の実情によっては経済的な支援は必要だ。
拠点的な急性期機能を担う病院の一つの指標として、急性期充実体制加算と総合入院体制加算の届出のある病院がある。急性期充実体制加算は心臓血管外科手術の実績要件からもわかるように専門性の高い高度急性期を、総合入院体制加算は総合性(診療科のバラエティ)を意識した高度急性期を志向しているものといえる。
急性期の新たな指標を考えていくうえでは、急性期充実体制加算と総合入院体制加算を一本化し拠点的な急性期機能を評価する新たな評価に再構築していくことが考えられる。そうすることで、急性期充実体制加算の届出のある総合病院でも精神科の標榜を確保できることとなる。なお、人口が少なく、医療資源が限られた地域においては実績要件を満たすことが困難となるため、現行の総合入院体制加算3を地域の実状に合わせて届出が可能な拠点的な急性期機能として新たに再構築していくことも検討されていくことなど考えられるだろう。また、救急搬送の実績や医師や特定行為研修修了看護師の配置数などに応じて、評価のグレードを変えていくことも考えられるだろう。
医師事務作業補助者の定着と業務の省力化に対する支援を
急性期入院医療の集約化・役割分担と合わせて、医師の働き方改革についても考えていくこととなっている。その中で、非常に評判がよいのが医師事務作業補助者の活躍だ。しかしながら、医師や看護師といった専門職ではないため、他産業との採用・処遇等で競争状態になっている。そのため、処遇や人事評価制度などを実施するなどの取組が行われている。
参照:診療報酬による勤務医負担軽減支援策の拡充、ACPと身体的拘束といった高齢患者増時代の環境整備を進めていくための見直しの方向性
今回の議論では、多くの病院ではICT等を活用した医師事務作業補助者の業務省力化の取り組みが進んでいないという調査結果をベースに、ICTを活用できる場面の可視化、実践事例を紹介している。
評判もよく、医師の働き方改革に貢献できている医師事務作業補助者の生産性を上げ、定着化を図ることは、地域における急性期入院医療を守ることに間接的にもつながるといえる。既存の医師事務作業補助体制加算に対して、サブスクリプションによる費用負担が多い医療ICTサービスの利用を促進するような要件(業務時間の短縮化計画やキャリアプランの設定など?)とICTサービス利用を前提とした点数など新たな区分を設けていくことなど今後期待されるのではないだろうか。
持続可能な医療提供体制の確保に向けて、外科系診療科の集約化・連携を進めるための評価
本分科会に限らず、新たな地域医療構想等において外科医師に対する定着化に向けた支援、集約化が議論されている。
前回の診療報酬改定では、手術・処置の休日・時間外・深夜加算1において、交代勤務性やチーム制の導入に加えて時間外手当の支給を実施するという見直しが行われ、外科系診療科の集約化が推進されたところだ。
本加算は、本年5月末までの経過措置があった。そこで、本分科会にて本年5月時点で算定している医療機関に対して、今後継続して算定していくうえでの課題について調査されている。困難な要件はない、という声もある一方で「緊急呼び出し当番翌日の休日対応」、「夜勤翌日の休日対応」、「日勤からの連続夜勤で、夜勤医師2名以上配置・夜勤時間帯に4時間以上の休暇を確保」を課題と上げる医療機関が多くなっている。こうした困難の理由を令和8年度診療報酬改定でどのように捉え、対応していくのか注目されるところだ。
また、外科医の集約化の効能について、山口大学医学部附属病院の取り組みとして、高度ながんの手術患者は基幹病院へ紹介し、機能分化、効率化、集約化によって基幹病院の負担軽減を実現。一方でサテライト施設の経営は劇的に改善したことが紹介された。
こうした事例を踏まえ、高度な手術の実施状況が示され、大学病院本院ではより多くの手術件数のある施設が多くなっていることがわかった。
2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(案)」においても、技術レベルに応じた外科医の集約化を地域で促していく必要性が示されているが、外科領域の偏在の是正、拠点機能と一般的な機能の連携に向けた新たな手術・処置に対する評価のあり方がこれから議論されていくこととなるだろう。
参照:2040年に向けたがん医療提供体制の3本柱の戦略と第4期がん対策推進基本計画の中間評価に向けた議論
腹膜透析の推進、そして腎不全患者の終末期医療への対応に注目
骨太の方針2025では、慢性腎臓病対策への取り組みとして、腎不全患者に対する緩和ケアが盛り込まれている。緩和ケア病棟での対応や終末期における人工透析から腹膜透析への切り替え、いわゆるPDラストに対する評価の可能性に注目が集まる。
参照:骨太の方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~が閣議決定される。原案との違いは?
まず、透析医療の現状についてだが、2022年度から患者数が減少し、新規透析導入患者の高齢化が課題になってきている。なお、改革工程表2023では、2028年度までに新規透析導入患者を年間3.5万人以下にする、という目標が設定されているが、現状では3.9万人となっている。目標達成に向け、糖尿病や高血圧患者の重症化対策となる生活習慣病管理料等における継続受診の評価の検討なども合わせて注目したい。
なお、糖尿病を原因とする慢性腎臓病患者は減少傾向にある一方で、高血圧症を原因とする腎硬化症患者は増加の傾向にある事もわかっている。令和6年度診療報酬改定で慢性腎臓病透析予防指導管理料が創設されたのはこうした背景があってのことで、その効果など今後議論されていくことになるだろう。
腎代替療法の一つである腹膜透析についてみると、増加傾向から横ばいという状況。人工透析を実施している医療機関において、腹膜透析を提供できる医療機関の割合は19.5%(n=205)という状況で、環境整備に大きな課題があることがわかる。私の実家である鹿児島に住む母親は腹膜透析を2年実施し先日亡くなったが、一昨年前に人工透析を10年以上続けて亡くなった私の父と比べて、非常に顔艶はよく、元気に過ごしていた。患者の状況にもよるが、腹膜透析と人工透析の違いを実感した。腎代替療法において、腹膜透析を選択するPDファーストを第一とすることで、通院回数も少なくでき、日常生活のリズムを大きく変えること無く、過ごすことができる。
この腹膜透析については、PDファーストだけではなく、先に述べたようにPDラストが話題になっている。終末期となり、通院が困難となった場合などに腹膜透析を実施する、というものだ。透析医療については、糖尿病腎症対策や診療報酬における生活習慣病管理料や地域包括診療加算などで新規導入患者数は減少傾向にあり、高齢患者の新規導入・維持透析が課題となってきており、終末期への対応が急務になっているとも言える。透析医療においては、終末期に対する対応に関する診療報酬上の評価は明確ではないこともあり、実施状況は少ないと言える。
令和8年度診療報酬改定では、PDファーストとPDラストを視野に入れた腹膜透析の推進、高齢の透析患者の増加に伴い増えてくる終末期の対応に対する新たな評価の新設、または導入期加算に終末期対応に対する環境整備などを要件に盛り込んでくることなども考えられるのではないだろうか。
また、透析医療は患者の命に直結するもの。過去に大きな自然災害を経験してきたことから、国や地方自治体と日本透析医会が連携して取組を進めているところだが、取組状況にはばらつきがあることが今回指摘されている。
ところで、今回の分科会では災害医療についても議論され、診療所における災害対策及び災害時対応としてのBCPの取組状況についても示されたところ。透析医療においても災害対策について状況調査が行われている。
患者の命に直結する医療を行っている透析医療を行う医療機関や、外来感染対策向上加算を届出る医療機関、在宅医療を提供する診療所においてはBCPの対応が既存の診療報酬項目(人工腎臓や外来感染対策向上加算、在宅療養支援診療所など?)に盛り込まれる可能性が高いと言えるだろう。
小児・周産均医療の現状と課題を確認。記録や書類作成等の業務の簡素化に関する議論も始まる。
その他、今回の分科会では小児・周産期医療に関する現状と課題についても議論が始まっている。令和6年度診療報酬改定以降に母体・胎児集中治療室管理料の届出病床数が減少しているが、その主な理由として「医師の配置要件を満たせない」が挙げられていること、算定対象疾患に分娩時異常出血、産科危機的出血、妊産婦の呼吸循環不全を伴うものを加えるとともに、従来の合併症妊娠に精神疾患疾患を有する妊産婦の追加の要望(全国周産期医療連絡協議会)などが示された。
小児医療に関しては、小児慢性特定疾病等からの成人期への小児成人期移行期医療がテーマに上がっている。小児慢性特定疾病と指定難病はすべてが一致しているわけではない。そのためか、「小児科療養指導料」の算定対象となる患者と比較して、「難病外来指導管理料」の算定対象となる患者は少ない現状にある。そして、「小児科療養指導料」を算定していた患者が、成人移行期となり小児科以外の医療機関に紹介された場合、その患者が「難病外来指導管理料」の算定対象でない限り、紹介先医療機関においては同様の管理料を算定することができない状況にある。
成人になっても良質な医療が継続されるためにも、小児科療養指導料を算定していた医療機関からの紹介・連携を要件とした指導料の一定期間の継続や新たな移行期に関する評価の新設など考えられる。
また、医療機関における業務の簡素化についても議論がスタートしている。医療DXの推進や働き方改革の観点から、記録や書類作成等の業務の簡素化について、これから議論されていくこととなる。