※2024年2月12日、図表等修正しました。
令和6年度は診療報酬の他にも、6年に一度の見直しとなる医療計画、医療費適正化計画も同時に見直される。ある意味、6年後に設定した目標を達成するべく診療報酬がその後押しするための項目も目白押しになっている。医療費適正化計画(後発医薬薬品、外来化学療法など)、看護師確保等基本指針、医療計画(周産期医療、新興感染症対策など)、精神保健福祉法などとの関連性を見ながら、今回の改定の意味などを確認してみたい。今回は、精神保健福祉法との関連性について。
精神保健福祉法改正、その経緯と傾向
令和4年12月、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が公布された。この法律は、令和5年10月の難病助成の支給開始時期の見直しなども含めた、障害者の日常生活支援に関する法律を見直すというもので、精神障害者に関する制度である精神保健福祉法の見直しも含まれている。
なお、精神保健福祉法の見直しは令和5年と令和6年の2段階実施となっている。
〇令和5年4月~の見直し
家族が虐待等の加害者である場合の対応
入院患者(措置入院・医療保護入院)への告知(患者本人だけはなく、家族にも)に関する見直し
新規申請に向けた指定医研修会の有効期間(指定医研修会を受講したあと、3年以内であれば指定医の申請が可能)
〇令和6年4月~の見直し
医療保護入院の期間の法定化と更新の手続き(医療保護入院の入院期間は、最大6ヶ月以内)
家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合の取扱い(家族等の全員が意思表示を行わない場合には、医療機関は市町村長同意の申請ができる)
地域生活への移行を促進するための措置(退院後生活環境相談員について、措置入院者にも選任するなど)
入院者訪問支援事業
措置入院時の入院必要性に係る審査
医療機関における虐待防止の措置の義務化
虐待を発見した者から都道府県等への通報の義務化
自治体の相談支援の対象の見直し
市町村への支援に関する都道府県の責務
入院から、地域生活を支える医療提供体制へと大きな方向性が示されている。こうした流れは、令和4年の国連からの障害者権利条約の審査結果に基づく勧告も影響を受けているといえるだろう。
参考
障害者権利条約、初の審査が行われる ~条約という重み、医療保護入院について~
精神科病院の強制入院を見直すよう、国連から勧告 ~障害者権利条約の審査結果を受けて~
地域生活を支援するためには、病院としては病状が安定している患者の場合は早期退院を促していくことがまずは求められる。精神科領域にも地域包括ケアの考え方があり、地域医療構想ともいえるような入院患者の状況に応じた病床機能の有り方、目標が設定されている(参照:精神科領域の地域医療構想と地域包括ケアシステムの考え方)。
また、退院促進と退院後のフォロー及び再入院対策・対応を目的に、一般診療と同様に、精神科版の地域包括ケア病棟を新設すると共に、精神科版の入退院支援加算を新設することとなった。
地域生活平均日数(参照:医療計画の基本と今後、そして精神科医療の指標「地域平均生活日数」)をのばすための見直しも進んでいる。「包括的支援マネジメント」を入院早期から始めるとともに、退院後も在宅・通院にて展開していくための整理が行われている。新設される精神科地域包括ケア病棟との連携、特に病院側からの支援策など注目していきたい。
また一方で、地域によっては精神科の外来受診が難しく、初診まで時間がかかることや、初診の時間が短い場合があることも問題視されている。精神科に限った事ではないが、早期発見と介入、初回の十分なアセスメントが大事だ。そこで、初診に時間を割くことを評価する「早期診療体制充実加算」が今回新設される点に注目したい。また、精神科領域におけるオンライン診療を推進することで、診療時間の効率化や患者の負担の軽減を図ることとなった。ただし、精神科におけるオンライン診療では1回の処方で3種類以上の抗うつ薬又は3種類以上の抗精神病薬お投与した場合は算定不可となる。また、初診の場合は向精神薬を処方しないことを掲示する必要があることを確認しておきたい。
精神科領域においても退院可能な患者に対して早期退院が一層求められる。再発を防ぎながら、一日でも長く日常生活を送り続けてもらえるための支援を、病院側としても対応していくことがより重要になる。高齢者の場合は、よりよい看取りがゴールの一つといえるが、精神障害を含む障害者の場合は、病を持ちながらも働くことなども視野に入れながら生活し続ける、」ということがゴールの人だともいえること。ゴールの違いを理解した対応を考えていきたい。今回の診療報酬改定では、そうした対応を考える重要なきっかけになる。