令和7年12月19日、第637回 中央社会保険医療協議会 総会が開催されている。今回は、医療DXと残薬への対応に関する議論、そして、これまでの中医協における指摘事項への回答が行われている。ここでは、医療DXと残薬への対応を中心に解説し、指摘事項については個人的に


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 ところで、12月19日の夕刻に令和8年度診療報酬の改定率について、本体部分を+3.09%とする方針を決めた。内訳については今後議論が進められ、12月26日に決定する見通しだ。


参照:診療報酬「本体」3.09%上げ 政府、30年ぶり高水準(共同通信/Yahoo!ニュース)


 詳細については、改めてお伝えするが、12月19日は日銀金融政策決定会合が開催され、金利が引き上げられた点にも注目をしておきたい。


参照:日銀、政策金利を0.75%に引き上げ 7会合ぶり利上げ(毎日新聞/Yahoo!ニュース)


 融資を受ける際に金利が上がる、という影響もあるが、もう一つ着目しておきたいのが人材採用・定着だ。金利が上がるということで、景気のムードが良くなったように見え、多くの産業では給与も引き上げられる。医療業界も他の産業と比較されることとなり、非専門職者を中心に人材の確保・採用に苦労することが考えられる。まずやるべきことは、現状の職場環境の改善を通じて守りを固めて環境を良くし、新たな人材の受け入れ体制を創っていくことだろう。採用活動をして集めることができても、定着に繋がらなかければ意味がない。だから、まずは器となる職場環境の課題を一つひとつ改善していくことだ。令和7年度補正予算では生産性向上に対する支援も準備されている。目先の問題解決も大事だが、中長期的視点を持って、持続可能な経営に必要なものをしっかり見極め、戦略的に補正予算を使っていくことを意識しておきたい。


参照:令和7年度補正予算が閣議決定される。1病床あたり19.5万円、医科無床診療所へは32.0万円、薬局ヘは20店舗以上で12.0万円を交付へ。大学病院に対しては、診療報酬で補填されない教育・研究の質に関する支援



医療DXの推進を加速するために診療報酬でどのように支援していくか?

 医療DXの推進は、改正医療法でもうたわれているが、2030年までに電子カルテの導入100%を目指すなど積極的に取り組んでいくことになる。補助金等を利用してDX関連サービスを導入し、医療DX推進体制整備加算をはじめとする診療報酬で運用・保守メンテナンスを賄う、といった構造になっている。



 オンライン資格確認については、従来のカード型の健康保険証の利用は令和8年3月31日までとなり、マイナ保険証の利用が基本となることから、今後さらなる利用率の拡大が見込まれる。そうした中で、医療DX推進体制整備加算の算定施設数・算定回数は増加し、最も高い加算1は大きく増えていることがわかる。こうした状況から、加算そのものの在り方について議論されている。




 ただ、医療DX推進体制整備加算は、オンライン資格確認だけではなく、電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスの導入に関する評価でもある。そこで考えられることは、マイナ保険証の利用率に着目した評価を加算から減算に切り替えるとともに、マイナ保険証を用いた診療で負担となっている患者への説明に対する負担への評価と在り方を見直すことだ。



 マイナ保険証の利用率が今後も上昇していくことで、医療DX推進体制整備加算の構成要件から外れて、初診・再診料でいずれは包括されていくことも考えられるだろう。その場合は、点数を引き上げつつ、利用率に応じた減算規定が設定されることになるではないだろうか。加算は、算定すべき医療機関の7割以上が算定したら、廃止され、基本診療料に包括されていくもの、そういった前提に立ってみておきたい。

 医療DX推進体制整備加算では、先に述べたように電子処方箋と電子カルテ情報共有サービスも要件に組み込まれている。電子処方箋については、医療機関での導入が遅れている。



 今回の議論では、電子処方箋を利用することでオンライン診療・服薬指導が効率的に実施できたことや重複投薬チェック機能が有効的に活用できた事例などが紹介されている。オンライン診療・服薬指導における施設基準への追加やポリファーマシー対策に関する一連の評価で施設基準(電子処方箋を利用した新たな区分の設定?)に盛り込むことなども考えられるではないだろうか。


 電子カルテ情報共有サービスについては、モデル事業が複数箇所で始まり、検証のフェーズに入っている。3文書6情報のうち臨床現場で支障なく運 用が可能な文書・情報から、来年の冬頃をメドに全国で利用可能な状態にすることを目指すとしている。ゆえに、少なくとも医療DX推進体制整備加算は令和8年度診療報酬改定では継続となるだろう。

 そこで、課題となるのが電子カルテそのものの導入についてだ。中小規模病院(200床未満)と診療所では50%をようやく上回ってきたという状況だ。




 課題は、導入及び運用の費用。そこで、厚生労働省・デジタル庁では、標準型電子カルテの開発を進めて、電子カルテが導入されていない医療機関への提供をする予定だ。標準型電子カルテは、紙カルテでの運用ができるもので、なるべくボタン操作ではなくクリック操作で完結できるように開発を進めているということだ。令和8年度中の完成を目指すとしている。ということは、令和9年度あたりから電子カルテ情報共有サービスの導入が本格化していくという見通しだ。おそらく、標準型電子カルテの提供においては、電子処方箋を同時に導入していくことなどがセットになっていくのだろう。




参照:標準型電子カルテ、2026年度中の完成を目指す。電子処方箋については、「電子カルテ を整備するすべての医療機関への導入を目指す」ことに


 DXの推進と合わせて対応が求められるのが、サイバーセキュリティ対策だ。ICT技術・サービスの進展とともに、サイバー攻撃をする側も対応してくる。病院のサイバーセキュリティ対策の現況調査結果について以前お伝えしているが、今回の議論でもそこでの資料が利用され、セキュリティ対策に一定のコストが発生することが示され、現行の診療録管理体制加算だけではなく、基本診療料も含めた他の項目での支援となる評価の新設が検討されそうだ。


参照:病院のサイバーセキュリティ対策の現況調査結果が公表。BCPを策定する病院が大きく増加。医療情報システムの安全管理ガイドラインの改定に向けた論点も明示へ


 医療DX推進体制整備加算については、電子カルテ導入100%を目指す2030年までは形を変えることはあるだろうが、継続され、2030年以降は基本診療料に組み込まれていくことになろだろうとイメージする。こうした支援があるうちに、体制を整備しておくこと重要だといえる。



残薬に関する発生抑制・確認・解消の評価を整理し、実効性のある内容に

 令和8年度診療報酬・調剤報酬改定では、連携を軸としたポリファーマシー対策に関する話題が出ているが、残薬もポリファーマシー対策の一連の議論の流れにあるものと言える。残薬に関する評価は、発生抑制・残薬の確認・解消の3つの視点で医療機関・薬局で評価されている。



 まず、残薬の抑制の観点としては、地域包括診療料・加算、在宅時医学総合管理料等で残薬確認を要件化することに付いて議論が、また電子処方箋管理サービスの活用を施設基準に盛り込むことなどについて議論が行われている。



 また、地域包括診療料・加算の算定患者が対象となる薬剤適正使用連携加算について、他院にも通院する外来患者の薬剤が他院との連携により種類数が減少した場合も評価することについて厚生労働省から議論が要請されている。



 ただ、この場合連携協力してくれた医療機関に対する評価も考える必要があるだろう。残薬の抑制については引き続き議論が必要といえる。


 残薬の確認については、厚生労働省から「薬局薬剤師による外来患者に対する残薬確認の実効性を高める観点から、残薬状況を薬剤服用歴に明記して継続的に管理することや、患者や家族の求めに応じて患家訪問し残薬確認を行うこと」を評価すること、そして「指定訪問看護の実施時等に、居宅において残薬を発見した際の、医師や薬剤師への情報提供」に関する評価をすることについて議論が要請されている。



 前者については、患家へ訪問と医師へのフィードバック、必要応じた処方提案・受診勧奨までを求めるような内容で調剤報酬で評価が新設されそうだ。後者についても、同様に評価が新設されそうだ。


 残薬の解消の観点としては、厚生労働省から「医師が事前に、薬局で残薬を確認した際の取扱い について円滑に指示を行うことができるように、処方箋様式を見直すこと」に関する議論が要請されている。実際、医療機関が処方箋の備考欄に残薬調整後報告可の記載をして、薬局と連携して残薬の解消に取組む医療機関があることが報告され、減数調剤を実施していると思われる。



 処方箋様式を見直すことが目的ではなく、医師と薬剤師が目的を共有し、意思疎通することにある。そうした目的を達成することに寄与できる見直しができるのかによって決まるだろう。

 ポリオファーマーシー対策と残薬対策は、医療機関・薬局それぞれ単独での取組から、地域をあげて取組む、横の連携を活かして取組むものへと変わりつつあることを感じさせる。



訪問な訪問看護等に関する適正化について

 高齢者住宅への頻回な訪問看護に対して、包括評価を検討することなど議論されてきている。その議論を精緻に行うために、その実態について調査が行われている。


参照:在宅医療においても拠点的(積極的)な機能と一般的(連携・面対応)な機能で評価を。高齢者住宅に併設する訪問看護に対する適正評価を検討へ


 調査の結果、訪問看護基本療養費Ⅱを算定する利用者では、別表7該当に限らず、訪問が頻回になっている傾向が明らかになっており、一月あたり医療費も高額になっている傾向がわかった。当然だが、必要があって行われているケースも有ることを忘れてはならないが、適正化を推進していくための見直しは行われることとなりそうだ。




 


特定疾患療養管理料の厳格な運用について

 例えば、主病名は特定疾患療養管理料の対象疾患で副傷病名は生活習慣病管理料の対象疾患であれば、特定疾患療養管理料で算定でき、外来管理加算の算定も可能となる。そして、月に2回まで算定が可能となり、生活習慣病管理料より評価が高くなる。そこで、特定疾患療養管理料で算定されている傷病名の傾向を明らかにし、対応を検討していくこととなった。



 調査結果としては、副傷病名として生活習慣管理料の対象疾患が多くあることがわかった。今後さらなる議論が行われることとなるが、生活習慣病との組み合わせ状況などから対象となる疾患を制限することや受診頻度の見直しなども考えられる可能性がある。主病ではないことから病状がそれほど悪くないと考えられ、長期処方・リフィル処方などでの対応を促すことも考えられる。



療養病棟における身体的拘束について

 追加の調査からは以下のことが新たにわかった。


 ・常時の手指/四肢/体幹抑制を一定割合以上実施している病棟が比較的多かった。

 

 ・挿入デバイスや認知症の有無別に身体的拘束の実施状況をみると、デバイスありの患者で 

  は常時の手指/四肢/体幹 の抑制の実施率が高い病棟もあり、医療機関ごとの差が大きかっ

  た。

 

  ・デバイスも認知症もない患者の場合、常時の手指/四肢/体幹抑制の実施ゼロの病棟が多い

  ものの、デバイスがなくて も認知症がある場合は、一定数の病棟で常時の手指/四肢/体幹

  抑制が実施されており、ほとんどは認知症高齢者の日 常生活自立度Ⅳ・Mの患者であっ

  た。 

 

 ・ 挿入されているデバイスの種類をみると、胃ろうの場合、身体的拘束実施率0%である病棟

  が比較的多く、経鼻胃管や IVHの場合は身体的拘束実施率の高い病棟が多かった。






 身体的拘束については、医療機関としての取組方針などを明確にすることなどがこれまでの議論で重要であるとの意見もあった。患者及びその周囲の患者の生命・安全を守るなどの目的がある場合での対応などについては減算評価の在り方を見直すことも必要なように感じる。