地域医療構想の推進区域及びモデル推進区域が更新。公立病院を中心とした病床適正化の情報整理と今後について
令和7年3月27日、厚生労働省医政局より「地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について」の通知が発出されている。令和6年度より、地域医療構想を推進していく新たな取組として、病床機能報告上の病床数と必要量の差異等を踏まえて、医療提供体制上の課題や重点的な支援の必要性があると考えられる構想区域に対する集中的な支援として、都道府県と医療機関が連携して行う推進区域と厚生労働省による伴走支援を行うモデル推進区域を設定し、支援を実施することとなった。
参照:地域医療構想の当面のゴール2025に向けて。そして、2040年に向けたnext地域医療構想の議論がはじまる。
今回、新たに推進区域及びモデル推進区域として追加されたのは兵庫県の東播磨区域(明石市、加古川市、高砂市など)。全都道府県から出揃った。
公立病院を中心に、統廃合・ダウンサイジング・無床診療所化の検討が進む
最近のメディアで確認された、各地方での地域医療に関するニュースを以下に列挙する。
北海道
日鋼記念病院、市立室蘭との統合協議受け入れ
新潟県
新潟県長岡市、柏崎市の3病院で急性期病床を計143床削減へ、現在の診療態勢に影響なし 長岡赤十字病院・立川綜合病院・柏崎総合医療センター
上越地域の医療体制 中期再編の素案の検討 来年度に継続へ
十日町の松代病院 診療所として運用する方向で調整
広島県
新病院の中期計画 資金管理体制盛り込む 既存の県立病院の経営悪化受け 「持続可能な経営を」広島県
山口県
岩国市立錦中央病院、医院に転換
萩市中核病院形成計画・村岡知事「取り組みの遅れ懸念」
地方都市では、公立病院が基幹病院となり、地域医療を支えている。人口減少が進むということは、患者数が減少することでもあるが、高齢者の人口割合が高まることでもあり、高齢者救急が大きな課題となっている。ワクチン接種の推進も含めた重症化対策が必要になると共に、病床を適正化しながら、外来診療・在宅診療をする医療機関のバックアップを行っていく体制を作っていくことが基本スタンスになるといえる。ただ、急な病床適正化、特に無床化への転換は地域に混乱を招くことになる。病床がなくなることで、レスパイト入院を含めたバックアップ対応のキャパシティが減少することになる。そのため、かえって在宅診療を行う医療機関の負担増になり、地域医療が疲弊してしまいかねない。とりわけ公立病院は、住民サービスという性格もあるといえるので、自院の経営成績だけではなく、地域住民及び近隣医療機関に対するサポート機能が必要だ。自治体財政を考えると、将来的に無床化はやむを得ないとしても、地域と協議して、緩やかにダウンサイジングを図っていく発想を持ちたい。
数年前、ある地域医療連携推進法人の理事長は次のように語ってくれた。
”地域医療連携推進法人とは、行政などからとやかく言われて地域医療構想に取組むのではなく、地域を熟知した地域医療機関が自ら不安と混乱を地域住民に与えずに、緩やかにダウンサイジングしていくこと決めて取組むということだよ”
かかりつけ医機能報告を契機に新たな地域医療構想でeDRGの考え方の検討を
令和7年度からはじまるかかりつけ医機能報告は、地域医療構想で適正化された入院の受け皿の整備という意味がある。具体的には、令和8年度からはじまるかかりつけ医機能報告の結果を踏まえて、各地で行われる協議の場(外来版地域医療構想調整会議のようなもの?)で役割分担に関する検討が始まる。新たな地域医療構想については、外来・在宅も含めて検討することになるため重要な意味がある。
参照:かかりつけ医機能報告制度の今後のスケジュールが明らかに。「協議の場」と「地域医療構想調整会議」の関係性などは?
私は、先述したニュースにある新潟県十日町市・津南町で設立した一般社団法人妻有地域メディカル&ケアネットワークの理事を務めさせていただいている。もともとは地域医療連携推進法人や社会福祉連携推進法人の設立を見据えた地域医療・介護の共創プラットフォームだ。
十日町市・津南町では、入院機能の有る病院は3施設。その中の1病院を無床診療所化する、というニュースだ。あくまでも令和7年1月1日時点の施設基準情報に基づいた情報だが、かかりつけ医機能報告制度が始まった場合の状況を可視化してみた(魚沼医療圏で作成しています)。
この地域に限らず、おそらくほとんどの医療機関では1号機能は満たせるのではないかと考えられるが、新たな地域医療構想を見据えると、重要なのは2号機能の中身と量だ。地域で病床が減ることで、時間外対応や在宅医療を行う医療機関の負担が重くなることが懸念される。特に、地方都市では地域住民だけではなく、医療従事者の高齢化も課題となってきている。病床の適正化は、当該医療機関の都合だけではなく、こうした地域医療全体の状況も踏まえて検討していくことが必要だ。その上で、eDRGといった医療機関同士の横の連携を評価する診療報酬の増設が期待される(入院前検査から、手術・リハビリテーション・退院後の経過観察までの一連の流れを包括評価)。現状では「二次性骨折予防継続管理料」がそれに充当する評価だといえる。
参照:地域医療連携推進法人に対する横連携型の診療報酬とは? ~術前から退院、経過観察までの一連の治療を包括支払い~
また、順調にいけば令和7年度通常国会で成立する改正薬機法で新たになる健康サポート薬局及び認定薬局の在り方についても期待し、新たな地域医療構想に組込まれていくことが期待される。特に、認定薬局(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局)に対しては、今後居宅の機能を高めていくことが求められる。十日町市・津南町における居宅のかかりつけ機能の有る薬局を可視化してみたが、今後こうした薬局との連携も深めていくことが必要であると共に、既存の薬局に対しての居宅機能への取組の働きかけも必要になってくるだろう。
間もなく、令和8年度診療報酬改定の議論も始まる。その前に、今年6月にも骨太の方針2025が閣議決定され、公表される予定だ。現状の地域医療構想は令和7年度で終了するので、今年が最終コーナーとなる。新たな地域医療構想のスタートに向けてどういった地ならしが行われるのか注目すると共に、地域全体で起きている事象を改めて確認し、自院への影響を考えておきたい。