令和7年12月5日、第633回中央社会保険医療協議会 総会が開催されている。今回は、バイオ後続品を含む後発医薬品関連、精神領域の外来、専門技術領域、賃上げについて議論されている。多岐に渡るテーマとなっているので、ポイントを絞って紹介したい。


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後発医薬品関連、使用促進から安定供給目的の加算に見直し。一般名処方加算にバイオ後続品追加へ

 令和6年10月からの長期収載品の選定療養がスタートして、低分子の後発医薬品の調剤割合が90%を超えた。後発医薬品使用体制加算や後発医薬品調剤体制加算などでじわじわと取組んできたが、やはり患者の経済的負担に直接的に影響がわかりやすく伝わる選定療養の効果は大きかったといえる。しかし、選定療養の対象になる前ですでに86%に達していた事も忘れてはならない。


参照:生活習慣病管理料の包括範囲の見直しを検討へ。バイオ後続品のさらなる使用促進、地域でのポリファーマシー対策について薬剤数に限定しない評価を


 診療報酬上の加算よりも選定療養の効果が大きいことがわかったこともあり、後発医薬品に関する使用促進の評価はその役割を見直す時期にきている、すなわち廃止して基本診療料に包括の上、減算規定を設けるこ都など検討する時期だと言える。そうした中で、厚生労働省からは「医薬品の安定供給体制を支える取組を促進する観点から、流通改善ガイドライン等を踏まえ、多くの医薬品を在庫管理する体制を含めた報酬上の評価をどのように考えるか」といった議論の要請があった。示された資料からは、流通改善ガイドラインへの対応がまだ不十分であること、安定供給・保管管理に課題があることがわかった。






 今回の議論から見えてきたのは、いまだ安定供給に苦労している状況が見て取れることだ。そこで、既存の後発医薬品に関する評価の目的を使用促進から安定供給に変えて、保管管理等の負担に対する支援となる新たな評価へと見直すことが考えられる。

 また、一般名処方加算についても議論が求められている。一般名処方加算の点数引き上げが対応のきっかけと答えている声が多いが、オーダーエントリーシステムの導入といった環境の変化が取組の契機になっていることも明らかにされていることから、医療DXの推進が影響を与えているとも言える。考えられることとしては、電子処方箋の普及を促す意味でも処方箋料と処方料を統一し、一般名処方加算の引き上げもしくは医療DX推進のさらなる推進(電子処方箋に対する評価やペナルティの新設)での評価、ということが考えられるのではないだろうか。





 バイオ後続品に関する議論では、院外処方が増えていることもあり一般名処方加算の対象に加えることとなりそうだ。そうなると、薬局における薬剤師の説明の負担、保管管理といった場所のコストが発生する。薬局におけるバイオ後続品に対する新たな評価の新設や先行バイオ医薬品の選定療養の導入も考えられるだろう。




 薬局でのバイオ後続品に関する新たな評価を考える上では、在宅自己注射指導管理料についても合わせて見直していくことも必要なるだろう。薬局薬剤師による自己注射の説明などを追加することなど考えられるのではないだろうか。そうなると、薬剤師による自己注射の説明の加算といった形式になるかもしれない。

 バイオ後続品使用体制加算についても厚生労働省から「入院日時点においてバイオ医薬品を使用するか否かが不確定であるケースがあることから、その算定日について見直すこと」について議論が要請されている。入院日時点から退院日時点へと見直すことになりそうだ。



精神科領域の外来について、初診待機時間を短くするための評価を見直し。PSWの専従要件の範囲を見直しへ

 前回の診療報酬改定では、精神科外来に関して、初診までの待機時間が長い現状を克服するために、医療機関が積極的に初診対応できるように「通院・在宅精神療法」を見直し、「早期診療体制充実加算」を新設した。しかしながら、前者については「60分以上」で高い評価となるものの時間の確保が難しいことや30分以上でも十分と考えているとの声もあることから新たに「30分以上」の区分を設けることとなりそうだ。




 後者の「早期診療体制充実加算」については、単純に施設基準が厳しすぎる、というのが原因と考えられている。特に、先の60分以上の初診割合や時間外対応の実績だ。そこで、先程のように初診30分以上という新たな区分を設けることにあわせて実績も見直し(30分以上のややたまえの割合の設定?)や他の医療機関との平時の連携実績といったものを加えた見直しとなるだろう。





 外来については、精神科のオンライン診療についても議論されている。届出や算定回数が低調であること、外来待機時間や患者のアクセス問題解消に向けて、適正に推進していくべく、「情報通信機器を用いた精神療法の適切な実施に関する指針(案)」に基づいた施設基準を設定して正しく運用をしていくことを促すとともに、初診時からの対応についても検討されることとなる。




 なお、児童思春期支援指導加算についても議論が要請され、現行の実績要件を緩和することで受入ができる環境を整備していくこととなりそうだ。



 その他の精神領域に関する個別の議論では、精神保健福祉士(PSW)に関する専従要件の範囲を緩和し、病棟に専従配置されている精神保健福祉士が、当該病棟からの転棟後の患者等の継続的な支援を行えるようにする方向性が確認された。




 公認心理師に関しては、理支援加算の対象疾患の拡大や、認知行動療法的アプローチに基づく心理支援への評価を新たに行うことが検討される。認知療法・認知行動療法の実施に際して毎回医師の介入を求める要件等の緩和も同じく検討されることとなる。






慢性心不全に関する新たな「横」の連携の可能性

 技術的事項として、11項目の議論が行われている。この中から注目したいのは、慢性心不全に関する評価のあり方について。厚生労働省から「関係学会のガイドラインに基づいた治療管理、多職種介入及び地域における医療機関間連携の取組を踏まえ、慢性心不全の治療管理の評価のあり方について」議論が要請されている。




 資料から読み解けることは、「二次性骨折予防継続管理料」のイメージ。心大血管疾患リハビリテーション料における慢性心不全の対象患者に係る基準を変更することも今回議論されているが、横の連携の評価となる可能性が高いと感じる。縦の評価(DPC)から横の評価(計画管理病院を起点とした地域での疾病管理)の診療報酬は今後も拡大していくことが考えられる。





参照:地域医療連携推進法人に対する横連携型の診療報酬とは? ~術前から退院、経過観察までの一連の治療を包括支払い~


 ロボット手術に関する評価の見直しについても注目したいところだ。医療機関毎の算定回数の分布にばらつきがあること、現時点では既存技術との比較で優越性が示されていない技術が大半であること、診療材料のコストがあることを踏まえた見直しの在り方について議論が要請されている。算定回数に応じた評価に地域差を反映させることや診療材料が包括されていることから保険償還がなく物価高となっていることで採算性が悪化していることへの対応が行われるとなりそうだ。

 その他、厚生労働省から要請された議論の内容については以下の通り。

・(全身麻酔手術)臨床における麻酔管理の実態、関連学会のガイドライン及びL008マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔の算定状況を踏まえて、全身麻酔の評価を見直す。


・(臓器移植施設の体制整備について)臓器移植に当たって、移植側施設における体制整備に係る特殊性を踏まえ、臓器採取術及び移植術の評価を見直す。


・(遺伝性乳癌卵巣癌症候群について)BRCA1/2陽性患者のうち、乳癌・卵巣癌未発症患者における、両側乳房切除及び卵管・卵巣切除に係るエビデンスが示され、関係学会においてもガイドラインが取りまとめられた点等を踏まえ、乳癌・卵巣癌未発症患者に対するBRCA1/2遺伝子検査等を診療報酬上の評価の対象とすること。


・(検体検査等について)血液製剤の適正使用の観点から、フィブリノゲン製剤の適応判定に必要な迅速フィブリノゲン測定に対する診療報酬上の見直し。


・(睡眠医療について)CPAP療法の適応に係る最新の国際的な基準、日々の使用時間と有効性に関する科学的知見、終夜睡眠ポリグラフィーの在宅での検査実施に係る各種調査結果等を踏まえ、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料及び終夜睡眠ポリグラフィーの評価を見直す。


・(情報通信機器を用いた医学管理等について)インターネット回線を介して遠隔で治療設定機能の変更が可能なプログラム医療機器を用いた脳深部刺激療法の管理の評価のあり方を検討する。また、在宅療養指導料の算定対象者のうち在宅自己注射指導管理料を算定している者及び慢性心不全患者について、情報通信機器等を活用した療養上の指導の評価について見直す。


・(カルタヘナ法を遵守した医学管理について)カルタヘナ法の遵守に当たって、医療機関において入院中の個室管理や環境整備等の対応が発生することについて、製造販売業者が果たすべき役割との関係性も踏まえ、入院・外来・在宅それぞれの場面における診療報酬上の評価について検討する。


・(診療報酬における使用医薬品について)ワクチンは主に医療保険外の予防接種に用いられ、適正な薬価を算定することには限界がある。このことを踏まえ、保険診療上必要となる治療の一環として用いられるワクチンの保険償還について検討する。また、危機管理等医薬品(MCM)は市場流通せず、取引価格が形成されないため薬価収載になじまない。このことを踏まえ、致死率の高い重点感染症に対する即応的な治療手段となる危機管理等医薬品(MCM)の保険償還について、体外診断用薬等の別表3に入れることとなどを検討する。



医療従事者の賃上げ、事務負担の軽減・簡素化で促進を

 前回改定で新設されたベースアップ評価料だが、規模が小さい医療機関ほど届出が少ない。事務的負担が重くなっていることが理由の一つと考えら、これまでも簡素化などは行われてきた。今回の議論では、看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料を統合すること、さらなる事務負担軽減について議論が進められた。



 本格的な議論はこれからだが、ベースアップ評価料は今後も継続し、負担を軽減し小規模医療機関でも届け出しやすい見直しを図っていく方針は確認できたように感じる。