令和5年11月10日、東京都より「診療報酬改定等に関する緊急提言について」と題された資料が公表された。行政機関としても医療機関の物価高騰・人件費高騰への対応に苦慮する中で開催・議論された財政審での「診療報酬マイナス改定」を主張する議論が大きな影響を与えたのではないかと思われる内容(参照:財務省・秋の建議に向けた議論を開始。診療所・病院・薬局別に注目ポイントを確認します。)となっており、「都は地方と比較して用地費や人件費等のコストが高く(地価は全国平均の4.8倍等)、診療報酬上、入院基本料等において地域加算が行われているが、都の実態が十分には反映されたものとなっていない。 さらに、光熱費や食材料費が高騰する中、公定価格である診療報酬を主な収入源とする医療機関では、物価高騰の影響を価格転嫁することができず、値上がり分は医療機関の持ち出しとなるため、診療活動や入院患者への食事提供など医療提供体制への影響が懸念される」と東京都独自の課題も織り込み、危機感を鮮明にしている。
緊急提言の内容は以下の4点で構成されている。
【提言1】
患者サービスを向上させるとともに、医療機関の経営を安定化させるため、入院基本料に対する地域加算等の診療報酬について、人件費、土地取得費、物件費等、大都市特性を十分に考慮し、必要な改善を行うこと。
【提言2】
(1)光熱費の高騰による影響を踏まえ、医療機関等が安定的・継続的に事業運営できるよう、診療報酬を適切に見直すこと。
(2)医療機関の入院時食事療養費について、患者の負担増とならないよう配慮した上で、現下の物価高騰の影響を適切に反映すること。
【提言3】
診療報酬等による看護職員等の処遇改善について、対象となる医療機関を拡大すること。また、医療機関の実情に応じて、看護補助者、理学療法士、作業療法士等のコメディカル職員を処遇改善の対象とした場合に必要となる財源についても確実に措置すること。
【提言4】
(1)感染症法上の医療措置協定を締結する医療機関等が、平時から、感染症対策を適切に実施するための体制を構築し、新たな感染症危機が発生した際に、患者の診察や入院受入れ等を迅速かつ円滑に実施できるよう、施設基準を十分に検討し、必要な経費を踏まえた診療報酬制度とすること。
(2)新興感染症の発生・まん延時に高齢者施設等で感染者が多数発生した場合に備えて、平時から嘱託医や医療機関等が連携して医療を提供できるよう、往診等にかかる診療報酬を適切に評価すること。
提言1は、東京都の事情、地価が全国平均と比較して4.8倍になること、医療業に係る事業所従事者の月収が他の都道府県と比べて高いなどを踏まえた要望となっている。以前、本ブログでもお伝えしたが、地域別診療報酬の設定は現状のルールでも対応することは可能だ。それは、医療費適正化計画を実現するために必要な取組であり、必要な手続きを踏めば実現できる(参照:医療費適正化に向けた議論を確認 ~後発医薬品の推進、入院から外来診療への移行の促進など~)。今回の緊急提言がそこまでを意識したものかどうかまではわからないが、今後、他の道府県からも地域別診療報酬に関する提言・要望が出てくる可能性もあり、数が多くなれば地域別診療報酬に関する取組が前に進む可能性もある。何よりも東京都から発信された、という意味を深く考えると、今後の各府県と国の対応を注視していく必要があるだろう。