令和7年9月3日、第3回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会が開催されている。今年6月からはじまっている本検討会では、①医療機関における医療安全管理体制の整備と②医療機関の安全対策に有用な情報提供等(医療事故情報収集等事業、医療事故調査制度)について議論され、本年秋にもとりまとめが行われる予定となっている。




 今回の検討会では、①医療機関における医療安全管理体制の整備についてのとりまとめに向けた今後の議論の論点が厚生労働省から示された。その5つの論点は以下の通り。



 令和8年度診療報酬改定にも影響を与えそうな内容もあるので、診療報酬改定との関連も出てきそうな②・④・⑤の内容からポイントを確認したい。


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医療安全管理者の配置を法的に義務化と地域での協議体を構築することを検討に

 医療安全に関しては、第5次改正医療法の施行により、全ての医療機関に対して医療安全管理体制の整備が義務づけられているところ。しかしながら、医療安全管理者の位置づけについて、法令上の定めはなく、適切な研修を修了した医療安全管理者の配置と医療安全管理部門の設置等が診療報酬における医療安全対策加算1及び2において求められている。

 医療情報ネット(令和7年8月21日時点)では医療安全管理者の有無が確認できるようになっているが、医療安全管理者を配置している病院の割合は94.6%(n=7,600施設)となっている。また、医療安全対策加算1または2の届出をしている病院数は4,118施設(令和7年7月1日時点)で全体の54.1%となっている。医療情報ネットと差があるのは、あえて診療報酬での届出をしていない医療機関が多いということだ。私も、医療機関の状況によっては医療安全対策の体制を作るのは当然として、あえて届けをしないという選択をお願いすることは少なくない。なぜかというと、医療機関の人員が十分ではない、働き方改革に課題がある場合は、無理して届けをすることで、担当者に大きな負担がかかる。その割には初日にしか算定できない。回復期や慢性期といった比較的入院期間が長い医療機関では、あえて算定せず、負担軽減を重視する、ということも私は選択肢になると思っている。おそらく、多くの医療機関でも同様の判断・対応をしていると思われる結果だ。


参照:あえて算定しない、という選択肢


 今回の検討会では、その医療安全管理者の配置について法的に位置付けを明確化する(義務化)することが論点にあげられている。医療安全の取り組みを確実にする意味では重要なものだと言えるが、現行の人材確保に苦労している状況を考えると、基本診療料に置いて医療安全管理者の人件費を加味した設計が必要になるだろう。また、医療安全管理者と院長等の経営責任者との関係性についても、事故発生時の際と平時の際での在り方なども検討される。





 また、今回の検討会では医療安全に関するピアレビューや相互支援の地域でのネットワーク作りについても論点としてあげられている。感染対策向上加算の仕組みを想起させる。



 すでに診療報酬では医療安全対策地域連携加算があり、ネットワーク作りに対する評価はある。ただし、多くの病院が算定できているわけではない。今後の方向性としては、特定機能病院や急性期拠点機能を有する病院を中核にした医療安全に関する協議体を作ることが進められていくのではないかと思われる。地域医療と安全管理の質的向上を図っていくうえでは、非常に有用だと思う反面、こうした協議体が増えていくことで、医療スタッフの負担も重くなっていくということだ。既存の協議体との合理化や医療DXを活用した取り組みのインフラ作りもセットで考えていきたい。

 医療安全対策地域連携加算については、地域医療情報連携ネットワークに対する評価の議論と合わせて令和8年度診療報酬改定で注目をしておきたい項目だ。





医療事故事例の収集をを義務化するもの、努力義務化するもの

 先にお伝えしたように、第5次改正医療法の施行により、全ての医療機関に対して医療安全管理体制の整備が義務づけられているが、さらに省令により事故報告等の医療安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずることが求められるとともに、医療事故等発生時の対応に関する基本方針(報告事例の範囲、報告手順等を含む)を医療安全に関する指針に記載することを通知している。しかしながら、医療安全管理委員会に報告すべき具体的な事例の範囲については、明確になっていない。そのため、国全体としても医療安全に関する新たな対策の必要性や既存のリスクに対する対応などを把握しづらい、そこで、医療機関において把握すべき医療事故事例を明確にすることが厚生労働省から提案されている。

 具体的には、「医療機関の特性に応じて求められる医療安全活動及び必要な組織体制等に関する研究班」の議論において類型化されたされたモデルの利用だ。今回の検討会では、A類型を義務化、B類型を努力義務化と提案されている。





 また、医療事故に関する報告を受けた場合の経営管理者の対応方針についても、具体的な病院の取り組み事例をもとに議論されている。議論では、事故が発生した診療の継続を見直し、必要に応じて診療の継続を院長の判断で中止するなどの対応について、今後議論されていくこととなる。




 重症度、医療・看護必要度そのもの見直しと重症者割合の見直し、療養病棟入院料における医療区分の見直しなどで入院する患者の重症者割合は確実に高まっている。一方で、早期退院の促進もあり、特定機能病院や地域医療支援病院等の通院患者も重症度が高くなってきている印象があり、医療事故のリスクと医療従事者の緊張感が高まっているように感じている。患者を守るという観点も重要だが、医療事故が発生することを前提とした体制つくりや、幅広く多くの病院で事前の安全対策がとれるように、国をあげて医療事故事例の収集と分析ができる環境作りが求められる。