対人業務の比重が高まる薬局経営、次回改定に向けた議論の論点整理が行われる

7/30/2023

r6同時改定 経営 薬局 薬剤師

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 令和5年7月26日、中医協総会が開催された。次回診療報酬改定に向け、感染対策と調剤報酬について現状確認と議論の方向性が話し合われた。ここでは調剤報酬に関してのポイントを解説する。なお、感染対策については「感染対策向上加算、新興感染症対策への対応への備えを。抗菌薬の使用量の適正化を連携を通じて強化へ。」を。


〇病院薬剤師の確保のために調剤報酬の財源を?

令和6年度から新たに始まる第8期医療計画では、特に不足しているといわれている病院薬剤師不足の解消をめざした薬剤師偏在対策が盛り込まれる。令和18(2036)年をゴールとした取組で、薬剤師偏在指標を基にして令和6年度から検討を開始し、令和9(2027)年からのスタートとなる。


病院薬剤師の確保において、よく課題として挙げられるのが薬局との給与格差だ。今回の議論では、勤務年数が長くなれば病院勤務の方が薬局の給与よりも高くなる傾向にあることを示している。病院での採用に当たっては、こうした長期的視点で見た提示の仕方も重要だということだ。


ただ、薬局薬剤師が病院薬剤師に比べて給与水準が高いことにはそれなりに理由もある。薬局の場合は、薬剤師が主役であり、薬剤師がいなければ経営が成り立たないものだ。病院では、医師が主役と言え、医師がいてこそ経営が成り立つもの。いわば、病院と薬局では薬剤師のポジションや責任の重みに差があることも知っておく必要がある。


〇令和7(2025)年をゴールとするかかりつけ薬局。その現状と今後は?

薬局の今後については、「患者のための薬局ビジョン」にすべてが記載され、ほぼその通りに進められている(参照:改めて読み返し、基本姿勢に立ち返るための「患者のための薬局ビジョン」)。調剤報酬は「患者のための薬局ビジョン」を実現するための手段ともいえる役割を担っている。令和17(2035)年には立地も地域へとしてかかりつけ機能を発揮する、令和7年(2025)年にはすべての薬局をかかりつけ薬局へ、という目標と期限を設定している。直近で迫っているのが「すべての薬局をかかりつけ薬局へ」という目標。調剤報酬で言いうところの地域支援体制加算や特定薬剤管理指導加算2などの届出を指すといえるのではないだろうか。届出が近年多く増えているのが分かっているが、多く増えれば質を高めていくフェーズに入るもの。当面のゴールとなる令和7年までは量を増やし、それ以降は質を高めるために要件を厳しくしていく、ということなど考えられるだろう(意外と今回から要件は厳格化されそうな雰囲気もあるように感じる)。なお、認定薬局については調剤報酬では評価は直接的にされていないが、認定薬局に必要な要件を満たすには対人業務の実績と比重を高めなければならないため、間接的には認定薬局はかかりつけ薬局の拡充と地域包括ケアシステムにおける機関薬局の機能を担う結果となっている。



「患者のための薬局ビジョン」で求められる最終ゴールの姿のイメージとしては、薬局が以下に地域や地域住民に接近できるか、ということに尽きる。そうした観点でいえば、無理に立地まで地域に寄せることは必然ではなく、ICTサービスを用いた医療機関や介護事業者との情報共有やオンライン服薬指導・服薬フォローと配送機能を薬局が持つことで、立地はそのままでも十分に目的は果たせるのではないかと思われる。そこで重要になるのが、お薬手帳だろう。今年度末までに新たなお薬手帳に関するガイドラインも公表される予定になっているが、お薬手帳を通じた服薬管理・フォローなどが重要度を増すことになる。例えば、今回公表された資料では、患者が3か月以内に同一薬局を利用する割合は77.3%あることを伝えているが、お薬手帳などの効果の一つともいえるだろう。かかりつけ薬局の要件を満たすことも大事だが、患者に選んでもらい、通い続けてもらえることがまずは重要だ。



ただ一方で、気になるのが服薬フォローについてだ。服薬フォローについては、薬機法改正に伴い「必要に応じて行うことが義務」とされているもの。医療機関へのフォロー結果のフィードバックは努力義務だ。今回の議論ではこの服薬フォローについて、7割の薬局で電話を利用して行われていたことが明らかになっているが、実施している理由の多くは新しい薬剤を追加した時、というもの。服薬アドヒアランスの低い患者や独居で不安のある患者、リフィル処方箋やオンライン診療受診者など検査を受けていない患者などを必要者と想定したものだったと思われるが、やや現実とは差があるようだ。また、患者の反応も紹介されているが、服薬フォローを受けたという結果が非常に少なく、薬局側との回答と差がある。薬局側としては服薬フォローをしたつもりが、患者が「服薬フォローを受けた」と感じていないのかもしれない。実際に服薬フォローを受けた患者としては、ポジティブな意見が多いだけにフォローの内容・あり方についても今後議論されていることになりそうだ。




ところで、服薬フォローの結果を医療機関にフィードバックすることは努力義務だが、取組むことで服薬情報等提供料として評価される。この服薬情報等について、病院側と薬局側とで欲しい情報に溝があることが示されている。具体的に言えば、病院としては副作用や残薬発生時等を踏まえての「処方提案」を求めているものの、薬局側からの提供は少ない。こうした、情報のギャップを埋めるような書式の見直しなども十分に考えられるだろう。



また、病院と薬局との連携という視点でみれば、退院時共同指導料における退院前カンファレンスへの参画もある。オンラインでの参加も可能となったことから件数は増えつつあるが、まだまだ少ない。その理由として、薬局は病院からの声掛けがないことをあげている。



入院前に持参薬を確認する服薬情報等提供料3と連動させて入院中の患者の情報共有などを推進することで退院前カンファレンスのタイミングをキャッチアップできるようにするなどの見直しなど考えられるかもしれない。

ところで、病院との関係では、疑義照会簡素化に関する取組も資料では紹介されている。地域の薬剤師会との事前協議によるものと、院内における外部からの問合せに薬剤師が対応する院内での疑義照会簡素化プロトコールの事例だ。働き方改革や病院薬剤師に対する新たな評価の可能性として注目しておきたい。




〇比重が高まる対人業務。地域のゲートキーパーとして必要な学びと体制。

患者の状況の確認が必要な指導の算定、として喘息患者・がん患者・糖尿病患者を対象とした項目の算定状況が増加していることを伝えている。これらの項目は、服薬フォローの一環でもあるが、医師等の働き方改革の一環としての負担分散という性格もある。


算定回数が増えていることもあり、さらなる疾患等の拡充も期待される。今後期待される領域としては、慢性心不全・認知症・メンタルヘルスケアなど考えられるのではないだろうか。慢性心不全については循環器病対策推進基本計画の推進の一環として。心不全療養指導士などの資格など注目して検討しておきたい。認知症については、各都道府県で実施されている薬剤師認知症対応力向上研修など考え、受講を検討しておきたい。メンタルヘルスケアについては、昨年策定された自殺総合対策大綱にて薬局は地域のゲートキーパーと位置付けられ、メンタルヘルスに関する研修などが求められることになりそうなことから考えられる。


慢性心不全・認知症・メンタルヘルスはあくまでも私の勝手な推測だが、地域包括ケアシステムに貢献する、ということを考えれば、調剤報酬に関係なく、取組むことは求められ、他の医療機関や患者からも選ばれる薬局になるのではないだろうか。

また、孤独・孤立対策支援法と改正障害者差別解消法が来年度から始まることも抑えておきたい。


参照)

孤独・孤立対策推進法が成立~かかりつけ医機能・入退院支援部門を有する医療機関、特に薬局は注目を~

障害者に対する”合理的配慮”をすべての事業者に義務化


また、対人業務の比重が高まることで個別対応が増え、薬剤師の負担が重くなることが懸念される。今回の議論では記録にかける時間があげられている。業務の外部委託の推進、間接業務時間を削減するためのICTサービスの導入や記録等の書式の簡素化なども注目されるテーマになるだろう。


〇厳しい見直しが予想される敷地内薬局

敷地内薬局については、次回改定でもかなり厳しい見直しとなりそうだ。敷地内薬局のある病院に対するアンケートでは、薬局との連携があまりとれていないこと(敷地内薬局のある医療機関のN数は18件)、敷地内薬局では地域支援体制加算の届出がないケースが多いことなど示されている。



令和7(2025)年にはすべての薬局をかかりつけ薬局へ、という目標もあることから、地域支援体制加算等の要件を求めることや認定薬局の一つ専門医療機関連携薬局などの認定などを求める可能性も十分にありうるのではないだろうか。

薬価・安定供給を巡る議論では、過度な薬価差への対応なども今後検討される(参照:過度な薬価差の偏在是正策の必要性を。今後調査の上、クローバック制を参考に検討へ~医薬品安定供給有識者検討会~)。ますます、対人業務に比重を置いた戦略が求められると共に、人材育成と業務の効率化がますます求められることとなるだろう。


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