令和8年度の下半期がはじまり、来年度に向け、骨太の方針2026に明記された内容の議論がはじまっている。特に注目されるのが、現役世代の社会保険料等の負担の今以上の上昇を抑制し、負担を軽減することを目的とした高齢者の窓口負担割合の見直しだ。骨太の方針2026では年内に方向性の結論(改革工程表の策定)を出すこととなっている。

 

参照:骨太の方針2026より、医療分野に着目 ~地域住民の健康増進に資する薬局機能・薬剤師の役割強化を、社会保障改革工程表を今年度末までに~


 そして令和8年10月1日、第217回社会保障審議会医療保険部会が開催され、議論がはじまった。また、その議論がはじまる前々日に健康保険組合連合会より令和7年度の1,000万円を超える高額レセプト上位の概要が公表され、現役世代における医療費の課題の一つが示されたところである。

 医療費に関する世代ごとの課題、課題に対して医療現場で対応できること、そして今後重要性を増してくる療養・就労両立支援指導料の令和8年度診療報酬改定後の状況について確認したい。


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高齢者の窓口負担割合の今と今後

 現行では70歳以上は2割負担、75歳以上は1割負担である。なお、現役世代並みの収入がある場合は3割負担となっている。医療業界に限らず、働き手不足は社会全体での課題となっていることもあり、雇用延長をする企業も多く、70歳以上になっても働く方は増えており、3割負担となっている割合が増えていることがわかっている。


厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会


 ただ、歳を重ねることに伴い、傷病も重なっていく。そのため、受診頻度は増えていくものである。その甲斐もあってか、入院するケースは減少傾向にあるとともに、いわゆる健康寿命が伸びていることがわかる。


厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

厚生労働省 第217回社会保障審議会医療保険部会

 しかし、窓口負担割合が3割になるとそれだけ負担が重くなり家計に影響が出ることを懸念して、受診頻度を見直す人が増えることが考えられる。また、高額療養費における外来特例について今後も見直しが進むことになれば、その可能性は高まる。なお、今年度の臨時国会において健康保険法等改正で金融所得も踏まえた保険料率を算定することが早ければ5年後からスタートすることが決まっている。


参照:令和8年特別国会で審議される健康保険法等改正、外来受診頻度は5年後あたりから減少していくことも。医療分野の生産性向上補助金についても確認



 現役世代の負担を軽減していくこと、持続可能な社会保障制度を実現していくためには負担の不公平感を解消していくことは避けては通れない。年内にもまとまる改革工程表では、どういった形式になるかはまだわからないが、一定の収入のある高齢者の負担割合が高まる方向で進んでいくことが考えられる。それであれば、現在の制度の中で受診頻度が下がったとしても高齢患者の重症化が進展しないような仕組みを作り、お年を召されても働き続けることを通じて、社会保険料を負担し続ける持続可能な社会保障制度としていくことが必要だ。




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受診頻度減・長期処方時代の対応策

 令和8年度診療報酬改定では、リフィル処方及び長期処方の要望に応じる対象となる慢性疾患の指導管理料の対象を拡大した。そして、リフィル処方及び長期処方に関するKPIを設定したことは記憶に新しい。


参照:「リフィル処方・長期処方を2030年度までに95%以上の医師が発行したことがある」とする目標に基づく政策ダッシュボードの更新が報告される



 ここで注意したいのが、リフィル処方等の要望に応じる、というのは要望があれば必ずリフィル処方等をしなければならない、ということではなく、要望に応じて話し合いをした上で、処方医が判断をする、ということだ。個人的に感じているのは、あくまでもリフィル処方及び長期処方は病状が安定している勤労者に向けたものであって、1〜2割負担の高齢者にはあまり適さず、長くとも2ヶ月処方として、適宜検査及び服薬状況の確認をしていくことが必要だということである。また、リフィル処方及び長期処方をする場合は薬局の協力を得ることが必須だといえる。具体的には、リフィル処方等の対象となる患者の処方箋と一緒に服薬フォローアップを依頼する文書を患者に渡して、処方箋と共に薬局に提出してもらうということだ。薬局では、患者の次回受診日を確認し、受診日までにフォローアップを行い、できれば受診日の前日若しくは当日にトレーシングレポートを処方医に送る。そうすることで、診療場面で活用できる。




 なお、令和8年度調剤報酬改定では地域支援・医薬品供給対応体制加算の施設基準で、血圧測定器や握力測定器などのセルフメディケーション機器を3種類以上設置することが求められるようになっている。今回は設置のみではあるが、おそらく今後は、リフィル処方で医薬品を受け取りに来た患者に対して、セルフメディケーション機器で測定をし、その結果によっては受診勧奨を促すことなど考えられるだろう。


 かかりつけ医機能報告制度と電子カルテ情報共有サービスの本格稼働で、服薬情報や他院の受診状況などを患者のかかりつけ医とかかりつけ薬局が一元管理できる時代が始まる。服薬管理だけではなく、栄養管理も近隣の医療機関や栄養ケア・ステーションなどと連携できる。多くの地域で人口減少が進み、新たな患者が増えていくことは難しくなっていく。それであれば、既存の通院患者の重症化対策を徹底し、受診頻度が減ったとしても1日でも長く通い続けてもらうことが経営の基本戦略となり、社会全体での働き手不足解消にもつながる。現行の診療報酬等でも間接的に持続可能な社会保障制度作りに貢献できる。



増加傾向にある高額レセプトと社会全体の生産性向上

 現役世代における医療費の主な課題についても確認しておこう。

 令和8年9月29日、健康保険組合連合会より令和7年度の高額レセプト上位の概要が公表されている。健康保険組合連合会は大企業や特定の業界団体の保険者による組織である。なお、中小企業の場合は独自の健康保険組合をもたないケースが多いので協会けんぽ(全国健康保険協会)に多くが加入している。

 公表された高額レセプトからわかるのは、高額薬剤の登場と使用量の増加が影響しているということである。医療経済・保険財政の観点から単純に考えると課題に見えるが、看護者・介護者の負担の軽減につながることが期待され、患者本人だけではなく、看護者・介護者の社会参加の時間を創出できることにつながる。特に患者本人にとっては就労との両立がしやすくなってきているとも言える。高額であることだけに着目すると課題として映りがちだが、社会参加の機会を創出することを考えると、社会全体の働き手不足の解消に寄与しているものだと言える。高額と言われる医療用医薬品の薬価の価値を改めて見直す必要がある。


健康保険組合連合会 令和7年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要


 日本の社会保障制度の特徴の一つに「勤労の義務」がある。働くことは義務である、という意味と捉えてはいけない。働ける人は働くことで社会保険料を納めて持続可能な社会保障制度を構築していくことに協力する、というように考えたい。雇用延長、治療と就労の両立支援など、社会全体の労働力不足を解消することと同時に、社会保障制度を維持・継続していくために「勤労の義務」を推進していくための環境整備は整ってきている。これから特に求められるのは、従業員が持つ個々の事情への事業主の理解だろう。働きたいという意志を持つ従業員との対話をし、決断をしていくということだ。

 令和8年度診療報酬改定では療養・就労両立支援指導料が見直され対象となる疾患の制限がなくなり、点数も拡充された。事業主の理解に医療機関側から働きかける重要な診療報酬だ。



厚生労働省 治療と仕事の両立支援ナビ


 令和8年度診療報酬改定では同指導料の注3・相談支援加算が50点から8倍になる400点に引き上げられた。専任の専門職者の配置、両立支援コーディネーター養成研修のカリキュラムに即した研修の修了が条件となっているが、患者サポート体制充実加算の職員との兼任でも構わないこととなっている。

 令和8年5月1日時点と同年8月1日時点での相談支援加算の届出状況を比較してみると、139施設増加している(591施設→730施設)ことが分かる。


HCナレッジ合同会社にて集計

 療養・就労両立支援指導料の積極的な取り組みは医療機関の経営においても大きなプラスに働くと共に、医療機関側からの後押しが社会全体の生産性向上と持続可能な社会保障制度に貢献できることになるだろう。