これからの社会保険を巡る2つの課題と議論の行方~薬剤自己負担と10月からの年収の壁問題への支援策~

9/29/2023

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 令和5年9月29日、「第168回 社会保障審議会 医療保険部会」が開催された。この部会では、骨太方針2023に記載された薬剤自己負担、そして被用者保険適用の拡大に向けた取組に関する重要な議論が行われている。

参照)

骨太方針2023の原案が公表。医療分野を確認します。

骨太方針2023が閣議決定。原案との違いを確認します。


〇薬剤自己負担について

 長期収載品がある先発医薬品について、後発医薬品との薬価差を患者の自己負担としてもらう「参照価格制度」は古くから議論されてきていた。今回は骨太方針にも記載されたこと、少子化対策の財源確保、またさらに、高額な薬価の医薬品の登場が相次いでいることから本格的な導入を前提とした議論が行われる。年末の全世代型社会保障構築会議の報告書に合わせ、年内に結論を出すこととなる。

 今回の議論では薬剤自己負担の在り方については4つの考え方を示している。従来から言われていた参照価格制度に近い考え方(④)の他、市販類似薬の負担割合の見直し(③)や有効性など薬剤の効果等に基づき算出する自己負担割合(②)、一律に自己負担割合を見直す(①)ものなど。



議論はまだこれからだが、③と④については財政審などでも度々取り上げられてきたもの。医療費のバランス、社会保険の負担を考えると、避けては通れない状況にあるようにも感じる。

ところで、薬剤自己負担の見直しは後発医薬品メーカーにとっては追い風のように見えるかもしれないが、個人的には厳しい状況を生み出すことになると考えている。患者の自己負担が増えることは受診抑制につながり、そもそも後発医薬品の処方増につながらない可能性もある。また、大手の先発医薬品メーカーのほとんどは大衆薬等も手掛けているため、トータルで先発医薬品メーカーに分があるといえる。薬剤自己負担の議論は、後発医薬品メーカーにとっての正念場ともなりうる。


〇年収の壁問題について

年収の壁(パート従業員などが一定の年収を超えると扶養の範囲から外れて手取りの収入が減ること)についてはこれまでもご紹介してきた。私自身、経営者となって感じるのは、税金の負担以上に社会保険料の負担の重さが中小企業の大きな足かせになっていることを日々実感している。扶養の範囲にとどまることの方が手取りが増えることが労働力不足に影響を与えているのも確か。

参照)

社会保険の適用対象者の拡大、今年中に方針が示される可能性も ~全世代型社会保障構築会議~

健康寿命を3年延伸することと被用者保険の適用拡大が意味するところ


令和7年度に行われる年金の制度改正において、扶養の範囲を気にせずに働いてもらえるように、社会保険の適用対象者をさらに拡大する見直しが行われる予定となっている。具体的には、令和7年以降、従業員数の要件を撤廃し、週20時間未満の労働や複数の事業所で働く人でも労働時間を合算して20時間以上になる場合で年収55万円以上(給与所得控除額の最低保障額)までの引き下げを具体的に検討することとしている。「55万円の壁」だ。なお、現在、厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で週20時間以上働く短時間労働者は、厚生年金保険・健康保険(社会保険)の加入対象となっているが、令和6年10月から厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等で働く短時間労働者の社会保険加入が義務化される。

この年金の制度改正までの2年間のつなぎとして、令和5年10月から実施される年収の壁対策となる支援策が公表された。社会保険料相当額を一時的に支給する事業主に助成するものと週の所定労働時間を延長することで助成するというもので、2年間の措置となる。




いずれはほとんどの国民が社会保険適用者となるような拡大策がとられてくることになるだろう。社会保障制度を守っていくためには必要なものではあるが、負担が増える分、賃上げや企業業績の向上といった取組も重要だ。そのためには、事業の集約化と新たなビジネスの創造も必要なり、そして働く人々の健康が何よりも重要だ。社会保険だけを切り取ってみるのではなく、産業社会などとつながっていくことを改めて理解し、最善の行動・最善の経営をその都度意識していきたい。

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