増収減益の病院経営の現状、エネルギー・委託・診療材料等が上昇。基本的な財務・経営情報を読むポイント
令和7年3月10日、6つの病院団体(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会、以降6病院団体)より令和6年度診療報酬改定後の病院経営の現況について取りまとめられ、公表された。多くのメディアで報道されているように、非常に厳しい現況が明らかになった。
ここでは全体的な傾向について確認し、病院の財務資料をみるポイントについて基本的な知識を紹介する。
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本業である「医業利益」が赤字の割合が69%に達する状況に
医業利益は医業収入の収益力そのものを指す。ここには、差額ベット代等も含まれている。一方で、経常利益は新型コロナ関連の補助・支援金等を含む医業外収益を含めた収益力を指す。個人的に感じるのは、医療が非課税になっていることの影響が大きいと感じる。診療報酬は消費税分を含めていると言われるが、医療機関にもさまざまな規模・機能があるため、カバーしきれていないと思う。今後も機能が複雑化することを考えると、基本診療料の引き上げや受診料を課税対象に加えていくことを考えていくべきだと感じる。
黒字の病院であっても、医業利益率は下がっていることがわかる。様々な補助金を除した経常利益でみるとさらに減少している。エネルギーコスト、委託コスト、診療材料等が上昇しているのが影響している。給与費の上昇もそうだ。給与費が上がるということは、世間一般も同様のことで、委託費も上がっているということになる。医療機関の場合は、ベースアップ評価料をうまく使っていくことで負担の軽減につなげたい。
個人的には、ネット利用やプライバシー対応などをふくめて差額ベットなどの選定療養を増やすことも検討しておくことが大事だと思う。また、価格交渉などを強化することもあるだろうが、価格の前に使用回数を見直したり、クリニカルパスの運用を見直すなどの対応からすすめることを意識しておきたい。医療周辺企業も苦しい状況であることを理解が必要だ。
また、医療用医薬品については、今後日本版クローバックの導入(地域毎に妥当な薬価差の水準を設けて、過度な薬価差を得ている場合は診療報酬を減額するなど。現行の妥結率減算の見直しで対応?)も検討される。令和6年度診療報酬改定では、流改懇のガイドラインを踏まえた妥結率に関する報告が見直され、価格交渉代行者の有無なども調査されている。すでに薬価差益はかなり縮小されているが、今後は薬価差に対する期待はリスクになると考えておいた方がよいだろう。
参照:過度な薬価の偏在に対する対応策の議論が始まる。「過度な」の線引きの在り方に注目。
参照:医療用医薬品の「単品単価交渉」の解釈を整理・明確化
最近、各地域で公立病院を中心に病床削減に関する報道が続いているが、中小規模病院の場合は有床診療所や無床診療所に転換することが検討され、推進されているケースが多いと感じている。人口が多く、医療機関が多くある地域であればよいだろうが、医療資源が限られた地域では有床診療所・無床診療所への転換は要検討が必要だと思う。
参照:新潟県立松代病院(十日町市)を無床の診療所に・2026年4月めど、県が検討 入院を十日町病院に集約へ
将来的に診療所化は必要になるとしても、当面は病床を減らしながらも在支病+地域包括ケア病棟として存続し、近隣の医療機関のバックアップを継続しながら、緩やかにダウンサイジングを図っていくのが理想だ。医療の主役は、地域住民・患者だ。公立病院は住民サービスとしての側面もあることを考え、赤字を極限まで減らすことと地域の不安を高めない慎重な対応が必要だ。
医療機関の財務状況を読むための基本
医療機関の経営状況については、かなりのレベルでオープンになっている。医療法人であれば、都道府県で医療法人事業報告書がホームページに掲載され、ダウンロード可能となっている。かつては、役所で閲覧しかできなかった。便利になっている。さらに、WAM(独立行政法人福祉医療機構)のWebサイトでは医療法人の経営情報のデータベースを活用した分析ができる。財務データはそれだけをみても得られる情報は少ない。過去3-5期分との経年比較を、他施設等との比較をして有益な情報が得られる。
参考までに、財務指標で押さえておきたい流動比率と固定長期適合率、キャッシュフロー計算書の基本的な読み方について理解をしておこう。
それから、病院経営管理指標を利用することで、自院の課題がより明確にできる。病院の経営主体や病床規模、機能別に整理されているため、より詳細に比較検討することが可能だ。
医療情報ネット<ナビイ>では、一日当たり入院患者数や平均在院日数、一日当たり外来患者数と在宅患者数も確認できる。薬局の場合は、年間処方箋応需枚数や医療機関とのカンファレンスの回数、リフィル処方箋の対応実績やフォーミュラリの有無、配送料まで確認できる。
地域内での医療機関の状況把握、ネットワーク作りの基礎資料として活用したい。なお、地域住民に向けたサービスでもある。ということは、地域住民も同じ情報を持っていることも認識しておきたい。
医療機関に関する経営はかなりのレベルでオープンになっている。重要なことは、基準値を知っていること、得られた情報を経年推移をみること、他施設と比べる、ということだ。そして、ほとんどオープンになっているということは、地域住民も知ろうと思えば知ることができる、ということ。治療等については情報格差はあるが、経営状況については情報格差はなくなりつつある。知られていることを前提とした経営について改めて考えておこう。