日本経済を支えていただいた団塊の世代の皆さんが一人残らず90歳代に入るのが2040年。そして、90歳を超えたところから、介護保険サービスの利用者が増えることなどがわかっている。そこで、そうした方々を支える人出が必要だが、既に少子化の時代に入っていることから、支え手不足が懸念されている。これがいわゆる2040年問題で、毎年6月に閣議決定される骨太方針にその問題解決に向けた取組が記載されている。
医療においては取組の方針は大きく2つ。まず一つは「医療機関及び医療従事者の生産性向上」。地域医療構想と働き方改革を指す。すなわち、地域の限られた貴重な医療資源を有効活用していこう、というもの。何でもかんでも、経営統合とか合併とか、病床削減だ、というわけではなく、地域の実情(患者の交通アクセスも重要)に合わせて考えることが重要(参照:地域医療の再編を巡る話題(地域医療構想と地域医療連携推進法人))。二つ目は、「健康寿命を三年延伸する」。わかりやすく言えば、生活習慣病の重症化予防であり、透析が必要になったり、寝たきりになるまでに、少なくとも3年間は現状維持で持ちこたえましょうね、ということ。そこで重要な役割を果たすのが、かかりつけ医でありかかりつけ薬剤師だ。確実に服用し続けてもらう、何かあればすぐに処方を変更する。患者のための薬局ビジョンはこうした世の中に対応するための準備の必読書だ(参照:改めて読み返し、基本姿勢に立ち返るための「患者のための薬局ビジョン」)。
「医療機関及び医療従事者の生産性向上」については、これまでも度々ご紹介してきた。
もう一つの重要な施策である「健康寿命を三年延伸する」について、とりわけ強化しているのが「慢性腎臓病(CKD)」対策だ。現在、新規で人工透析導入患者が毎年4万人いらっしゃると言われている。しかも、医療技術の進歩で、皆さん長生きされるようになった。そして、その人工透析を利用する多くの方は高額療養費制度を使っていることもあり、倫理的な面はさておき、医療費という観点ではやはり気になる(参照:
高額療養費制度が救うもの、阻害するもの)。そこで、国として、2028年までに新規透析導入患者を年間3万5千人以下にするための取組を、保険者努力支援義務、そして診療報酬などで進めている。
こうした重症化予防の取組は、各自治体のアイディアに任されている。最近取組を伺った千葉県における「
糖尿病性腎症・慢性腎臓病(CKD)重症化予防対策について」を簡単にご紹介したい。
千葉県は腎臓内科医が少ないことなどもあり、CKDに対する取組の強化がかねてより必要とされていた。腎臓内科医を増やす、ということも解決策の人だとは思うが、それよりもすでに活躍されていらっしゃる地域の診療所等に協力をいただくべく、県医師会と連携してCKD対策協力医の要請と登録を開始。腎臓内科医との連携、健診等でのハイリスク患者に対する受診勧奨を行うことが目的。養成については動画を視聴し、登録フォームに入力することで完結できる。また、患者に対する疾患啓発ポスターや指導用のシールなども県として完備。
2029年~2033年の間で人口に対する医師需給は均衡すると言われている。そして、そもそもの人口減少は進むことから、新たな人材を増やして対応していくことは、人口増加が続く地域以外では難しい。それであれば、既存のリソースを有効活用するという視点が重要になってくる。そのためのアイディアは、行政や医療機関、保険者だけではなく、製薬企業や医療機器開発企業など分け隔てなく、協力を求めていくことが近道だ。そして、そこから地域で新しい産業、雇用が生まれ、地域包括ケアシステムの基盤が充実していく。