令和8年度診療報酬改定に向けた令和7年末までの主な議論を整理しました
令和8年度診療報酬改定に向けた議論が一段落し、年明けからは具体的なシュミレーション結果などを基に、詰めの議論が行われる。12月26日に開催されている第639回中央社会保険医療協議会 総会においては、支払側と診療側、それぞれの意見が公表されているが、あくまでも私個人的な観点・少しの願望も含めて、今後の議論の注目点と見通しについてご紹介したい。
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医療機関機能報告との整合性の観点
新たな地域医療構想からはじまる「医療機関機能報告」との整合性を図るべく、入院医療について、とりわけ急性期一般入院料に関して大きな見直しが行われる。また、高齢者救急への対応、物価高・賃上げ対応の観点から、特に拠点的な機能が期待される病院に対してはより手厚い評価となりそうだ。
まず確認しておきたいのが、拠点的な急性期機能と一般的な急性期機能の線引きだが、ここまでの議論では、急性期一般入院料1において、救急搬送受入れ件数と全身麻酔手術件数の実績で区分することとなりそうだ。その一方で、一般的な機能に該当する急性期機能においては、多職種配置に対する加算を設けることや内科系症例の重症度を底上げする看護必要度の見直しなどで、増える高齢患者の入院医療への対応を強化できる環境を整備していくこととなりそうだ。
また、今回の診療報酬改定の議論では地域差を意識した施設基準・要件の設定が検討されている点が注目されるところ。緩やかに地域別診療報酬がスタートするともいえる。
ここでは、拠点的な急性期機能を有する病院について「急性期一般入院料1-A」と仮表記して紹介する。急性期一般入院料-Aの中でも、診療実績が高く、診療科のバラエティが多く、受入れのキャパシティが大きな病院に対しては、現行の急性期充実体制加算と総合にゅいん体制加算を一本化した新たな加算で更なる高い評価が設けられることとなりそうだ。
また、負担軽減の簡単から対応が難しい外来医師の負担軽減を支援する意味でも、地域のかかりつけ医との2人主治医制を促進するべく連携強化診療情報提供料を見直すと共に、外来診療料の減算規定の見直しを図ることが考えられている。
一般的な急性期機能については、やはり高齢者救急への対応、手術を必要としないものの検査が多くなり、包括内出来高が多くなってしまっている病院に対する評価の見直しがポイントになる。
また、看護必要度における協力対象施設入所者入院加算の実績などをどのように評価し、重症者割合の底上げにつながるかなど注目をしたい。病院としても、改めて施設との契約や在宅医療に積極的に取組む医療機関との平時からの連携の仕組み作りを整備しておきたい。
地域包括医療病棟については、ADL低下割合と平均在院日数の見直しが濃厚だと言える。今後多くの病院、特に今後も要件が厳しくなるDPCから退出する病院の転換先として、件数が増えてくることが考えられる。多職種の人材獲得も含めて、競争にならないように地域医療構想調整会議などでの議論が必要だと考える。医療資源のリソースは地域で限られているので、競争ではなく、共有・シェアとなるような連携を考え抜きたい。
包括期入院としては、地域包括ケア病棟について確認をしておきたい。今回の注目点としては、救急受入れで手術をする場合と予定入院で手術をする場合などで、緊急時に備えた待機コストを含めて評価するべく、区分を新たに設けることとなりそうだ。
また、管理栄養士や薬剤師の病棟配置が少ないこともあり、栄養管理や病棟薬剤業務に関する評価包括外とすることも検討される。
一方で注意したいのは、短期滞在手術等基本料3に該当する手術等についての評価の見直しだ。医学的な理由がなければ、対象となる手術等については評価が引き下げられる見通しだ(地域包括ケア病棟に限らず)。
専門等機能に該当することとなる回復期リハビリテーション病棟について確認する。基本的な考え方としては、地域での集約が求められる傾向だといえる。セラピストを集中配置して、成果のでるリハビリテーション業務に注力することを評価していくことになる。そこで、新たに排尿自立支援加算や摂食嚥下機能回復体制加算の届出のある病棟をスーパー回復期リハビリテーション病棟のように高い評価をする予定だ。
同じく専門等機能に該当する療養病棟については、栄養管理に対する取り組みを促進するべく、経腸栄養管理加算や栄養サポートチーム加算などの要件の緩和であったり、死亡退院患者割合が少ない病院を評価することなどが検討されている。
なお、療養病棟入院基本料2の基準の引上げが予定されているが、入院料1についても見直しが行われないか注目をしておきたい。
入退院支援・地域医療連携については、先に2人主治医制について紹介したが、慢性心不全に関する連携を評価する項目が新設されそうな点に注目をしたい。現行では、がんと骨粗鬆症患者の二次性骨折予防に関する評価があるが、それと似たものとなりそうだ。最初に治療等行う計画管理病院の策定する地域医療連携クリニカルパスを利用して、情報共有をはかっていくものとなるだろう。こうした、地域での疾病管理を促進する項目は今後も増えていきそうだ。
その他、ポリファーマシー対策を退院後も地域で継続していくための新たな評価にも注目をしたい。
かかりつけ医機能報告との整合性の観点
外来医療に関しては、いよいよ届出が始まるかかりつけ医機能報告との整合性をどう図っていくかがポイントになる。かかりつけ医機能報告では、一次診療対応可能な領域として、17診療領域・40疾患から選択し、報告・明示することが求められる。また、自院では対応できない領域等については、連携先を明確にしておくことも必要となる。現行の診療報酬における機能強化加算とオーバーラップする点も多いため、機能強化加算でのみなおしなど考えられる。
ただ、現時点では外来医療に関する議論はあまり多く行われていない。また、医療経済実態調査の結果や財務省による秋の建議からは、やや厳しい議論が予想される。とはいえ、物価高・賃上げの影響を受けているのは確かであるし、医療経済実態調査等の結果は昨年の実績であって、今年に入ってからの急速な物価高等の影響は加味されていない。1年のタイムラグは大きいと感じている。基本的な考え方としては、基本診療料は引上げることとなると思うが、医学管理料や指導料等については、従来よりも要件が引き上げられることや加算を廃止して基本診療料に包括していくことになるのではないかと思う。重要な視点としては、各種診療ガイドラインに基づいた診療の実施だといえる。
在宅医療に関しては、医師の負担軽減や頻回な訪問に対する正当性を明確にすることがポイントになりそうだ。また、積極的に在宅医療に取組む医療機関に対する高い評価も検討される見通しだ。
精神医療、入院医療は3つの観点から
新たな地域医療構想では、精神病床も対象となるが、大まかな方向性は示されているものの、詳細な議論はまだこれからだ。基本的な路線としては、地域移行をさらに推進し、病床削減を促し、外来・在宅等にリソースを配分していく、というもの。精神保健福祉施策の改革ビジョンを着実に推進していく流れだ。
入院医療については「入院機能・地域移行」「人員配置」「身体合併症」の3つの観点で見直しの議論が進んでいる。
1つ目のポイントとしては、病床削減を促す施策だ。注目したいのが、外来医療の比重が高い病院や障害福祉サービスとの連携や自院が経営している場合に対するインセンティブを検討しているというもの。精神科病院においては、入院医療の医業収益がほとんどを占めるため、病床削減をすることで収益が悪化してしまうため、なかなか病床削減に踏み切れない。そこで、外来医療機能の強化や障害福祉サービスとの連携を新たに評価することが検討されている。そこで、PSWの専従要件の範囲を見直すことになる。
2つ目のポイントとしては、入院患者の高齢化に伴い、生活習慣病をはじめとする内科系疾患等への対応の強化だ。一般病院との入院患者のD to P with D/Nなども可能性として考えられる。
外来については、精神疾患患者に対するオンライン診療を初診から対応できるようにすることや、初診待機患者がまだ多いことに対する対応を評価する方針だ。
患者のための薬局ビジョンのさらなる推進、バイオ後続品の使用促進に注目
調剤報酬についても、外来医療と同様にやや分が悪い見直しとなりそうだ。特に、調剤基本料においては、処方箋集中率に関する新たな区分を設定すること(門前薬局に対する厳しい評価となる可能性)、敷地内薬局の除外規定の見直し、モール型薬局における処方箋集中率のカウント方法の見直しといったところ。その一方で、地域差を考慮して、地域支援体制加算や在宅総合薬学管理加算の実績要件を緩和することも検討されている点に注目したい。
後発医薬品調剤体制加算については、廃止となると予想していたが、安定供給問題への対応がまだ続いていることが明らかとなったことから、医療用医薬品の流通改善ガイドラインへの対応などを要件として、使用促進目的から安定供給目的へと見直して存続することになりそうだ。また、バイオ後続品について、院外処方割合が高まっていることもあり、一般名処方加算・分割調剤の対象にバイオ後続品も加える見通しで、薬局薬剤師による切替の提案や保管管理に関する新たな評価を設定する見通しとなっている。なお、先行バイオ医薬品の選定療養については、議論がなくなっている。
以上、あくまでも個人的に注目している点を中心にして、これまでの議論を整理、見通しを解説してみた。新型コロナ禍時から、診療報酬改定の議論に政治介入が強くなっている印象もあり、まだどうなるかわからない点も多々あるが、現時点での傾向を把握し、備えるべきポイントを確認しておくことが大切だ。個人的には、今回も含めた今後の診療報酬への対応のポイントは、競争から共有・シェアする視点を持つことで、自院が地域に貢献できること明確にするとともに、積極的に自院に不足するものを求め、受け入れていくことだと考える。地域での疾病管理、すなわち、施設をまたいだ「横のDRG」への対応を中長期的に考えておきたい。