医療行政と言えば、厚生労働省と直感的に思うところだが、近年はそうでもない。私は次のような見方をしている。
厚生労働省 → 病気や健康、医療機関と医療従事者の生産性向上
経済産業省 → 医療機関・薬局の経営、周辺ビジネスを含めた産業としての支援
総務省 → 公立病院や救急、ICTなどのインフラ整備
国土交通省 → スマートシティを含めた都市機能における医療・介護の役割整理
文部科学省 → 医師等の養成と研究、大学病院経営
財務省及び内閣府 → 予算に基づく政策提言機能
この中で個人的に注目しているのが国土交通省だ。COVID-19感染拡大も含め災害の多い日本での都市機能のあり方やコミュニティ作りに医療・介護がどのようにあるべきか、近年に多くの提言を行っている。骨太の方針2022の前に、国土交通省が考えている医療・介護について整理しておきたい。
日本の人口は2009年をピークに12年連続で減少している。国交省の推計によると、50年までに全市区町村の約3割(558市町村)が人口半数未満となり、そのうち21市町村が25%未満になるとの結果がある。地方での人口減少がこのまま進むと、地域の存続基盤といえる生活必需サービスの維持が困難となり、病院では約7割、介護老人保健施設でも半数の市町村で存続できなくなるという深刻な影響だ。
こうした人口減少の進行と特に地方への影響なども踏まえ、国交省は2021年6月に「国土の長期展望」を取りまとめている。そこでは、人口減少下でも安心して暮らし続けられる国土を目指し、「デジタルを前提とした再構築」に取り組むことを提言した。デジタル技術の活用で従来より人口規模が少なくても都市的機能を維持できる可能性が高まっていることから「利便性が高く持続可能な都市・地域を全国に多数創出すべき」とまとめ、日常生活の基盤となる「地域生活圏」に着目している。地域生活圏とは、「通勤・通学をはじめ多くの住民の普段の行動が域内で完結し、総合的な買い物サービス、救命救急を担える医療機関、大学等の高等教育機関、鉄道やバスなど域内外の交通手段等の都市的機能が提供される圏域」を指している。これまでは総合病院や百貨店といった都市的機能をフルセットで維持・提供することを前提に、「人口規模で30万人前後、時間距離で1時間前後のまとまり」が目安とされていた考え方を軸にしてきたが、「医療や福祉、教育などの都市的機能の整備が進展し、人口10万人前後の圏域でも概ね提供することが可能」・「デジタル技術も活用しつつ住民密着型のきめ細かなサービスをリアルに提供するには比較的小さく集積した圏域の方が取り組みやすい」といった理由から、「人口10万人前後、時間距離で1~1.5時間前後の範囲」を目安とするのが適当との考え方を新たに示している。
とはいえ、人口10万人規模というのもまだまだ大きな単位で、土地も広く、人口の偏在もあるもの。そこで、人口10万人の地域生活圏内の中においてもさらにコンパクトな「小さな拠点」(小学校区など複数の集落が集まる基礎的な生活圏)などを推進し、地域生活圏域内で「核となる拠点」にまとまりつつ、その「核となる拠点」との間をネットワークで結んで利便性を高める集約・連携の構造が適切であるとしている。かつての「まちなか集積医療(NIRA総合研究開発機構)」を思い出させる。
なお、「小さな拠点」とは国土交通省版の地域包括ケアシステムともいえる考え方だと私は思っている。その国土交通省版の地域包括ケアシステムとしては、オンライン資格確認をイメージした患者・利用者情報の共有、オンライン診療の整備、救急医療体制と新興感染症を見据えた連携と機能分化の重要性をあげ、とりわけデジタルとリアルの融合をキーワードとしている。