2022年6月7日閣議決定、公表される予定で進められている骨太方針2022の原案が明らかにされました。これまで、本ブログでも中間整理の解説や議論のポイントを解説してきた。
注目される骨太方針2022 ~後期高齢者医療保険、R4年度保険者努力支援制度~
続・注目される骨太方針2022 ~電子的保健医療情報活用加算の見直し、ユニバーサルサービス制度~
今回は、原案の中から医療に関する領域での個人的にポイントと思われるところを紹介したい。
経済財政運営と改革の基本方針2022(仮称) (原案)
第1章 我が国を取り巻く環境変化と日本経済 > 2.短期と中長期の経済財政運営 > (経済社会活動の正常化に向けた感染症対策) より
「国立病院機構等の公立公的病院に法律に基づく要求・要請を行うことによる新型コロナの専用病床化とともに、個別の病院名を明らかにした病床の確保を行いつつ、感染拡大時には即応病床の増床や病床の使用率向上により、入院を必要とする者がまずは迅速に病床又は臨時の医療施設等に受け入れられ、確実に入院につなげる体制を整備」
「G-MISやレセプトデータ等を活用し、病床確保や使用率、オンライン診療実績など医療体制の稼働状況の徹底的な『見える化』を進める」
「これまでの新型コロナ対応を客観的に評価し、次の感染症危機に備えて、本年6月を目途に、危機に迅速・的確に対応するための司令塔機能の強化や感染症法の在り方、保健医療体制の確保など、中長期的観点から必要な対応を取りまとめる」
(コメント)救急医療体制や高度急性期入院医療への手厚い診療報酬設定は今回のCOVID-19感染拡大に起因する医療逼迫への対応。今後は国によるコントロールタワーを設置していくべき、デジタルインフラの整備を急速に進める。一方で、医療機関の内情は「丸裸」となることを意識して、ガバナンスなど今からでも見直し、対応しておきたい。時間がかかることほど、早く手をつける必要がある。
第2章 新しい資本主義に向けた改革 > 2.社会課題の解決に向けた取組 > (2)包摂社会の実現 > (共生社会づくり) より
「認知症施策推進大綱に基づき、認知症サポーターが地域で活躍できる場の整備等認知症の人や家族に対する支援を推進するとともに、第二期成年後見制度利用促進基本計画に基づき、成年後見制度を含めた総合的な権利擁護支援の取組を推進する。障害者の就労支援、難聴対策等を着実に推進する。感染症による不安やうつ等を含めたメンタルヘルスへの対応を推進する」
「地域と学校が連携したコミュニティ・スクールの導入を加速するとともに、夜間中学の設置、医療的ケア児を含む障害のある子供の学びの環境整備、障害者等の様々な体験活動やこれを含む生涯学習を推進する」
(コメント)「包摂社会(ほうせつしゃかい)」というキーワード。骨太方針ではあまり見なかった言葉。成年後見制度については、これからの高齢者の増加に伴い必然的に増えてくる認知症高齢者への対応としては重要になってくる。その家族や親族、土地や住まい、金融資産、そして承継。ソーシャルワーク活動では専門的な知識はいらないと思うが、「信頼できる」相談先となるところを確保するにはどうするかなど課題もある。また、前々回・前回と難聴対策については引き続き力が入っていることが今回も分かる。医療的ケア児への対応など、在宅医療及び救急対応できる病院に対するさらなる診療報酬上での対応が期待されるところ。
第4章 中長期の経済財政運営 > 2.持続可能な社会保障制度の構築 >(全世代型社会保障の構築)と(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進) より
「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、能力に応じて皆が支え合うことを基本としながら、それぞれの人生のステージに応じて必要な保障をバランスよく確保する。その際、給付と負担のバランスや現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ、後期高齢者医療制度の保険料賦課限度額の引上げを含む保険料負担の在り方等各種保険制度における負担能力に応じた負担の在り方等の総合的な検討を進める」
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。あわせて、医師の働き方改革の円滑な施行に向けた取組を進める。その他基盤強化に向けて、医療費適正化計画の在り方の見直しや都道府県のガバナンスの強化など関連する医療保険制度等の改革とあわせて、これまでの骨太方針2021等に沿って着実に進める。」
「データヘルス改革に関する工程表にのっとりPHRの推進等改革を着実に実行する」
「オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す」
「オンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進める。そのため、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置する」
「経営実態の透明化の観点から、医療法人・介護サービス事業者の経営状況に関する全国的な電子開示システム等を整備するとともに、処遇改善を進めるに際して費用の見える化などの促進策を講じる。医療・介護サービスの生産性向上や医療DXの推進を図るため、タスク・シフティングや経営の大規模化・協働化、オンライン診療の活用を推進する」
「創薬力を強化し、科学技術力の向上とイノベーションを実現する。がん・難病に係る創薬推進等のため、臨床情報と全ゲノム解析の結果等の情報を連携させ搭載する情報基盤を構築し、その利活用に係る環境を早急に整備するとともに、「がん対策推進基本計画」の見直し等がん対策を推進する」
「令和4年度診療報酬改定により措置された取組の検証を行うとともに、周知・広報の推進とあわせたリフィル処方箋の普及・定着のための仕組みの整備を実現する」
「新型コロナ対応の経験を踏まえ、コロナ入院患者受入医療機関等に対する補助の在り方について、これまでの診療報酬の特例等も参考に見直す。国保財政健全化の観点から、法定外繰入等の早期解消を促すとともに、普通調整交付金の配分の在り方について、方向性を示すべく地方団体等との議論を深める」
「全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の更なる集積、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実、歯科医療職間・医科歯科連携を始めとする関係職種間・関係機関間の連携、歯科衛生士・歯科技工士の人材確保、さらに歯科におけるICTの活用を推進し、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む」
(コメント)保険給付の負担の見直しの検討かかりつけ医制度の創設が同じ項にある。かかりつけ医の認定制度がどうなるかはまだ定かではなないが、かかりつけ医以外の受診に対する一定の患者自己負担については今後検討されるだろう。また、地域医療連携推進法人を手段の一つとした地域医療構想の推進を明記。昨年も盛り込まれているが、法制上の措置にまで踏み込んだ記載になっている。地域医療構想の当面のゴールは2024年度末。時間はあまりない。そして、2024年度は診療報酬・介護報酬の同時改定。また、デジタルプラットフォームの基盤整備を急ぐとともに、医療法人等の経営状況がわかる開示情報システムの整備も明記。この開示情報システムについては、医療関連団体の調査では反対が多いが、国の調査結果はその逆の結果。国が行う調査の多くは、国が進める政策の根拠を作り。COVID-19感染拡大に対する様々な手当や特例に対する批判もあることから、進めていくこととなるのが濃厚。問題は、情報開示のレベル。そして、やはり盛り込まれたのが「リフィル処方箋」。周知・広報に熱心な保険者に対するインセンティブを与えるなど検討されていることが春の建議でも提示されている(2022年・春の建議を読む ~地域医療連携推進法人に包括支払の導入、地域フォーミュラリ、リフィル処方箋など~)。個人的には、薬局側での対応が重要だと考える。血糖測定や血圧測定などを行える薬局や認定薬剤師がいるなど、これから検討される機能強化型地域連携薬局に限定するなど重要だと思っている。最後に歯科健診の義務化。フレイル対策などで重要なのはわかるが、今年は参議院選挙の年ということもあってのことか。
基本的にはこれまでの骨太方針の流れを継承しつつ、COVID-19感染拡大で露呈した緊急時の対応へ備えの不足や傷ついた経済や社会生活から、アフターコロナ時代に向けたリニューアル社会創りがテーマ。そこでは、デジタルプラットフォームの整備や場所にとらわれない様々な社会活動を支援することが重要だ。医療も同様で、オンライン診療やリフィル処方箋、在宅医療の推進がまさにそれだ。最終的な取りまとめがどうなるか、この1週間の動きが注目だ。