内科系症例の重症者割合を底上げするシミュレーション結果、効果に期待も。DPCのさらなる早期退院の促進、データ提出加算の様式1の具体的な見直しも。
令和7年11月26日、第630回中央社会保険医療協議会 総会が開催されている。多くのメディアでも大きく取り上げられているが、医療経済実態調査の結果が公表され、改めて医療機関の苦境が示された。今後、診療側・支払側から今回の結果を受けての考えが示され、年末の改定率の議論へと進んでいく。なお、重症度、医療・看護必要度、DPC、データ提出加算に関する議論も行われている。
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医療政策ニュースのつぶやき
HCナレッジ合同会社のBluesky
改めて明らかにされる医療機関の経営の現状。診療所・薬局は黒字を維持するも経営状況は悪化
医療機関の経営状況bが苦しいことは、中医協の場でも、一般紙でも度々伝えられてきた。今回は、医療経済実態調査の結果が公表されたことで、その苦境ぶりが改めて明らかにされたといえる。
まず病院についてみると、設置主体別・病床規模・機能別にわけても全体的に苦しんでいること、とりわけ、公立(自治体立)病院の厳しさが一歩抜けている。個人的な感覚だが、地方都市に行けば行くほど苦戦しているように感じている。地域医療の最後の砦となっていること、人事院勧告などの影響が考えられる。見逃せないのは、精神科病院においても悪化している点だろう。一般病院では、医療収入を上回る光熱水費や診療材料等の費用の増加が理由として考えられるが、精神科病院の場合も同様に費用が上がっているといえるが、医療収入が下がっていると考えられる。病床削減を本格的に考え、外来・在宅の比重を高める施策が今後必要になってくる病院も出てくるだろう。
一般診療所については、黒字を維持できているものの経営状況は悪化している。特に、有床診療所については厳しい。こうした結果をどのように判断するか。今回の結果だけを見れば、全般的に経営状況が苦しい病院に対して優先的に財源は大きく割かれることになるように思われる。今後、診療側がどういった分析をしてくるのか注目される。
薬局についても、黒字は維持できているが悪化傾向にあるが、病院・診療所と比較するとやや高止まりともいえなくはない。ただ、医療機関とは異なり株式会社としての経営も多く、経営努力の成果とも言え、見えないところでの苦労もあるだろうと推察される。ただ、調剤報酬を考えると、対物業務から対人業務へシフトする評価、すなわち基本料等に頼った経営はかえってリスクとなる内容へとより突き進んでいくことは考えられるだろう。
今回の結果を受け、診療側・支払側で分析し、中医協の場で議論されていくことになる。
施設や在宅の後方支援となる高齢者救急などの内科系症例の受入実績を看護必要度に反映へ
全人口にしめる高齢者割合の増加に伴い、高齢患者の救急搬送が必然的に増えてきている。高齢者の救急搬送で多いのは、外来での対応で完結するケースが少なくないこと、緊急手術等の必要はないものの、疾病を特定するために多くの検査が必要となって入院するケースがある。そこで課題となっているのが、現行の重症度、医療・看護必要度ではクリティカルな領域の重み付けとなっている、ということだ。高齢者の救急搬送で多い内科系症例などでは重症者割合が不利になっている。地方都市に行く事に自治体立病院の経営が悪くなっていると感じる理由の一つは、ここにあると感じている。
そこで、これまでの入院・外来医療等の調査・評価分科会等で内科系症例を精緻に評価し、救急搬送受入を通じて地域医療に貢献する急性期病院の重症者割合を底上げして経営を安定化させる方向性で議論が進んできた。今回、その実際のシミュレーション結果が公表された。具体的には、A・C項目に新たな項目を追加、救急受入の実績を加味する、というもの。
シミュレーション結果からは、A・C項目の追加と救急受入の実績を加味することで、手術はないものの救急受入を積極的に行う病院では重症者割合が増加する事がわかる。今後、詳細を詰め、重症度、医療・看護必要度の重症者割合を底上げする加算などが検討されることとなる。ただ一方で懸念されるのは、大規模病院等が積極的に受入を行っていくことで地域医療に影響が出てしまわないかということだ。急性期充実体制加算と総合入院体制加算は統合する方針になっているが、こうした高度急性期入院においては一定の歯止め(加算の対象患者数割合の設定など?)もセット考えられそうだ。
なお、特定集中治療室・ハイケユニットにおける重症度、医療・看護必要度についても検討されている。特定集中治療室については「蘇生術の施行」「抗不整脈剤の使用」「緊急ペーシング」を新たに基準へ追加すること、ハイケユニットについては「抗不整脈剤の使用」「緊急ペーシング」を新たに追加することについての議論となっている。
また、脳卒中ケアユニットについても議論されており、「経皮的脳血栓回収術」の実績を要件に加える方向で議論が進んでいく見通しだ。
DPCの見直し、標準病院群に救急搬送件数に応じた新たな区分の設定、持参薬ルールの厳格化などを議論へ
DPCに関しては、標準病院群に対する新たな区分の設定、複雑性係数・地域医療係数の評価の見直し、点数設定方式・再転棟ルール・持参薬ルールの見直しと厳格化について議論されている。
参照:DPC/PDPSの4つの検討ポイント。内科系疾患をより反映するための重症度、医療・看護必要度の新たな対応の考え方が示される
標準病院群に対する新たな区分については、救急搬送件数が年間1,200件未満の医療機関と、それ以上の医療機関で、DPC点数表に基づく包括評価点数と包括範囲出来高点数の比に乖離があることから、基礎係数において救急搬送件数に応じた新たな区分を設けることが議論されている。
基礎係数については、前回改定において、データ提出件数に応じた区分が設定され、DPCからの退出を求められることとなったところ。今回の救急搬送件数による新たな区分がDPC退出に直接つながることにはならないと思うが、地域包括医療病棟への移行にメリットが出るような設定となる可能性は考えられるだろう。
複雑性係数については、平均在院日数が長いことよって評価が高くなる傾向にあることから、入院初期までの包括範囲出来高点数による評価へ移行することが検討される。
その他、地域医療係数については、以下の議論が行われ、高度専門医療の確保、地域医療の後方支援の観点から今後検討が行われる。
・地域医療係数の体制評価指数において、認定ドナーコーディネーターの配置を新たに評価
・地域医療係数の体制評価指数において、地域の需要変動に柔軟に対応する体制の確保を促進する観点から、1日当たり入院数の最大値に対する、日毎の入院数の割合の変動係数が著しく低い医療機関に対する評価の在り方を検討する
・地域医療係数の定量評価指数について、地域において果たす役割をより評価する観点から、単なる全診断群分類の地域シェアによる現行の評価から、領域毎の評価へ移行することや、重み付けを見直すことを検討する
医療の質の向上と早期退院を促進するべく、入院期間Ⅱを平均在院日数から在院日数の中央値へ移行することも検討される。さらに、再転棟ルールについても現状の7日から延伸し、一連の入院とすることが検討されている。クリニカルパスの見直し、後方連携の強化として、連携策医療機関・介護施設における医療依存度の高い患者に対応できる支援などもDPC病院として検討していくことが求められてきている。
昨今の診療報酬では、地域の基幹病院な近隣の医療機関とのカンファレンスや研修機会の提供などが求められるケースが増えてきているが、今後もこうした評価の拡充と対応がDPC対象病院には求められてくるだろう。
参照:地域医療連携推進法人に対する横連携型の診療報酬とは? ~術前から退院、経過観察までの一連の治療を包括支払い~
また、持参薬ルールについての徹底も議論されている。入院前に外来で処方を受けてから入院するケースも指摘されている点に注意しておきたい。
その他、データ提出加算に関する議論も行われている。新たに精神病棟入院基本料(15対1)、精神病棟入院基本料(18対1)及び精神病棟入院基本料(20対1)を対象に加えること、電子カルテの導入目標等も踏まえ、当面の間の経過措置を継続することで検討が進めされる。また、負担軽減の観点から様式1において、全患者を対象とする喫煙指数や難病の告示番号、入院時体重・入院時ADLなどを除外・修正することを検討するが、一方で、入院の契機となった傷病を発症する前のADLや下り搬送の有無及び下り搬送時に使用された自動車の所属、外来データ提出加算について特定健診の受診の有無等を追加する方向で検討される見通しだ。















