令和7年5月27日、「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」と題されたいわゆる「春の建議」が財務大臣の代理人に提出された。骨太の方針2025に向けた財務省からの提案といえるもの。医療を含む社会保障分野全体でとしては以下のようなポイントとなっている。


・高齢化と給付費の増加

過去20年で医療・介護の給付費用が約2倍に増加し、経済成長を大幅に上回る伸びを示している。今後も高齢化の進展に伴い、現役世代の保険料負担が増加する見込みであり、給付費の適正化が不可欠といえる。


・財源の課題と負担の透明化

社会保障制度は社会保険方式を基本としつつも、約2割を特例公債に依存しており、将来世代への負担先送りが問題視されている。国民が納得して負担できるよう、保険料と税の使途を明確にし、政府は国民の声を受け止めた改革を不断に進める必要がある。


・コスト抑制と生産性向上

 物価上昇による医療・介護コストの増加に対し、単なる自動的な給付反映は現役世代の負担を増大させ、経済活力を奪う可能性がある。各事業者のコスト抑制努力を促し、タスクシフト・タスクシェア、医療DX、協働化・大規模化などによる生産性向上が求められる。


・情報開示と質の評価

 医療・介護施設の経営状況、特に職種別給与などのリアルタイムな「見える化」を通じて、データに基づいた深い議論と改革を推進することが重要。また、サービス提供側の外形的な評価だけでなく、国民のウェルビーイング向上への貢献を実質的に評価できる仕組みの構築が望まれる。


・患者負担の公平化とセルフケアの推進

医療・介護における自己負担及び保険料について、年齢ではなく能力に応じた負担を実現する制度対応が必要。同時に、患者・高齢者自身による予防・健康づくり、セルフケア・セルフメディケーションの浸透を促進し、医療費の適正化を図ることが求められる。 



 特に注目しておきたいのは、「患者負担の公平化とセルフケアの推進」について。具体的に①質の高い医療・介護の効率的な提供、②保険給付範囲の適切な設定、③負担の公平化、という3つを実現するための取組が重要としている。それぞれを見てみる。


①質の高い医療・介護の効率的な提供(医療・介護事業者、薬局に対すること)

タスクシフト・タスクシェア等を通じた各事業者の適切な連携・分業による資源の効率化や偏在の是正、協働化・大規模化を通じた生産性の向上のほか、診療・処方の場面では医療DX等による治療・投薬の標準的なモデルの確立や、リフィル・長期処方の普及に向けた制度面での取組みが必要


②保険給付範囲の適切な設定(一般市民に対して)

セルフケア(自分の身体は自分のために自分で守る)・セルフメディケーション(軽微な身体的不調は自分自身で対応する)の浸透


③負担の公平化(制度設計について)

自己負担及び保険料に関し年齢ではなく能力に応じた負担を実現することについて、制度上対応



 春の建議の概要にもあるように、社会保障分野についてはバックキャスティング的な議論をしていくことの有用性が強調されている。バックキャスティングとは、将来のあるべき姿から今必要な取組を導き出し、将来に向けて計画的に取組んでいくこと。



 医療・薬局領域の将来のあるべき姿として、財務省としては3つの方針が示されている。骨太の方針にどのように影響を与え、盛り込まれていくのだろうか。






 以前もお伝えしたように、春の建議ではとりわけ開業医に対して厳しい指摘・改革の要請が並べられている。具体的には令和8年度診療報酬改定において、外来管理加算を再診料に包括、機能強化加算の廃止、かかりつけ医機能報告を踏まえた機能に対する評価、生活習慣病管理料において病状が安定化した患者に対しては診療報酬上の評価を複数月に1回とすること、さらに医師偏在対策の一環としての診療所過剰地域での診療報酬単価の引き下げ、地域内における過剰サービス(診療科の数)に対する減算規定の設定など、具体的な提案が並べられている。


参照:令和7年度春の建議に向け、医療提供体制・診療報酬・調剤報酬に関する議論が行われる


 令和8年度診療報酬にも大きな影響を与えることが考えられることもあり、骨太の方針2025の取りまとめの内容は非常に重要なものになる。


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